閑話6:トラックに轢かれて異世界転移 ~チートスキルで無双しようと思ったら一緒についてきたヤンデレ幼馴染みの方が最強だった件~ という夢を見た話 前
まばゆいばかりの白い空間。視界に広がるのはただそれだけだった。
地面と壁に境界線は見当たらず、自身の存在さえもフワフワしたものに感じる。
「なんだここ」
独り言が自身の鼓膜を震わせた。
首を左右にふって、辺りを見渡してみても、景色に変化はない。なぞのばしょか?
「お主はトラックに轢かれて死んだ」
はっ??
突如男とも女とも若者とも老人ともとれる声が直接脳内に聞こえてきた。形容しがたい違和感に襲われる一方で、現状をすんなり受け止める自分がいた。
トラック?
なんの話だろうか。
「うっ」
こめかみが傷んだ。
そうだ。
授業が終わって、放課後、帰宅中、
幼稚園児くらいの子供が、道路の真ん中で遊んでいたんだ。
それは、覚えている。
「まさかお主が子供を助けるとは思わなかった。天上の記録には無いことだ。死の予定が狂ってしまった」
なんかどっかで聞いたことある設定だな。
「よって、お主に生き返るチャンスをやろう」
幽々白書じゃねぇか!
「え、俺死んだんですか?」
脳内に響く謎の声に問いかけてみる。
「さよう。これからお主には異世界の魔王を倒してもらう。さすれば現世に戻してやろう」とすんなりと返事が返ってきた。
なにを偉そうに勝手に話進めてんだ。
魔王? 九十年代のRPGやってんのか?
「そう言われましても、事情が全く飲み込めないんですが……。誰ですか、あなた」
「私は神だ」
「はへぇー」
アホみたいな展開。夢だな、これ。はっきり夢ってわかる。明晰夢ってやつだ。
「もし魔王を倒せなければお主の魂は消滅する」
なんだろう、気持ち悪いんで、脳内に話しかけるのやめてもらっていいですか?
「それでは頑張って来い」
展開についていけず、唖然とする俺を送り出そうと、脳内の声が音量をワントーンあげた時だった。
「ちょっといいかな」
脳内の謎の声との対話に割ってはいるように、凛とした声が背後からした。振り返ると銀千代が立っていた。
「なんでここに……?」
普通にいるんですけど。
「ゆーくんが異世界行ったって聞いて追いかけてきちゃった」
「はへー」
考えるのもめんどくせぇ。
「バカな」
神の声が聞こえた。
「あの短い時間で後追い自殺したというのか!? 死のリストが二人ぶんも狂うとは……魂の質量に多大な狂いが!?」
なんか戸惑ってらっしゃる。
「ほんとは研究進めてゆーくんを生き返らせる方法をとろうか悩んだんだけど、研究が完成する頃には銀千代きっとおばあちゃんになってると思って、追いかけるルート選んだんだ。間に合ってよかったよ」
「はへー」
こいつまじでなに言ってんだ?
「それよりゆーくん、簡単に話を進めたら駄目だよ。こういうのは最初が肝心なんだから」
銀千代はそう言うといずこかにいる神様を睨み付けるように険しい表情を浮かべた。
「銀千代は死ぬ予定なかったゆーくんが死んじゃったことに、とてもご立腹です。それってそちら側のミスですよね?」
「いや、ミスというか……」
神様が戸惑っていらっしゃる。しどろもどろだ。
「あの状況で、そちらの、えーと、宇田川太一さんが、子供を、えー、助けるというのではですね、性格上、考えられなくて、はい、子供も、軽傷ですむ予定だったし、人が死ぬ事故になるなんて、まったく想定外で……」
「でも、ゆーくんと銀千代も死んじゃったのは事実だよね」
「いや、銀千代さんに関しては自分で……」
「今は事実確認をしてるの!」
「はい……」
「それなのにあとは任せたって話の筋が通りませんよね? なにかしらの補填がないと納得できません」
クレーマーみたいな口調だ。というか俺にはクレーマーに見えた。
「補填……というと?」
責められて敬語になった神様が恐る恐る尋ねると銀千代はにやりと醜悪な笑みを浮かべ、
「なんか下さい」
と宣った。なんだそれ。
「わ、わかった。では適正に応じたスキルを授けよう。では、去らばだ」
「話はまだ終わって……」
辺りが一気に眩しい光に包まれる。目が眩む。神様もきっとめんどくさくなったのだろう。
ふわりと体が浮き上がるような感じがした。
光はやがて収縮する。
いつしか浮遊感はなくなり、視界が徐々に慣れてくると、目の前に広がったのは草原だった。
風がそよぎ、波のように青葉が揺れる。
なんかよくわからないが冒険が始まったらしい。魔王とか言ってたな。こう見えても俺はドラクエのナンバリング全てクリアした男。夢とわかっていても、なんか、テンションあがる。
「なんかてきとーな神様だね」
銀千代もついてきた。なんでいるんだこいつ。
「はやく魔王倒しておうち帰ろうね」
ついてこないでほしかったが、まあ、なんだかんだで知り合いがいると心強いのもたしかだ。
なにをすればいいのかわからないが、魔王を倒すという目的が与えられているは確かだ。
「しかし、倒すと言うのは……」
「殺せばいいのかな」
オブラートに包んでほしかった。
「それでゆーくんはどんなスキルを授かったの?」
草原を歩きながら銀千代が聞いてきた。
スキル?
「いや、知らんよ」
「ステータスオープンって叫んでみて」
銀千代の声に反応して彼女の前に謎の画面が現れた。なんだその近未来的ガジェットは。
「嫌だよ、なにそれださい」
「ステータスオープンって叫ばないと現状確認できないよ」
銀千代の前に開いていた画面が閉じた。ステータスってことばに反応して画面が切り入りされるらしい。どういうシステムやねん。
「言いたくないな。なんかスゲーださくね?」
「話が始まらないから、おねがい!」
「ふぅん。まあ、なんでもいいか。ステータスオープン」
こっ恥ずかしかったが、
ぽん、と目の前に画面が表示される。
勇者:ゆー
レベル:1
攻撃力:2
防御力:3
魔法力:2
体力:4
知力:3
見た目:3
運:11
特殊能力:【レアスキル】森羅万象
地水火風の四代元素の魔法をすべて扱うことができる。
習得魔法
・ファイヤーボール
・ウィンドエッジ
・エターナルフォースブリザード
etc.
「……」
平均値わからないのでなんとも言えないが、バグかなって思うぐらいステータス低い。しかし、それ補っても余りあるぐらいスキル欄がとてつもなくチートだ。
「すごいね、ゆーくん!」
横から覗いてきた銀千代が手を叩いて喜んでいる。まあたしかにかなりいい能力が手に入ったのはたしかだ。
「ステータス」と唱えて画面を閉じる。
「楽勝っぽいな。情報集めて、とっとと魔王とやらを倒しにい」
銀千代に声をかけようとした、とき、
「ぐおおおおおお!」
突風が吹いたかと思うと、暗雲が立ち込め、目の前に大きな翼を持った赤い鱗のドラゴンが着地した。どしんと地面が大きく揺れる。局地的な地震に転びそうになった。
「な、……なっ!?」
衝撃に言葉が飲み込まれる。
目算にして全長数十メートル。動物園のゾウより遥かにでかい。雄叫びが空気を震わせる。
「うそ、だろ」
明らかに序盤の敵じゃない。心臓がバクバクと高鳴る。こんな気持ち、城下不死教区でヘルカイトに出会った時以来だ。
「に、逃げるぞ銀千代」
「でっかいねー。敵かなぁ。ねぇ、あなたは敵ー?」
呑気に尋ねる銀千代に応えるように、ドラゴンが大きく息をすった。あのモーションは大抵火を吹くやつ!
「くっ」
走って逃げても間に合いそうもない。こうなれば、一か八か!
「ファイヤーボール!」
両手を付きだし、唱えてみる。
静かな確信があった。
火球が目の前で形成され、勢いよく飛び出す。
「よしっ!」
ドラゴンの顔面に命中した。が、まったくノーダメっぽかった。
「えー……」
「ゆーくん、ステータスチェックしてみたら、あのドラゴン、魔法無効みたい!」
「はへー」
打つ手なしじゃねぇか。
「やば、逃げるぞ!」
「あ、ちょっとまって。やっぱりあのドラゴンは敵だね。殺します」
銀千代が両手を前にして「てぇーい!」と叫んだ。
「ごっ……」
ドラゴンはふわりと空中に浮かんだかと思うと、雑巾を絞るみたいに、荒縄状に圧縮した。ぶしゅう、と地面に血が滴る。
「……」
一瞬だった。
現実離れした現状を凌駕する展開だ。なんだこれ。血の雨が降り注いでいる。猟奇的な光景だった。
余りにもグロテスク。
目をそらすように銀千代を見ると、照れたように頭をかいていた。
「今の、なに?」
「うん。銀千代のシークレットウルトラレアスキル、全知全能だよ。なんでも思い通りにできるの。いまは邪魔だから擦りつぶれちゃえって思ったの」
「え、こわ」
なに俺よりチートスキル貰ってんだよ。
「それより、ゆーくんの魔法、かっこよかったねぇ……」
浸るように言われた。
両目ついてんのかよ。
「よし、それじゃあ、魔王倒しにいこう」
気まずい雰囲気を誤魔化すように銀千代は両手をバシンと鳴らした。
「いや、さっきはああ言ったけど、どこに魔王がいるのかわから」
「えい!」
ばっと瞬く間に、草原から石造りの城内に、移動した。
「……」
え、なんだこれ。
物理法則を完全に無視してる。
さっきまで草原にいたのに、景色が一変している。白い外壁に、赤い絨毯、薄暗いが、かなり広いことがわかる。
「どうやらここに魔王がいるみたい!」
なんの感慨もない終着点に銀千代は緊張したように頷いた。
「え、ワープしたの、いま?」
「うん。銀千代のスキルだよ」
こいつ、最強過ぎないか。
いきなり飛ばされた城の中はたくさんの人型のモンスターとおぼしき連中がバタバタと走り回っていた。
「セーブポイントはここでいいかー?」
「ばかっ、お前それは簡易セーブの方だろ! 全回復セーブポイントを設置しろ!」
「伝説の剣は隣の部屋に設置でいいですかー?」
「体力全回復アイテムの設置も忘れんなよ!」
「こらこら、そんなとこ突っ立てたら邪魔だよ!」
頭がワニみたいになった人に注意されたので、壁際によったら、
「え、ちょっとまて、おたくら、え?」
なんか妙な反応された。
「大変だ! 勇者、もう来てるぞ!」
「ええっ、なんだって!? 早すぎだろっ! 四天王は何してる!?」
辺りがざわつく。なんかご迷惑だったらしい。
あっという間に俺たちはたくさんのモンスターの大群に囲まれた。ハロウィンの仮想行列よりも多種多様な種族が集まっている。多様性と無差別の楽園はここにあったのか。
「くくく……面白くなってきたな」
「魔王さま!」
突如、奥の方から低く渋い声がした。薄暗くよく分からなかったが、玉座とおぼしき巨大な椅子になにかが座っていた。
「お前たち下がっていろ。これからここは戦場となる」
マントを翻しながら、影が立ち上がる。かなりの巨体だ。
「魔王様! ご武運を!」
魔王、と呼ばれた影が声をかけると、周りにいたたくさんのモンスターは全員部屋から出ていった。あとには俺と銀千代、それと魔王が残される。
「くくく……、驚いたぞ、勇者よ。まさか、こんな短時間で我が城にたどり着くとは。久々に本気で相」
「てぇい!」
横に立っていた銀千代が声を上げると
同時に、魔王はふわりと浮き上がり、荒縄状になって息絶えた。ぶしゅう、と玉座を中心に血溜まりができる。
「え」
降り続く血の雨。
唖然とする俺に銀千代が、
「これで元の世界に帰れるね!」
にこりと微笑む。
「え、嘘だろ」
ピシャリピシャリと血が滴る音だけが空しく響く。
「もう終わり?」
「ゆーくんが強すぎて相手にならなかったみたい!」
「俺ェ?」
いまいちなにがあったのか飲み込めないまま、旅は終わりを迎えたらしい。いや、意味がわからん、一体なんだってんだ。
と混乱していたら、辺りが白く光始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、まじで、これで終わりかよ」
あっという間に光に包まれる。
世界が歪んだ気がした。
激しい立ちくらみに、立っていられなくなった俺は受け身がとれないまま地面に倒れこんだ。




