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血濡れの手紙…私はこの主を知っている…


 目の前で突如として命を落とした水井に呆気に取られていた氷蓮であったが、隣に居た白がいきなり自分の腕を引っ張ったかと思えば彼女は自分の腕を掴んだまま水井の死体に背を向けて全力で走っていた。

 腕を掴まれている氷蓮も当然引っ張られて白に付いて行くしかない。


 「おい急になんだよ! まだあそこで倒れたデブの件が済んでねーだろ!」


 「いえ、もう無駄ですよ。あの方はもう生きてはいないでしょう」


 走りながら一度だけチラッと水井の方を見る白。しかし彼女の眼は自分の様にいきなり目の前で彼が死んだ事に対する疑問よりも焦りの方が強く顔に出ている気がした。


 「とにかく早くここから離れますよ! この状況、もし誰か来たら不味いでしょう…」


 「でもよ……ああそうだな……」


 一瞬だけ白に抗ってこの場に留まろうとした氷蓮であったがすぐに自分の考えが間抜けな物である事に気付く。

 彼女の言う通りあの出血ではあの男はもうダメだろう。そして今は誰も目撃者が居ないがあの死体は出口に続く通路とつながっているのだ。恐らくすぐに一般の客が来てあの死体を見つけ騒ぎになるだろう。

 もしそんな現場にぽつんと残っていたら自分やこの白と言う少女が犯人ではないかと疑われかねない。


 「(殺人犯になるのはまじぃからな。元々俺らはあのデブを殺す気なんてなかったんだしよぉ)」


 だが未だに分からない。自分が冷気であの気色の悪い液体生物を氷漬けにしようとした瞬間に何が起きたのか。そしてもう1つ分らない事もある。それはこの白の血相を変えたような表情についてだ。どちらかと言えば冷静沈着と言ったイメージの彼女が今は明らかに顔色に焦りが見て取れた。確かにこの現場を誰かに見られる事は不味い事ではあるが彼女の焦りはそれ以外にも何か理由があるように思えた。


 「(ん…何だアレは…)」


 ふと自分の腕を握っている反対方向の腕を見てみると彼女は何か紙の様な…いや様ではなく紙を握っていた。よく見れば何か紙に文字も書いてある。

 気にはなりはしたが今はとにかくこの場から離れる事を優先してその疑問を頭の片隅に追いやった氷蓮であった。




 ◆◆◆




 白と氷蓮が引き返している頃、ようやく出血の治まった加江須が仁乃と共にプール場から出ようとしている所であった。


 「たくっ、あんたのせいで出遅れちゃったじゃないの!」


 「し、仕方ないだろ。それに今頃は氷蓮と白の2人が応対してくれてるだろうし」


 「だとしても戦力は多いに越したことは無いわ。私たちも早く合流して加勢するわよ」


 とは言え仁乃も加江須も内心ではどこか安心している部分があったのだ。

 確かに不意を突かれてしまった事は否定しないし出来ないがあの水井とやら、正直なところ戦闘能力に関してはあまり高いとは思えなかった。実際に彼の作り出した生物も加江須が少し火で炙った程度で撃退できたのだ。ここまで長時間の足止めをされたのもどちらかと言えば加江須が鼻血を出していたせいでもあるし……。


 とりあえずはプールの出入り口付近までやって来た二人であったが、それよりも早く白と氷蓮の2人が戻って来た。

 全力で走って来たのか少し呼吸の荒い白を見て加江須が何事かを尋ねる。


 「おい白、どうして戻って来たんだ? もうあの転生戦士は倒したのか?」


 またこのプールに戻って来たという事は二人があの水井とやらを無事に撃破したのかと思ったが、だとすればここまで白が血相を変えて走ってくる必要があるとも思えない。

 不穏な空気を隣にいる仁乃も敏感に察知したみたいで顔つきが鋭さを増す。


 「ねえ…何があったの…?」


 仁乃は恐る恐ると言った感じでそう尋ねると氷蓮が数分前の出来事を話し始めた。




 ◆◆◆




 氷蓮からの一部始終を聞いた加江須と仁乃、その後は急いで4人は一度ウォーターワールドを出る事にする。

 あの水井とやらが死んだ事は当然すぐに一般客に知られてウォーターワールドは軽いパニックが起きていた。男子更衣室前に血みどろの死体がゴロンと転がっていれば当然の流れだ。しかも死体を見つける前に水井の能力で干からびた被害者が3人も出ているのだ。ウォーターワールドの外に出ると同時にパトカーのサイレンが聴こえて来た。今頃は警察でごった返している頃だろう。


 そしてウォーターワールドを出た加江須たちは近くの空き地に集まっていた。


 「……まさかこんな事になるなんてな……」


 足元の石ころをつま先で軽く蹴り飛ばしてぼやく加江須。

 仁乃と氷蓮、そして白も今回は戦いからかけ離れて日常を謳歌したいと願っていたにもかかわらずこのような事態に巻き込まれてしまった。しかも今回は人死にまで出てしまったのだ。


 「それで改めて聞くけど…その転生戦士の男はいきなり目の前で死んだって言うのね」


 ウォーターワールド内ではまずは建物から出る事を優先していた為、事の顛末を軽く二人から聞いただけなのでここで詳しい詳細を訊く仁乃。

 彼女の質問に対して氷蓮は頷きながら自分の見た光景を改めて鮮明に話し始める。


 「あのデブを追い詰めたあの時、アイツは自分の神力と血液で作り出したキモイ生物を俺とこいつにけしかけて来たんだ。その次の瞬間にあの男の腹が裂けてひとりでに死んでいったんだよ…」


 「……そこが分からないな。例えばさ、瞬きした一瞬に何かあったとか…」


 「いえそれはありません」


 加江須が可能性を提示すると白が首を左右に振ってそれは無いと断言した。


 「私はあの時に断じて瞬きなどしてはいません。見たままの事をありのまま話すと彼が攻撃しようとしたら次の瞬間には腹が切り裂かれた…それで間違いありません」


 「まさか…自殺とかじゃないの?」


 追い詰められて精神的に参って自ら命を絶ったのではないかと考える仁乃であるが、そんな彼女の考えに対してまたしても白が迷いなく否定を入れて来る。


 「いえそれもありえない事です。彼は自殺ではなく他者の手によって詰んだのです」


 「何でそう断言できんだよ。まさか実はオメーが殺りましたってか?」


 同じく現場に居たにも関わらず何が起きたか分からなかった氷蓮が白にそう言った。

 もちろん水井を殺したのは白ではない。しかし彼女は彼が自殺などではなく他殺であると断言できる理由があったのだ。


 何しろ自分に…自分たち宛にメッセージが残されていたのだから……。


 「彼が死んだと同時にこの置手紙が私の元にありました…」


 そう言いながら白は幾重にも折りたたまれている紙を取り出して加江須たちに見せる。

 加江須と仁乃は彼女の取り出した紙に対して首を傾げるが氷蓮だけはソレが何か分かった。


 「お前その紙ってあの時の…」


 水井が謎の死を遂げた直後、自分と白の二人はその場から急いで退散した。その時に自分の腕を引っ張っていた方とは反対の手の中に彼女は何か紙を持っていた。恐らく今見せている紙がソレなのだろう。

 

 白は取り出した紙を加江須へと手渡して言った。


 「この紙はあの転生戦士の少年が腹を切り裂かれたのと同様、気が付いた時には私の水着に挟まっていました。そして…その紙に記載されている内容を見て彼が自殺などではなく〝殺された〟と言う事が理解できました…」


 白に手渡された紙を無言でしばし見つめ続ける加江須。閉じられている紙を無言で数秒眺めた後にゆっくりと中身を開いて行く。

 加江須が中身を開くと仁乃と氷蓮も彼の両隣りに移動して一緒に開かれた紙の中身を拝見する。


 「……これは」


 開かれた紙には何やら短い文章がつづられていた。


 「これって…血…よね…」


 白い紙に記載されている文字は真っ赤でどこか毒々しさを醸し出していた。しかも仁乃の言う通りコレは恐らく赤マジックではなく血で文字が書き記されているのだ。

 

 「血書なんて漫画で位しか見た事ねぇぜ。しかもよ…この文がまた気持ち悪さを倍増してんぞ」


 氷蓮はそう言うと加江須の手から血染めの手紙を奪うとそこに書かれている文字を音読した。


 「…血液で書かれている『またあえたね』なんてよ……不気味すぎんだろ」


 まるでホラー映画の様な血の手紙に氷蓮はうげっと顔を歪めている。

 確かにこの手紙は内容と言い、血で文字を書き記している事と言い不気味ではある。しかし一番薄気味悪いのはこの手紙が白の水着に〝いつの間にか挟まっていた〟と言う事実が何よりも得体の知れない部分であった。


 どこから話を纏めるべきか加江須が腕を組んで厳しい目で地面を睨んでいると、この静寂を白が破った。


 「この手紙の主…私はその人物に見当がついています」


 冷たく吹き付ける風と共に彼女の口から出て来た言葉は3人の視線を白の集中するには充分であった。

 水井が死んだときに一緒にその場に居た氷蓮はどういう事かと白に尋ねようとするが彼女に行動を加江須が手で遮って止めた。


 「(……分かったよ。何か言うのはあいつが話し終わってからって事だろ)」


 加江須の眼を見て彼が口に出さずとも何を言いたいのか理解した氷蓮は少し納得できないと言った雰囲気を纏わせながらも渋々と彼に従い口を挟まないでおく。それは仁乃も同じであり彼女もまずは話をすべて聞いてから質問をする事にした。

 誰も話を中断してくる様子が無いので白はそのまま語り続ける。


 「3人ともその手紙の端をよく見てください。文面が不気味で見逃しているかもしれませんが紙の端の方に何か書かれていませんか?」


 そう言われて注意深く見てみると確かに紙の端の方に何かが書いてある。


 「何だこれ…ドクロ?」


 紙の端に書いてあるのはドクロを連想させるようなイラストであった。しかしただの落書きとは思えない。何か意味があって描かれているのだろうがまるで意味が解読できない。しかしそのイラストの意味を白だけは理解していた。


 「ドクロの中に小さく数字が書かれているでしょう。前頭部に当たるであろう場所に〝41〟と……」


 白に言われた通りドクロの前頭部には41と数字が記載されている。だが一体これが何の数字を意味しているのかは理解できない。

 そんな風に3人が数字の意味を考えていると白が答えを教えてくれた。


 「そのドクロは討伐完了を意味している物です。そして数字はこれまで葬って来た者達の数です。ゲダツも含めてね……」


 「……どう言う意味だ? 葬って来た…?」


 「そのドクロのマーク、私はよく知っています。何しろそのマークの意味を本人から聞いているのですから」


 そう言いながら彼女は思い返していた。まだこの消失市に引っ越して来る前、自分の通っていた学園で戦いに魅入られた自分と同じ転生戦士の事を。その彼女はゲダツを倒すたびにノートなどにこのマークを記入していた。自分が戦いに勝利し、そして生き残った証として……。


 「そのドクロのマークは私たちと同じ転生戦士――仙洞狂華の討伐完了を示すマークです!!」


 今まで落ち着き払っていた冷静な口調を崩し、そのマークを自分たちに残して言った少女の名前を白は感情をむき出しにした大声で言い放った。

 

 


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