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プールに行こう スライダーでのハプニング

 

 「たく、うぜーチャラ男だったよな」


 「こういう場所には1人は居るよね。ああいう男ってさー」


 氷蓮がナンパ男を完膚なきまでに負かした後に二人はプール場に設置されている自販機でそれぞれがジュースを買って飲んでいた。

 本来であれば競泳で負けた方が奢る約束であったが、余計な横やりのせいで勝負する気もなくなりそれぞれが自腹を切ってジュースを購入している。


 「ごくっごくっ…泳いだ後のジュースってなんか美味く感じる」


 缶のオレンジジュースを勢いよく飲み干した氷蓮はそう言いながら飲み終わった空き缶を備え付けのゴミ箱に放り投げた。放物線を描きながら空き缶はクルクルと縦回転しながらゴミ箱に入った。


 「これ飲み終わったら加江須君たちと合流しよっか」


 「飲み終わってないのは愛理だけだけどな」


 「はいはい、さっさと飲み干しますよ~だ」


 氷蓮に急かされた愛理がぶーたれながら残りのジュースを一気に飲み干した。空になった空き缶をゴミ箱に入れるとそのまま二人は加江須たちと再び合流しようと先程の流水プール区間へと向かった。


 「あっ、いたいた」


 愛理が加江須たちを見つけて指を差すとすでにプールから上がっている3人が何やら話し込んでいる姿が見えた。

 

 「なんか仁乃のやつ怒ってねぇか?」


 氷蓮にそう言われて愛理も彼女の表情を見てみると確かに仁乃の顔は眉間にシワが寄ってどこか怒っている様に見える。

 それによく見ると少し顔も赤くなっており、そんな彼女に対して加江須は少し申し訳なさそうにしている。黄美の方は仁乃の事を諫めているようだ。


 「おーい何をガミガミ怒ってんだ仁乃ぉ?」


 氷蓮が声を出しながら近づいて行くと仁乃の方も二人に気付いた。


 「別に大したことじゃないわよ。少しこのバカが破廉恥な事をしたから叱っているだけ」


 「だからわざとじゃ……いやなんでもありません」


 決してわざとやったわけではないと言おうとする加江須であるが、そんな彼を目力で無理やり黙らせる仁乃。その様子を苦笑気味で眺めている黄美。その3人の様子を見て何となくだが何があったのかを察した氷蓮と愛理。


 「まっ、いつも通りの痴話喧嘩でしょ」


 「だろーな」


 だとするのであれば無理やり掘り起こして聞きだす事でもないだろう。

 なんにしろこれで再び5人が全員合流したのであった。




 ◆◆◆




 全員が再び合流した後、このウォーターワールドで一番の目玉であるスライダーへ続く階段を5人は登っていた。

 頂上に着くと係員の男性が滑り方について軽い説明を入れて来る。


 「ではここではしっかり座って、お尻をコースにつけて滑ってください。次に並んでいるお客様はぶつかったりなどの衝突を避けるために前の人が滑ってから30秒は待機してください」


 「はーい、このスライダーって二人でも滑れるんですか?」


 愛理が係員にそう尋ねると男性は大丈夫であると頷いた。


 「ただし二人の場合は体を密着させ、後ろの人は前の人にしっかりと抱き着いて下さい。そうしなければ間隔が空いて滑っている途中にぶつかる恐れがあるので」


 係員はそう言って質問をしてきた愛理に説明をする。

 

 「(恐らくあの4人の女の子達で二人ずつ滑るんだろうな。それにしても全員可愛いな…)」


 4人の美しく可憐な少女たちに思わず鼻の下が伸びる係員。その視線を敏感に察知した加江須がギロリと係員を睨む。


 「(ひぃっ! な、なんつー目で見て来んだよこのガキ…)」


 とても年下の少年の向ける眼力とは思えない迫力に肝が冷える係員であるが、そんな殺気を放っていた加江須は背後から抱き着いてきた愛理のスキンシップによって払拭された。


 「じゃあまずは私と滑ろうよ加江須君。私はうーしろ♪」


 「うおっ、す、少し離れろよ愛理」


 背後からゼロ距離まで密接して来た愛理のお陰で思わず声が上ずってしまう加江須。そんな反応を背中越しから楽しんでいる愛理。

 そのまま加江須の腕を引いて二人で滑ろうとする愛理であるが、そこへ黄美が待ったをかけて来た。


 「待ちなさいよ愛理。まずは私がカエちゃんと滑らせてもらうわ」


 「えー…早い者勝ちでしょ?」


 「だめよ。そもそも私がこのスライダーを一緒に滑ろうってカエちゃんを誘ったんだからね」


 バチバチと空中で火花を散らす愛理と黄美。


 「ほらさっさと滑るわよ加江須」


 そのどさくさに紛れてちゃっかりと加江須の腕を引いて先に二人で滑ろうとする仁乃。


 「オメーもどさくさに紛れて何してんだよ」


 加江須の腕を掴んでいる仁乃の手をピシャンとはたき落とす氷蓮。当然今度は仁乃と氷蓮の間に火花が散り始める。


 「おいおい落ち着けってみんな……ん?」


 牽制し合う女性陣を宥めようとするが背後から何やら怒りに満ちた視線を感じて振り返ると、係員の男性が加江須の事を忌々し気に見つめていた。


 「(ざっけんなよ! なにラブコメの主人公みたいな現場を披露してやがんだ! 4人もこんな可愛い娘たちをひとりで独占しやがって…リア充が…死ね!!)」


 「(お、おおう。この係員、絶対に心の中で俺に対して色々と言ってるよな…)」


 直接に言葉にはしていないが、どう考えても視線を見ればあの係員が何を考えているかは察しが付く。なんにしろ他の客が来たら今の状況は迷惑になるだろう。早く場を治めるに越したことは無い。

 係員の怨に満ちた視線を気づかぬふりをして加江須は火花を散らし合う恋人たちの事を説得し始める。 


 「みんな落ち着けって。ローテーションで滑ればそれでいいだろ。別に一度きりしか滑らない訳じゃないんだから」


 冷静な加江須の意見に思わず4人は声を詰まらせてしまう。確かに彼の言う通りだ。別にこのスライダーは遊園地の人気アトラクションとは違う。一度滑ってからまた何時間も待ち続ける必要だってないのだ。彼の言う通り一度滑ってからここまで登ってきたらほぼ間髪入れずに滑れるのであれば順番を競う必要は無い。


 「じゃあ…じゃんけんで平和的に…」


 仁乃がそう言って右手を前に出すと他の3人も無言でそっと利き腕を出す。

 確かに順番を競う必要は無いことは理解したが、それでもできれば好きな人と誰よりも先に一緒に滑りたいと言う小さな欲求はある。


 「「「「さーいーしょーはーグー…じゃんけん…ポン!」」」」


 スライダー前で気合の籠った声を出してじゃんけんをする恋人たち。その結果一番最初に滑る事になったのは――


 「よーし、やっぱり私が1番ね♪」


 「「「う~……」」」


 勝利のチョキをブイサインに見立てて高らかに腕を天に向かって伸ばす愛理。その傍らでは他の3人が悔し気に自分のグーを見て唸っていた。


 「じゃあまずは私とね♪」


 そう言うと再び加江須の背中にべたーっと引っ付いてきた愛理に少し照れ臭そうにする加江須。その後ろの方では次の順番を決めるために3人がじゃんけんをしている。

 滑る順番が決まったとの事で係員は加江須と愛理の二人を誘導する。


 「じゃあこちらに座ってください。安全面を考えて後ろに座る方は前の人の腰をしっかり掴んでくださいね。……ちっ」


 何やら舌打ちの様なものが聴こえた気がするが聴こえなかったふりをする加江須。

 そのまま指示通りに二人が滑り口に座り込む。


 「じゃあ私が前に行こうかな。加江須君は後ろね」


 「おお、じゃあ…」


 後ろに座り言われた通りに愛理の腰を掴む加江須であるが、予想以上にふにっとした柔らかな感触に少し動悸が高まるのを感じる。我ながらいちいちこの程度で恥ずかしがる自分の小心ぶりに少し情けなさを感じる加江須。


 「よ、よし準備完了だ」


 「レッツゴー♪」


 愛理の言葉と共に二人一緒にスライダーを滑る。

 

 「うおっ!」


 「はやーい♪」


 予想以上に滑る速度が速くて驚く二人。しかも下に下って行くにつれて速度はドンドンと上がって行き加江須が愛理の腰を掴んでいた手も離れてしまった。

 

 「やべっ、手が離れた!」


 「ちょちょちょ、危ないから離れないで!」


 そう言いながら愛理はくるっと器用に振り返り加江須の腰に掴まった。

 まさか愛理の方が振り返って自分に掴まってくるとは思わず焦る加江須。


 「おい何してるんだよ!?」


 「危ないから掴まってるの!」


 「でもこの体制はおかしいだろ!」


 そんな事を言い合いながらもスライダーを二人は滑り続けて行き遂にゴールが見えて来た。

 残り少しでゴールのプールに着水する直前に少し怖かったのか愛理は腰を掴んでいた手を背中まで移動してそのままガシッと加江須と抱きしめ合う体制となる。

 加江須の胸板に水着越しの柔らかな感触がじかに伝わる。


 「ちょ、ちょっと待て愛理。くっつきすぎ――」


 最後まで加江須がセリフを言い切るよりも先に抱きしめ合った体制で二人はそのままプールに勢いよくダイブする。

 派手な着水音と水しぶきを上げてプールの底まで一気に沈んでいく二人。そして再び二人の身体は浮かび上がって行き水面に顔を出した。


 「ぶはっ! 少し水飲んだ!」


 「ぷはっ、けっこースピード出てたね!」


 予想以上のスリルがあった事にテンションが上がる愛理であるが、それに対して加江須は今更我に返り小声でボソボソと愛理に囁いた。


 「愛理…もう滑り終わったから離れろって…」


 「ん? ああ…」


 滑っている途中に加江須が愛理の腰を掴んでいた手を離してしまったために逆に愛理が加江須に抱き着いてしまい、その体制のまま最後まで滑ったのだ。しかも今も愛理は彼の体を抱きしめているままだ。


 恥ずかし気に顔を逸らす加江須に対し、引っ付いている方の愛理は悪戯っ子の様な笑みを浮かべて加江須に顔を近づける。


 「ん~…恥ずかしがっているのかな? いいじゃない恋人同士なんだから~」


 「いや、周りの目もさ…」


 「あ…確かに…」


 加江須に言われて周りを見てみるとプール内に居る他の客達が加江須と愛理を見て顔を赤くしている。中にはラブラブっぷりを見せつけている二人に対して上の係員の様に舌打ちをしている男たちも居るが…。

 流石に人の目がある事を理解してくれて離れる愛理であるが、離れ際に加江須の耳元でこう囁いた。


 「でも人前じゃないなら加江須君からも強く抱きしめて欲しかったかな……なんてね♡」


 そう言われた加江須はボンッと顔から蒸気が噴射しそのまま下のプールに顔を付けて冷やす。

 顔半分だけ出しながらスライダーの頂点を見ると次の順番が決まったのか黄美が自分の事を滑り口で待っている姿が小さく見える。


 ……ただのスライダーと思っていたが残り3回、果たして今の様なハプニング無しで乗り切れるだろうか……。


 そう思いながら加江須は再びスライダーの階段の方まで泳いでいくのであった。


 「いってらっしゃーい♪」


 不安げな加江須の姿が面白いのか愛理が心の底から楽しそうな笑みを浮かべながら彼の事を見送るのであった。


 

 

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