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プールに行こう 転生戦士との対決 4


 仁乃のゲダツと言う単語に反射的に反応をしてしまった水井は今更ながらにしまったと心の中で後悔していた。もしも自分が転生戦士でなくただの一般人であればゲダツと言う単語を聞いても反応などしない筈だ。それに反応したと言う事はつまり――


 「…やっぱりお前」


 加江須が一歩間合いを詰めて水井へと近寄る。今までも半ば犯人と思っていた疑いが確信に変わった証拠だ。

 

 「(ま、不味い。今ので完全に疑われた! それにゲダツなんてワードを知っているという事はこの2人も俺と同じ……)」

 

 相手が一般人であれば自分の様な肥満体でも逃げ切れる自信はあるが、相手が同じ転生戦士であるとするなら分が悪すぎる。

 しかしまだ自分はこのプールで人を襲った事は漏らしていない。そして自分の能力もまだこの二人は知らない筈だ。


 「な、何の事だ? ゲダツ? そっちの女の子が急に変なコトを言ったから反応しただけだって…」


 そう言いつつゆっくりと後ろに下がって行く水井。だが今の仁乃のゲダツ発言に反応してしまった以上はもう誤魔化せないと自分でも十分に理解している。今自分が背後に下がっているのは逃げる為ではない。目の前の男の視線を自分に集中させて周囲に対する確認を疎かにするためだ。


 「お、落ち着いてくれって。俺は本当に何も知らないんだ」


 「何も知らない。そうは思えないが…!?」


 じりじりと後退して行く水井に距離を詰めようとする加江須であるがここで脚に異変を感じる。

 

 「何だ…?」


 自分の脚を見つめる加江須であるが特に何の変化もない。そう、視覚と言う観点からは何の変哲もないいつも通りの自分の脚だ。しかし感覚と言う点では違った。明らかに自分の脚に何か異物が張り付いているのだ。

 

 脚に手を伸ばそうとした瞬間、突然全身の力が抜けて行く感覚に襲われる。


 「なっ、これは…!?」


 右脚のすねの部分から全身の力がドンドンと吸い込まれていく感覚に陥る加江須。その隙を逃さずに水井は一気に全力でその場から離れて行く。

 

 「待てお前!!」


 加江須が呼び止めようとするが当然の如くそんな静止の言葉を振り切り逃げて行く水井。

 急いで後を追おうとするが全身の力が抜けて行く。特に右脚の方からドンドンと。


 「か、加江須…なんか変よ。んあ…何か変な物が張り付いているわ…んん…」


 隣に居る仁乃は両の太ももをペタンとタイルにつけて苦しそうな顔をしている。明らかに自分と同じであの水井から何かしらの攻撃を受けていると見ていいだろう。


 「脚に何か居るのか…?」


 力が一番ドンドンと抜けて行くその部分、右脚のすねの部分を触ろうとすると何やら奇妙な感触を感じた。どこかブニブニとしている弾力のある感触。目では見えない透明な何かが脚にへばり付いているのだ。


 「コレか。この見えない何かが力を…神力を吸い取ってやがるんだ」


 恐らく透明な生物を生みだす事が出来る、それがあの男の能力なのだろう。

 

 「だとしたら対処は簡単だ」


 そう言うと加江須は自らのすねにへばり付いている生物を剥がそうとする。しかし無理やり剥がそうとすると――


 ――ぶぢぢぢぢ……


 「いっ!?」


 見えない何かを無理やり剥がそうとすると加江須のすねの皮膚から僅かに血が出始める。どうやら想像以上の吸着力で無理に剥がそうとすれば皮膚ごとベロッといきかねない。

 力づくで剥がす事が得策ではない事を瞬時に理解した加江須は手に平に小さな炎を発生し、その炎ですねにタコの様にへばり付いている生き物を炙ってみた。


 「チュミイィィィィィィ!!!」


 「うわっ、気色ワル!?」


 炎で炙ると透明なので口があるかどうかは定かではないが何やら気色の悪い断末魔を上げる生物。そのまま自分のすねにへばり付いている生き物の体積が縮んでいく事を理解できた。

 それからしばし炙ると脚に付いていた何かがへばり付いている感触が無くなった。


 「(この生き物が寄生虫の様にへばり付いて力を根こそぎ吸っていた訳か。神力を吸い取られた感じがしたが…神力を持ってない一般人は俺たち以上に力が凄い勢いで吸い取られてああなったってわけか)」


 加江須が今考えている通り、本来であれば水井の能力で作り出された液体生物は普通の人間相手ならば貼り付いてから1分もすれば干からびさせる事が可能である。しかし神力を持っている者は生命力が一般人よりも遥かに多いため加江須を干からびさせるには至らなかったのだ。しかしいかに神力を持っている者でもあのまま10分も無防備に貼り付かれていれば干からびていただろう。


 そんな危険な生物だといまいち理解できていない加江須であるが、どちらにせよ黙って力を吸い取られる訳にもいかず今度は仁乃の方の対処をする。


 「どうやら目には見えない透明な生物を作り出す事がアイツの能力らしい。仁乃、見えないだろうが今はお前の体のどこかにヒルの様にへばり付いている筈だ。違和感を感じる場所はどこだ?」


 加江須が仁乃の身体に貼り付いている方の液体生物も駆除しようとする。火で軽く炙れば取れる事は分かったので対処は簡単だ。少し熱いだろうが我慢してもらうしかない。

 手のひらの温度を高めてどこに違和感があるのかを尋ねる加江須であるが……。


 「………」


 「おい仁乃、黙ってないでどこに違和感が感じるのか教えてくれ。この生き物、どうやら力を吸い取っているみたいだ。早く取らないとあの男女みたいに干物になるぞ」


 一刻も早く仁乃の方にも貼り付いている液体生物を除去しようとする加江須であるがどういう訳か仁乃は無言のまま何も答えてくれない。ずっと顔を赤くしたまま無言で俯いている。


 「おい仁乃、どこに違和感を感じるか早く……」


 何も言わない仁乃にじれったくなり彼女の肩に手を置く加江須だが、その直後仁乃の胸元の水着が内側から不規則に動いた。


 「んん…動かないで…」


 どかこ熱っぽい声で自分の胸元に視線を送る仁乃。すると再び仁乃の胸元の水着が内側から奇妙にモゴモゴと動いた。


 「ま、まさか…〝そこ〟に居るのか?」


 加江須が仁乃に貼り付いている液体生物の所在を確認すると仁乃は恥ずかしそうにしながらコクンと頷いた。


 「あ、あのエロ野郎!! 人の彼女の胸元になんつー事を!!」


 そう言って怒りの炎を爆発させる加江須であるが、その怒りに任せて水着を引っぺがす訳にもいかずどう処理すべきか戸惑う。しかもずっと同じ場所で座り込んでいたせいで何かあったのかとスタッフが近づいて来て声を掛けて来た。

 

 「あのお客様…どうかしましたか?」


 「あ、いえ、何でもないですハイ!」


 「でもそちらの女性…何だか熱っぽい様に見えますが…体調でも悪いのでは?」


 「何でもないのでお気になさらず!!」


 そう言って仁乃の手を取って急いで物陰に隠れる二人。

 誰も近くに居ない事を確認した後に仁乃の様子を窺う。まだ干からびてはいないが今も神力を吸い取られているために彼女は苦しそうな顔をしている。


 「や、やばい…早く仁乃にへばり付いているこのクソッたれ生物を取らないと…」


 しかしへばり付いている場所が場所のせいでどうすべきか困り果てる加江須。

 もし自分が女であればそこまで恥ずかしがらずに対処できたのだろうが……。


 どう手を出すべきか迷っていると仁乃が加江須の手を握って囁いた。


 「いいわ加江須。胸元に貼り付いているこの気持ち悪い生き物…取ってちょうだい」


 「あ、ああ。でもそれはよぉ…」


 「もう、意気地なし…早くやる!!」


 そう言うと仁乃は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも加江須の腕を自分の胸と水着の間に滑り込ませた。


 「!!!???」


 まさかの仁乃の行動に加江須は手に平でなく顔からボンッと炎とついでに鼻血を出して目を白黒させた。驚愕の余り彼の口からは思うように言葉が上手く出てこない。


 「おおおおおおお前、なななななな何を!?」


 「力づくで引っ張ると皮膚が剝がれちゃうでしょ。ほら、早く胸に引っ付いているナマコみたいなコイツを燃やしちゃって」


 「いやあのその!?」


 「ああもうっ、あんただったら気にしないわよ! いいからやる!!」


 「は、はい!」


 いつまでも煮え切らない恋人にうがーっと八重歯を見せて吠える仁乃。その勢いに押されて手に平ひ微かに炎を纏い仁乃の胸にへばり付いている生き物を炙っていく。


 「(な、何やってるんだ俺は…凄くいけない事をしている気が…)」


 厳密にいえば彼が触れているのは仁乃の胸の表面に貼り付いている液体生物であるのだが、水着の中に手を入れている彼はまるで直接仁乃の胸部に手を当てている気分になってしまいまたしても鼻血がボタボタと垂れて行く。

 決して仁乃が火傷しない様に、そして水着が燃えない様に炎をコントロールして液体生物を焼き殺していく。途中から何やら液体生物の断末魔が聴こえて来たが今はそんな事など全く気にもならなかった。


 「よ、よし…終わった…」


 液体生物が蒸発した事を確認した加江須であるが、仁乃の胸にへばり付いていた液体生物が居なくなったという事は彼の手の平はそのまま――


 ――ふにょん…


 何やらマシュマロの様な柔らかな感触と心地よい温もりが手に平に伝わって来た。その直後に自分の手の中に納まっている物を脳が理解したと同時に加江須は遂に限界を迎える。


 「ぶばはっ!?」


 加江須は喉の奥から短い声と共に鼻から赤い鮮血をぶちまける。

 そのまま至近距離に居た仁乃の顔に思いっきり加江須が噴出した鼻血が浴びせられる。


 「ぷあっ!? ちょっと何してんのよバ加江須!!」


 「ちが…違う。わ、わざとじゃ…」


 水着から手を引き抜いて鼻を押さえる加江須。しかし未だに鼻からは赤い果汁が零れ落ちている。その血は腹部や海パンにまで垂れておりまるで重傷者そのものだ。


 「もうっ、こんな事をしている間に逃げられちゃうわよ!!」


 目元の血を拭いながら仁乃は出口の方へと視線を向ける。

 当然の事だが水井の姿はもうどこにも見当たらない。自分たちがこうしてバカをやっている間にもう逃げてしまっているのだろう。

 

 目の前で鼻血を出し続けている加江須にどうする気なのか焦りを見せていると、鼻を押さえながら加江須は大丈夫だと告げる。


 「心配するな仁乃。あの男はまだ俺たちから逃げ切ってなんかいないからよ」


 「鼻血垂らしながら何を間抜けな事を言ってるのよ。もうどこにもアイツの姿は見えないわ。今頃はこのウォーターワールドから脱出しているわよ」


 顔を拭い終わった仁乃が出口の方を指差し急いで後を追う様に急かすが相変わらず加江須は落ち着いている。鼻血を出しながらではあるが……。

 一体何を余裕ぶっているのかと苛立っていると加江須が口を開いた。


 「俺たちの他にもまだ二人いるだろ。犯人を見つけようと奮闘していた転生戦士が」




 ◆◆◆




 加江須たちの足止めをした水井は急いで更衣室から服を引っ張り出すと水着も脱がずにそれを身に纏った。シャワーも浴びず、濡れている身体もろくに拭かず水滴で服が肌にへばり付くが今は気にしていられなかった。


 「(よし、このまま一気に外まで脱出だ!!)」


 衣服を入れていたロッカーの扉も閉めずに急いで男性用更衣室を出る水井であるが、更衣室を出てから僅か数歩で足を止めた。


 出口まで続く通路を遮るように二人の女性が立ちはだかっていたからだ。


 「ちょっと待ってくれませんかね。あなたには色々とお話したい事があるので」


 「このまま帰れると思ってねーだろうなボケ」


 白髪の少女と黒髪のポニーテイルの少女が並んで通路を塞ぎ、前方でたじろいでいる水井を鋭い眼光で見つめ、いや睨みつけていた。


 「だ、誰だお前らは…」


 声を震わせながら水井が後ずさる。

 そんな彼の質問に答える様に二人はそれぞれ普通の人間が持っていない力を披露した。


 「神正学園2年生の武桐白、持っている特殊能力は『空気から物質を生み出す』こと」


 「黒瀬氷蓮、手にした能力は『氷を操る』ことだ」


 二人は自己紹介と共にそれぞれ利き腕に氷蓮は氷の剣を、白は日本刀を作り出し両者は揃って水井に向けて切っ先を向けるのであった。

  


 

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