牛乳交換
私は牛乳が大の苦手だ。
私の小学校は紙パックタイプだったため、飲んだフリをして毎日こっそり流しに捨てていた。
中学に上がってもその手口で難を逃れていたがある日事件が起きた。
昭和体験と言ってその日だけ昔ながらの給食が出されたのだが、紙パックではなく牛乳瓶だったのだ。
(昭和でも紙パックのときだってあったでしょ…)
心の中で呟きながら牛乳瓶を睨む。
昼食が進む中、私の牛乳が減ることはない。
この一大事をどう切り抜けようかと考えていると、
「それいらないの?」
隣の倉田くんが声を掛けてきた。
倉田くんが女子と話しているところをあまり見ないので驚いていると、
「牛乳、苦手?」と再び聞いてきた。
「うん…」と静かに頷くと倉田くんは空の牛乳瓶と私の牛乳瓶をサッと交換した。
「俺牛乳大好きなんだ」と言い倉田くんは一気飲みをしたか思うと、俯いて少し照れながら提案をしてきた。
「これからも牛乳飲むからさ、俺の苦手なものが出たら食べてくれない?」
苦手なものは出てきたときに教えると倉田くんは言うが、1ヶ月経っても出てこず私だけが牛乳を飲んでもらっている。
倉田くんの苦手なものとは何なのだろうか、今日の給食には入っているのかな、なんてことを考えていたそのとき、、、
「倉田っていつから牛乳飲めるようになったの?」
という話し声が後ろから聞こえた。
私の聞き間違いかもしれない。姿勢は崩さず後ろの話に神経を集中させようとしたところでチャイムが鳴り、話を確かめることは出来なかった。
席に戻ってきた倉田くんの表情は普通に見える。やはり私の勘違いだろうか。でも、勘違いじゃなかったら…もう授業の内容は頭に入ってこない。
その日の給食の時間、いつも通り私の牛乳に手を伸ばす倉田くんよりも一瞬早く、私は牛乳を手に取り、そして倉田くんに尋ねた。
「倉田くんって本当は牛乳苦手なんじゃないの?」
数秒の沈黙が流れる。心臓の音がうるさい。
「あー、今日の話やっぱり聞こえてた?実は牛乳苦手だったんだよね。」
倉田くんは静かに答える。
今までなんて申し訳ないことをしたのだろう。「ごめんね、もう自分で飲むから。」そう言おうとしたときだった。
「でもあの日から大好きになったんだよ。」
顔をあげると倉田くんは耳まで真っ赤になっていた。