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購買での再会と一悶着


 学園に登校して自分の教室へとたどり着き席に着く加江須。クラス内の喧騒の中、彼は先程まで一緒に並走して登校して来た少女の事を考えていた。

 赤橙色の髪を両端で縛ったツインテールに口から除く八重歯、そして少し強気な性格をした勝気な少女。玄関までは一緒だったがそこで別れたのだ。


 その際、捨て台詞の様に少女はこう言った。


 ――『覚えてなさいよ変態。後で時間を見つけてアンタに遭いに行ってやるわ! まだまだ言い足りないんだからね!!』


 頬をリスの様に膨らませながらズンズンと歩き去っていた少女。

 あれだけ怒りを覚えたのであればいっそ極力顔を見ないように努めた方が賢明な判断だと思うのだが……。


 「(そもそも俺、彼女の名前すら知らないんだぞ)」


 朝から名も知らぬ女子に変態呼ばわりされて少し気落ちする加江須。しかし誤解とは言えきっかけは自分の前方不注意にもあるため彼女だけを非難する事も出来なかった。

 

 とりあえず次に会ったらまずは誤解の方だけは解いておこうと決心するのであった。


 「…ん?」


 何気なく視線を窓の方に向けると視界に映った光景に違和感を感じた。

 教室の窓側、その一番左の列の席順に1つ空白が出来ていたのだ。


 ――あそこは確か義正の席があった場所……。


 そこまで考えると視線を窓側からクラスメイト達へと向けていく。

 誰も彼もが不自然に空いている空白の空間に疑問を抱いている様子はない。昨日まで教室に備わっていた机が消えているのに気にしていない、いや席が1つ消えた事実に気づいてすらいない。


 そこまで考えると加江須は義正に対する考えを捨て、彼の事をもう考えない様にする事にした。

 



 ◆◆◆




 4限目の授業が終了してお待ちかねの昼休みとなった。クラスの皆はそれぞれ学食に向かったり教室で弁当箱を広げたりなどしており、弁当を持参していない加江須は教室を出て学食…ではなく購買へと向かった。

 大して腹が空いていないので軽くパンでも買って食べようと思い購買の方を選択したのだ。


 目的の購買へとたどり着いた加江須。そこで販売されているパンのコーナーを見て食べたいパンを選ぶ。その中で特別深くは考えずにジャムパンを選んでそれを買おうと思い手を伸ばした。

 ジャムパンの袋に手を伸ばす加江須であるが目的のパンに他の生徒も手を伸ばしており、空中で手と手がぶつかった。


 「ああ悪…い…」


 「こっちこそごめ…ん…なさい」


 お互いに手がぶつかった相手に謝るが、ぶつかった相手の顔を互いに確認し、両者の言葉が途切れ途切れとなった。


 加江須と同じ物を買おうとした相手は――今朝のツインテール少女だったのだ。


 「………」


 「………」


 お互いに見つめあったままその場で固まってしまう。

 しばしの静寂の時間が経過し、その止まった自分の時間を先に動かしたのは少女の方であった。

 

 「何でアンタがここに居るのよ!!」


 「いや…何でって言われてもパンを買おうと思ったから…」


 「何でパンなんて買うのよ!!」


 「いやそれは理不尽だろ」


 購買に来る権利位は自分にだってあるはずだ。そこを責められるのはさすがに理不尽すぎるだろうと思い口に出そうとするが、それよりも先に向こうに口を挟まれる。


 「てゆーか手! 私の手と触れるなんて…け、今朝と言い私の体に興味でもあるの!?」


 「なんでそうなるんだよ!? 手がぶつかっただけだろ!!」


 「うるさいうるさい変態めぇ!!!」


 ブンブンと両腕を回してガーッと噛み付いてくる少女。

 それを宥めつつ誤解だと訴える加江須であるがヒートアップした少女の声量は大きさを維持し、次第に次々と二人の周囲に生徒達が何事かと集まって来た。


 「(まずい、この流れは今朝と同じ…!)」


 これ以上ここでコイツと話していればさらに人を集めて恥ずかしい意味で注目を集めてしまう。


 「ええい、ちょっと付き合えお前!」


 「ええ付き合えって何!? やっぱり私に気があるわけ!!」


 「そういう意味じゃない! この場から離れようという事だ! おばちゃん、ここにジャムパン2つのお金置いておくから。釣りはいらない!」


 目をグルグルと回しながら誤解の嵐が止まらない少女。

 しかし今は誤解を解くよりこの場を退散すべきと判断し、パンの代金を払うと彼女の手を握って急いで人の少ないであろう場所を模索しつつ購買から離れて行く。

 手と手を握られた少女は顔が真っ赤に染まり煙が出てショートしかける。


 「てててて、手を握って…へ、変態めぇ…」


 「いいから来い! お前のせいで俺まで悪い意味で注目してしまったじゃないか」




 ◆◆◆




 購買からダッシュで離れた加江須たちは学園の屋上へとやって来ていた。

 昼休みとあって生徒が至る所で確認でき人の少ない場所と言えばここぐらいしか思い浮かばなかったのだ。


 とりあえず屋上には誰も居なかった事を安堵した加江須は握っていた少女の手を離す。


 「ようやく二人になれたな」


 深い意味はなくそう言った加江須であるが、ここまで手を引かれた少女はそのセリフを聞いて『はうっ』と何やら変な声を漏らした。


 「さて…じゃあとりあえずお前に言いたい事がある」

 

 「い、言いたい事って……こ、告白するつもり?」


 もはや狙ってふざけているとしか思えないその勘違いぶりに疲れたように溜息を吐く加江須。

 

 「違うって……お前に言いたい事があるんだよ」


 「……そのお前ってやめてよ。名前があるのにお前お前と連呼されるとなんかいやなんだけど……」


 少し落ち着いてきたのか腕組をしてまた今朝の様な強気な面持ちになった少女。自らの橙色の毛先をいじりながら彼女の方から名前を尋ねられる。


 「アンタ、名前は? まずはそっちから名乗りなさい」


 ビシッと指をさしながら名前を尋ねる少女。

 確かにここに来るまで自分も、そしてこの少女も互いの名前を知らない。まずは自己紹介から始めるべきだと納得して加江須の方から名乗った。


 「俺の名前は久利加江須だ。2年1組所属の生徒だよ」


 自分の名前とクラスを教える加江須。

 すると今度は少女が自分の名を名乗って来た。


 「私の名前は伊藤仁乃(いとうにの)よ。クラスは2年3組で帰宅部所属よ!!」


 なぜか帰宅部などと何もせずただ下校するだけの部活名を自信満々に口にする仁乃。

 大声で帰宅部など恥ずかしくはないかと思わず呆れる加江須であるが、そんな彼の表情を見て何を考えているかを察した仁乃は不敵に笑う。


 「アンタ今、帰宅部である事を誇らしく宣言して恥ずかしなぁ~…とか思ったでしょ」


 「まあそれは…普通はそうだろ」


 「ふふん、何も知らないからそう言えるのよ。ただ放課後に遊びに出歩いたり家へと直帰する奴等と私は違うのよ」


 「ほーう。具体的にどう違うんだ? 是非教えてほしいもんだな」


 大して興味なさげに一応理由を訊いてやろうとそれなりに気遣いを見せる加江須。

 だが、いかにも興味ありませんと言った失礼なその反応に少し頬を膨らませる仁乃。


 「ちょっと真面目に聞いているの? 私が帰宅部である事はある使命を課せられているからなのよ」


 「何だよ使命って?」


 正直ここに来てこの仁乃と言う少女に嫌な気配を感じ取る加江須。

 真面目な顔で使命なんて宣うとは。もしかして最近では全然見ない中二病を患っている絶滅危惧種なのではないか……。


 「(真面目に聞くだけ損だな。パンでも食べるか)」


 しかし次の彼女のセリフを聞いて加江須は驚きのあまり硬直した。


 「何を隠そう私は実は一度死んで転生した〝転生戦士〟…あっ!?」


 そこまで言うと彼女はしまったと言った顔で自分の口を塞いだ。

 

 しかし彼女は自分の口を塞ぐ前に一番重要なワードを口にしていた。

 

 「転生…戦士…?」


 加江須はその言葉を繰り返してもしやと思い仁乃に詳しく質問をする。


 「転生と言ったな。つまりお前は一度死んでいるのか?」


 「いや違う違う! えっと…い、今のはジョークよジョーク。アンタを驚かせようと大仰な事を言ってみただけで…」


 どうやら自分がとてつもない失言を滑らせてしまった事に今更気づいたようだ。しかし彼女の狼狽え方からして悪ふざけでも何でもない。今漏らした発言はまごうことなき真実なのだろう。

 

 何よりも他ならぬ自分自身が経験しているのだ。一度死に、そして転生して生き返った事に……。


 「ちょ、ちょっと聞いてる? 今のは全部冗談だからね?」


 「そうか…冗談か…そうなんだな」


 ゆっくりと頷きながらそう呟く加江須。

 何とか誤魔化せたと思っている仁乃は隠し通せたと思ったのかほっと胸をなでおろした。そんな安心しきっている彼女に加江須は独り言の様に呟いた。


 「……俺は一度交通事故に遭った」


 「…へ?」


 突然何の話をしているのかと思い首を傾げる仁乃。

 そんな不思議そうな彼女を差し置き話を続ける加江須。

 

 「車にはねられ、全身は真っ赤に染まり、腕や脚は歪にねじ曲がったんだ」


 「ええ!? それ昔の経験談か何か? ず、随分とハードな過去を持っているわねアンタ」


 「ハードな過去か。正確に言えば今もハードな使命を課せられたと思うよ。何せ…人の存在を喰らう異形と戦ってほしいと神様に頭を下げられたからな」


 「え…ちょっと待ってよ。そ、それって……」


 手に持っていたパンを地面に置いて立ち上がった加江須。

 彼は自分の両の拳を見つめると、その拳に炎が宿るイメージをする。


 ――次の瞬間、加江須の両拳は真っ赤な炎に包まれた。


 握っていた拳を解き、メラメラと燃え続ける腕を伸ばしその状態で仁乃の事を指さし言った。


 「俺はイザナミによって生き返った転生戦士。お前同様ゲダツと戦う存在だ」




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