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空きビルでの戦闘 半ゲダツとは…


 仁乃と氷蓮の二人が囚われの身となっている頃、加江須の家には3人の来客がやって来ており彼の部屋へと招かれ腰を降ろしていた。

 この部屋の主である加江須は部屋の中に入る3人を見ながら疲れたような目をしていた。


 「たくっ…母さんと父さんを誤魔化すのには苦労したぞ」


 「あはは…なんかごめんね」


 加江須の愚痴を聞いて余羽が少し申し訳なさそうに力なく笑う。そんな彼女と同じように笑っているのはディザイアだ。しかしこちらの笑みは申し訳なさからなどではなくどこか愉快そうに笑っているのだ。

 

 「しょうがないじゃない。あのまま外で長々と話す訳にもいかないでしょ。それにしてもあなたの両親って中々におおらかな性格ねぇ。そこの余羽さんは同じ学校の生徒だから兎も角、得体の知れない私とヨウリも知り合いの一言で中に入れてくれたんだから」


 「まあウチの両親はどこか抜けていると言うか…いやそれより!!」


 自分の両親の天然具合に少し頭を悩ませていた加江須であるがすぐにハッとなって座って居た椅子から勢いよく立ち上がる。本当ならばわざわざ家に入れずに外で話を全て聞きたいところであったが、興奮気味の加江須に偶然にも通行人が通りかかり不審そうな眼をしながら様子を遠巻きに見て来て、やむなく一番近くである自分の家の中で話をする事となったのだ。


 「話の続きだ。仁乃と氷蓮はお前と同じ人型のゲダツに囚われているんだよな?」


 家に入る前、先程に外で少し聞いた話の内容を再度確認する加江須。


 このディザイアから聞いた話の一部分はこうであった。

 仁乃と氷蓮の二人は現在ゲダツに囚われておりとある空きビルに居るそうだ。そして相手の狙いは加江須を喰らって自分の強さをさらに高める事であった。ゲダツは転生戦士を喰らうと爆発的に力を伸ばせるのだ。

 そこまでの話は外で聞いたのだが分からない部分もある。どうしてこのディザイアがそのゲダツの事や仁乃と氷蓮が囚われている事を知っているかだ。


 加江須が口を開くよりも先に同じような疑問を感じた余羽が手を上げてディザイアに質問をした。


 「あの、ディザイアさんはどうしてそこまで詳しく知っているんですか?」


 「ああ、それは簡単よ。だって面識があるもの」


 あっけらかんとした感じで普通に回答するディザイア。

 特に隠すつもりもなかったのか、彼女は表情を全く変化させずに堂々と答える。


 「久利加江須君。あなたはもう知っているでしょうけど私の様な人の姿を成すゲダツはそうそう居ないわ。大概のゲダツは獣だの怪物だのと人間からかけ離れた容姿をしているわ」


 「ああ、俺がこれまで相まみえたゲダツは大概が化け物だった。ただ唯一とある廃校でお前同様に人間の女性と変わらないゲダツと戦ったがな」


 かつての廃校で仁乃、氷蓮の二人と協力して共に倒した名も無き女ゲダツを思い返す加江須。その時の事を思い返すと必然的にその現場に居合わせたヨウリの方へと視線が向いた。


 「俺としてはあの場に同じく居たはずのあんたがどうしてこのディザイアと一緒に居るのかも気になるがな。恐らくだがあの時にお前も居たんだろディザイア。そして死に掛けていたヨウリをあんたが助けた」


 「ええそうよ。今にも死にそうだから可哀そうでね」


 これまた同じくさらりと答えるディザイアだが、先程とは違い補足説明を入れて来た。


 「でも彼を助けた方法は回復だとかそんな生易しい方法ではないわ。少し彼の身体を弄って助けてあげたのよ」


 そう言いながらディザイアはヨウリへと目配せをする。

 彼女が何を言いたいのか分かったのかヨウリは一度目を閉じた。その数秒後に再び目を見開いたが彼の瞳の色を見て加江須と余羽が息をのんだ。


 「何だ…その瞳の色は…いや、それよりもこの気配は…」


 加江須が驚いたのも無理はないだろう。先程までは普通の瞳をしていた青年が瞼を一度閉じた後にもう一度開くとその瞳はどす黒く変色していたのだ。白目の部分は黒く染まり、そして黒目であった部分は赤く変色しているのだ。どう考えても普通の人間の色彩ではない。しかし加江須が驚いている理由はそれだけではないのだ。


 「この気配ってまさか…」


 余羽の方も瞳の色意外にもう一つの変化に気付き、その正体を口にした。


 「ヨウリさんって人間じゃないの? この感じ…これってゲダツの気配なんじゃ…?」


 そう、今のヨウリから感じる気配は間違いなくゲダツの気配に非情に近いのだ。本物のゲダツと比べればまだ不快感は薄いのだが、それでも間違いなく彼から感じ取れる気配はゲダツのものだ。


 「どういう事だ? お前は人間だったはずだよな。それとも実はあの時は襲われている演技でもしていたゲダツだったのかよ?」


 僅かに瞳を鋭くさせる加江須であるが、そんな彼の誤解をディザイアが解いてあげる。


 「心配しなくても彼は元々は人間よ。私の力でゲダツにしてあげたのよ。まあゲダツと言うよりは〝半ゲダツ〟と言った方がいいかしら」


 「えっと…半ゲダツって何?」


 ディザイアの聞き慣れない単語に余羽は加江須へ質問するが彼も何も答えられなかった。

 半ゲダツなど加江須もこれまで一度も聞いたことは無い。もちろん自分よりも先に転生戦士となった仁乃や氷蓮からもそんな単語は聞いた事が無かった。

 全く知らないワードに首を傾げている二人にディザイアが半ゲダツについての解説をしてくれた。


 「半ゲダツは言うならばゲダツの劣化版と言えばいいかしら。ゲダツの持つ力を人間や動物に取り入れて超人的な力を持った存在。まあ手に入れる戦闘能力は純粋なゲダツよりも劣るわ。もちろん特訓次第では実力も上げる事が出来るし獣同然のゲダツを討伐する力も身に着けられるかもしれないけど」


 「…人間からゲダツに成るなんて出来るのか?」


 女神イザナミから聞いた話ではゲダツは人々の悪感情から誕生する存在のはずだ。人間からゲダツになる事例なんてあるのだろうか…。

 

 「……あ…あの時…」


 そこまで口にすると体育祭での出来事を思い出す加江須。

 確か体育祭では自分に因縁を付けて来た男子生徒がゲダツへと変貌した実例があった。そう考えると人間がゲダツに成る事は有り得ない訳ではないだろう。

 1人で納得をしている加江須にディザイアは人間が半ゲダツになる過程を話し始める。


 「人間がゲダツに成るためにはゲダツの血を一定の量を取り込むのよ。ただし低級なゲダツの血なんて取り入れても肉体は変化しないわ。私の様に限りなく人間に近づいているゲダツの血に限った話だけど」


 「じゃあお前の血を飲めば人はみんなゲダツに変わってしまうって事かよ…」


 それは冷静に考えればとても恐ろしい話だ。もしも目の前で不敵に微笑んでいるこの女が豹変して自分や余羽に無理矢理にでも自身の血を取り込ませようとすればゲダツにされてしまうと言う事だ。

 加江須と同じ思考に至った余羽はいつの間にか加江須の背中へと隠れていた。


 「あらあらそんな警戒しなくても大丈夫よ。あなたたちには私の血は何の効力も無いのだから」


 それは一体どういう意味かと加江須が尋ねると、血を取り込んでも必ずしもゲダツに成る訳ではないとディザイアは説明をする。


 「ゲダツの血は転生戦士、もっと正確に言えば大きな神力が血に含まれる成分を浄化してしまうのよ。だから転生戦士はゲダツに成る事はないわ。そして血を取り込んでも必ずしもゲダツに成るわけではない。上手く血に順応できれば半ゲダツと成れるけど順応できなければ――死に至るわ」


 「ええ、し…死ぬって…!」


 「具体的に言えば身体が内側からドロドロと溶けたり、身体が肥大化して破裂したりとかね♪」


 面白半分に失敗した場合の死に方のパターンを話すディザイア。言葉にされると嫌でも頭の中で連想してしまった余羽は口元を手で押さえてうえっと小さくえづいた。

 余羽とは違い嫌悪感は感じても吐き気までには至っていない加江須はディザイアの隣に居るヨウリに尋ねる。


 「知っていたのかあんた。この女に下手をすれば殺されていたかもしれないことを」


 「あら人聞きの悪い事を。断っておくけど私は自分の血を取り組む事を強制したわけではないわ。最終的に選択をしたのは彼よ」


 ディザイアは無理強いなんてしていないと頬を膨らませて心外だと言う素振りを見せるが、加江須は彼女ではなくヨウリに詳しい話を聞くことにした。


 「実際にどういう経緯であんたはゲダツ、いや半ゲダツに成ったんだ?」


 「まぁ…他に生き残る可能性が無かったという事かな。あの時、俺は生死の狭間を彷徨っていた。あの時にあんた達が近くに居たみたいだけど戦闘中だったんだろ。その時にこの女が現れたんだよ。そしてこのまま死ぬか、可能性に賭けて自分の血を飲んで半ゲダツに成るか、その選択をぶら下げたんだよ」


 もし仮にディザイアの提案を呑まなければ確実に自分は死に至る。しかし怪しげではあるがディザイアの提案を呑めば生き残れる可能性も出てくるのだ。であれば生き残るための最善と思える選択を自分の意思で選び、その結果彼は賭けに勝ち半ゲダツとなって生き残れたのだ。


 「半ゲダツに成った事はそこまで後悔していない。そうしなければあのまま土の上で死んでいただろうしな」


 「そうか…それがあんたの選んだ道なら俺が気安くとやかく言うべきじゃないな。ならこの件はこれでいい。だがまだ聞きたいことはある」


 そう言うと加江須は目線をヨウリからディザイアに変更する。


 「俺が聞きたい本命はこっちの方だ。仁乃と氷蓮を攫ったゲダツとはどういう関係なんだ。洗いざらい話してもらうぜ」


 そう言いながら加江須は指先に小さな炎を発火させ、手の形を銃に見立ててディザイアへと突き付ける。

 加江須の自室に漂う空気の重圧が一気に増した。もしもお前も仁乃と氷蓮を襲ったゲダツの仲間であるならばどこであろうと敵とみなして攻撃を開始する、たとえ自分の家が戦場になろうとも。彼の瞳を見れば口に出さずともそう読み取れた。


 「焦らなくても今からあなたの恋人を襲ったゲダツに関する情報を提示するわよ。ついでに言えば…あなたが奴の元まで出向くまではあの二人も食われることは無いわ」


 そう言うとディザイアは加江須がもっとも知りたがっているゲダツ、サーバントについて、そして自分との関係性について語り始めるのであった。



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