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プールに行こう 転生戦士との対決 1


 「うーん…」


 休憩所では目元にタオルを被せて仁乃の膝の上に頭を置いている加江須が唸っていた。

 つい先程に大量出血のせいで意識を一時失ってしまい、この休憩所に大至急仁乃と氷蓮に運ばれたのだ。


 加江須の恋人たちが心配そうに彼の事を見守っていると、意識を取り戻した加江須が目元のタオルを取って半ボケの状態で周囲の状況を確認し始める。


 「あれ…俺どうしてたんだっけ?」


 「あ、目ぇ覚めた?」


 加江須の頭が自分の膝元から離れると同時に仁乃が加江須に語り掛ける。 

 

 「みんな…俺はどうしてここに…」

 

 気を失う直前の記憶を巻き戻し始める加江須。

 あの時、確か自分は仁乃と氷蓮の3人でスライダーを滑っていたはずだ。そしてスライダーを滑っている最中に確か……。


 「………あっ」


 そこまで記憶の糸を辿ると自分に身に起きた出来事を思い返して徐々に彼の顔が赤く色を帯びて始める。しかしすぐに氷蓮が先程まで加江須の目元を覆っていたタオルを手に取りソレを彼の鼻に押し当てた。


 「おいおいまたブーってするなよ鼻血クン」


 「誰が鼻血クンだ!?」


 確かに何も間違ってはいないのだがえらい物の言われように思わず否定的に叫ぶ加江須。

 

 「でも確かにまた鼻血なんて出したら不味いかもね。さっきもここのプールの見回りに注意されたばかりだし…」


 そう言いながら愛理は先程の加江須が鼻血を出して気を失った時の出来事を思い返していた。

 公共のプールで鼻血を出して血液がプールに流れていたので心配されると同時に軽く注意を受けたのだ。意識の無い加江須本人ではなく恋人である愛理たち4人が警告を代わりに受けたのだ。

 

 愛理から気を失っている最中の事を聞き申し訳なさそうに項垂れる加江須。

 

 「悪かったなみんな。なんか知らない間に迷惑かけていたみたいだ」


 「別にカエちゃんが謝る事じゃないよ」


 「そーだよ、一番の原因はけしから乳をしているコイツが悪いんだから」


 「何でそうなるのよ!!」


 自分の胸を指差しながら酷い責任転嫁を押し付ける氷蓮に噛み付く仁乃。

 その後しばし休憩所で休んでいると黄美の腹から可愛らしい空腹を知らせるアラーム音が鳴り響く。


 「やだ…」


 自分の腹を押さえて頬を朱に染める黄美。

 時計を見てみると確かにもう昼前だ。黄美だけでなく全員も時間を確認するとより一層空腹に襲われ始めた。


 「何か食べるか。近くに売店もあるし俺が買ってくるよ」


 そう言いながら席を立つと皆にそれぞれ何が食べたいかを尋ねる加江須。


 「みんなは何がいい? 買ってくるから教えてくれ」


 「じゃあ俺は焼きそばとたこ焼きのセットで! あとソフトクリームも頼む!」


 食べ物の話になり真っ先に氷蓮が元気よく手を上げて欲張りに頼みこむ。

 他の皆もそれぞれ食べたい物を注文すると加江須がそれを聞き売店まで行こうとする。


 「あっ、加江須お金は…」


 「いいよこれぐらいは奢るって。少しは彼氏をたてろよ」


 財布から千円札を抜き取ろうとする仁乃に大丈夫だと手で制して売店を目指す加江須。

 売店は休憩所を出てから右に曲がりそのまま真っ直ぐ通路を進むと構えてあり、そのすぐ先には今まで自分たちが遊んでいたプールがあり売店からもプール内の様子がそれとなくうかがえる。

 目的の売店が見えて財布を片手に近づく加江須であるが、そこで異変に気付く。


 「……?」


 加江須が異変を感じたのは売店ではなく、その先の通路から見えているプールの様子の方であった。

 何やらプール内から大勢の人間の喧騒が聴こえて来るのだ。いや、公共のプール場で騒がしい声が聴こえて来る事は何もおかしくはないのだがそのベクトルが少しおかしいのだ。耳の届くこの声はプールを楽しんでいるタイプの騒ぎ声ではなく、何か事件が起きた際に聴く混乱気味の声の様に思えるのだ。


 「何だ? 何かあったのか?」


 売店を通り過ぎてプール内の様子を一旦確認して見る加江須。

 

 プール内の客達はどこか混乱気味の顔をしており、よく見ると人だかりが出来ていた。

 人が集まっている場所まで足を延ばして何があるのかを確認して見る加江須。


 「……なっ!」


 大勢の人に囲まれているモノを確かめるべく、近づいて周囲の野次馬と同様に何があるのかを見てみる加江須だったが、その眼に映ったモノを見て言葉を失ってしまった。

 彼が目に入ったモノ、それは水着姿の女性であった。しかしその女性の姿は一目見れば異常性が十分に伝わって来た。


 ――その女性はまるでミイラの様にカラカラに干からびていたのだから……。


 「な…なんだこれは…」


 まるで脱水症状を極限まで突き詰めて身を持って体験したかのような干からびた女性の姿に思わず後ずさってしまう加江須。これではまるでカラカラに絞られた雑巾だ。

 倒れている女性の一番近くには彼の恋人であろうか? 女生と同じくらいの年齢の男性が血相を変えて倒れている女性の手を握り必死に助けを求めていた。


 「おい早く誰か!? 救急車でも何でもいいから呼んでくれよ!!」


 まだ微かに息があるのか女性の胸は微かにだが上下に動いている。しかしどう見ても辛うじてと言った感じでこのまま放置すればじきに死ぬだろう。


 異常な姿で倒れている女性の容体も気にはなるが、それ以上にこんな現象を引き起こした犯人の方に意識を集中してプール内を見回す加江須。

 

 「(明らかに事故云々でああなる姿じゃない。第一こんな水場で干からびるなんておかしいだろ)」


 あの女性の姿は明らかに事故が原因ではないことはもちろん、けがや病気、そして普通の人間にも出来る芸当ではない。ただしあの女性を襲った人物が〝普通の人間〟でないなら話は別だ。

 そう…例えばゲダツや自分と同じ転生戦士の特殊能力なら話は別なのだ……。


 「どうやら私たちと同様の転生戦士の仕業と見ていいかもしれませんね」


 「ああそうだな。とにかくまずはみんなの元に戻って黄美達に非難をしてもら……」


 自分の隣から聞こえて来た意見に同意する加江須であるが、すぐに自分が誰かと自然に会話をしている事に気付いて隣に視線を向ける。


 「なっ、お前は!」


 「お久しぶりですね。できれば今日は非日常から離れ純粋な休養を楽しみたかったのですが」


 彼の隣に立っていたのは同じ転生戦士である武桐白。いつの間にか自分の隣に並んで立っていた。




 ◆◆◆




 プールで一般客である女性の謎に包まれた異様な姿を目の当たりにした後、加江須と白の二人は仁乃たちが待っている休憩所へと集まっていた。

 

 「お初にお目にかかる方々が大勢なので自己紹介を。私は神正学園2年生の武桐白と申します。そちらの氷蓮さん、でしたね。あなたとはこれで顔を合わせるのは二度目になりますね」


 「ああそうだな。あの墓地での戦い以来だな」


 一度顔を合わせた事のある氷蓮は特に大してリアクションも取らなかったが、他の3人は初めての顔合わせとの事で少し戸惑っているようだ。しかも相手が加江須と同じ転生戦士であると知った黄美と愛理は彼女に話しかける事に躊躇っているようだ。そんな中、同じく初対面ではあるが同じ境遇である仁乃が白にまずは自己紹介から始める。


 「初めましてね。私の名前は伊藤仁乃よ。ここにいる加江須と同じ新在間学園の2年生でありあなたと同じ転生戦士よ」


 「初めまして。そちらのお二人は…?」


 手のひらを差し出し黄美と愛理の二人の素性を尋ねる白。

 今まで黙っていた二人だが相手から尋ねられれば流石に躊躇っていた口も開いた。


 「同じく新在間学園の2年生の愛野黄美です。でも私は仁乃さんのような転生戦士? とは違い普通の一般生徒です」


 「同じく一般生徒の愛理です」


 二人が軽い自己紹介を済ませた後にただの一般人である事を知って白は加江須に目を向けて尋ねた。


 「こちらのお二人は我々とは違って平穏な世界を生きる者達ですが…どうやら色々とこちら側の事情を知っている様なのでプール場での出来事を話しても大丈夫ですかね?」


 「ああ、いやむしろ話してくれ。危険な状況である事を知ってほしいからな」


 加江須の口から出て来た危険と言うワードにまだ何も知らない4人は身構える。特に転生戦士であるこの二人が危険と言うのであればそれは一般人の言う危険よりも遥かに規模が大きい物だろう。何しろ特殊な力と凄まじい身体能力を持っている二人が言うのであるのだから。

 そしてその予想を全く裏切らないプールでの一幕が語られた。


 「さっき俺が売店に行く際にプールの方が騒がしくてな…ちょっと様子を窺ってみたんだ。そこで驚愕のものを見てな――」


 プールで見たまるで体から水分以上に色々な物を吸い取られ干からびた女性の事を話す加江須。その話を聞き仁乃と氷蓮の二人はこれが自分たちが対応すべき事件である事を瞬時に理解した。


 「それってゲダツに襲われたって事?」


 仁乃がそう聞くとその質問に対して白が首を左右に振って否定する。


 「私は加江須さんよりも先にあの異常事態を目撃していました。その際に周辺を探知しましたがゲダツ特有のヘドロの様な気配は微塵たりとも感知できずじまいでした。となれば残る可能性は…」


 「俺たちと同じ転生戦士の仕業…って事になるのかな」


 加江須がそう聞くと白は無言のまま頷き肯定の意を示した。

 彼女が首を縦に振った瞬間、仁乃と氷蓮の警戒度は一気に高まりを見せ、そして逆に黄美と愛理は凄まじい不安感に襲われた。特殊な能力を持った者がこの施設のどこかに居る。しかも悪意を持って能力を使用しているのだ。


 「このまま帰るわけにもいかないな」


 そう言いながら加江須は下あごに手をやって状況を一度整理し始める。


 現在このプール施設の中には自分と同様の転生戦士が紛れ込んでいる。ゲダツの仕業ならばこの中の4人の誰かがゲダツ特有の気配を感知できるはず。それが無いと言う事は相手は転生戦士と考えるのが今は妥当と思われる。


 相手の狙いは未だに不明。少なくとも自分たちを真っ先に狙って来ていない事から考えると相手はまだ自分以外の転生戦士の存在に気付いていないと思われる。


 一般人が襲われた事から無差別的な犯行? まだ確証はないが可能性としては考慮できる。


 そこまで軽くまとめ上げると加江須は4人の恋人たちにそれぞれ指示を出し始める。


 「黄美、愛理。二人はこのまま大人しく家まで帰った方がいい。正直相手が普通の人間でないのであればここに居るのは危険すぎる」


 「で、でも…」


 加江須の言葉に黄美がそれでも何か力になれるかも、そう言おうとするが隣に居る愛理が彼女の口を手で塞いで大人しく指示に従う事にした。


 「分かった。私と黄美はこのまま速やかにウォーターワールドから退散するよ」


 「愛理…」


 「黄美、気持ちはわかるけど私たちが今一番すべきことはここに残る事じゃないよ。私たちが残ったところで何も出来る事は……ないんだから……」


 愛理の言葉に黄美は拳をぐっと握る事しか出来なかった。

 自分だって本当は分かっているのだ。今ここで自分が何をしようとも、どうしようとも加江須たちの足を引っ張るだけのお荷物でしかないのだ。

 

 だって自分は…何の力も持っていないただの一般人なのだから……。


 「……うん、そうよね。私と愛理の二人はすぐにこのプール施設を出るべきよね…」


 口調こそは納得を示しているが、それとは対照的に彼女の表情は受け入れたくはないと言う感情がありありと出ていた。

 黄美の歯痒そうな表情を察っしていつつも加江須は仁乃に彼女たちの護衛を任せる。


 「仁乃、二人の事を安全な場所まで護衛してやってくれ。敵は今プールに居ると思うが念には念をな」


 「分かったわ。二人とも…」


 加江須に頷いて黄美と愛理の二人を連れて外を目指す3人。

 休憩室に残った3人は顔を見合わせて自分たちの行動指針を話し合う。


 「恐らく敵はプール内に息を殺して潜んでいるのでしょう。しかしプール内にはまだ大勢の一般人が居ます」


 「まあ被害者が出たと言ってもゲダツを見た訳じゃないからな。他の奴らはまだプールで遊んでいてもおかしくはねぇか」


 「だとしたら少し厄介だな。あの広々としたプールの中から転生戦士を見つけるのは……」


 ゲダツを探すのであれば異形な姿以前に奴らの放つ邪悪な気配を辿れるのだが……。


 加江須がどうすべきかと考えていると――


 「その役目、私に任せてはくれないでしょうか?」


 そう言いながら白は両手に神力を集約させ始める。

 一体何をするつもりなのかと加江須と氷蓮の二人は彼女の手元を見ていると、白の両手が光輝き出しその両の手の間から何かが飛び出してきた。

 



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