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幼なじみがヤンデレ  作者: 上葵
おまけ2:金守銀千代の海
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第83話:八月に呼ぶお盆過ぎ 前


 数ヵ月前に亡くなった親戚の初盆で母方の実家に帰省することになった。


 青空に緑が映える田舎の夏。

 つんざくような蝉時雨と直射日光が降り注いでいる。殺人的最高気温に汗を流しながら、墓石に手を合わせた午前中。

 お坊さんにお経を挙げてもらい、ありがたいお話を聞いて、法要はひとまず終了となった。

 お坊さんを見送ると同時に、待ってましたと言わんばかりに親戚の飲み会がスタートする。


 大広間に集まった親戚一同。 知ってる顔よりも知らない顔のほうが圧倒的に多い。クーラーと扇風機がフル稼働で熱気を冷ましていく。

 長テーブルに並べられた寿司や唐揚げに手を合わせて、顔もろくに知らない旅立たれた親戚のご冥福をお祈りする。


 いただきます。


 わいわいと騒ぐ大人たちは個人を偲んで声を大きくしているが、お酒が飲めない未成年組は席の端の方でのんびりだ。


「ねぇ」


 隣に腰を落ち着けた従姉妹の瑞穂が周囲を警戒しながら訊いてきた。


「今日は来ないの? 金守銀千代」


「来るわけねぇだろ。親戚でもねぇのに」


「ほんとに? 前来たじゃん」


「……んー」


 五月に銀千代にいろいろとやられて、トラウマになっているらしい。

 にぎり寿司に伸ばしかけたお箸を一旦置いてから、着ていたシャツの襟を指でなぞり、ポケット等を念入りに確認してから、


「たぶん大丈夫」


 と返事をする。

 今日帰省することは一切告げなかった。スマホの電源も落としてるし、俺の位置を完全に見失っているはずだ。そう信じたい。

 お箸を握り直して、サーモンのにぎり寿司を掴んで口に放り込む。うましうまし。


「なにいまの?」


「え、サーモン」


「じゃなくて、なんか服をごそごそしてたじゃん」


「いや盗聴機つけられてないか確認しただけ」


「……いつもつけられてんの?」


 ドン引きしたような目で見られる。


「いつもではないな。最近はわりと自重するようになってくれたから」


「うそ。そんな頻繁につけられてたの? こわっー」


「盗聴機はそんなでもないな。スマホを通話中のまま鞄に入れられるとかはわりとあったけど」


「フツーに犯罪じゃん」


「だよなぁ。なに罪かは知んないけど」


 イクラに箸を伸ばす。


「……金守銀千代って束縛激しいんだ」


 瑞穂は嘆息しながら唐揚げを小皿に取り寄せた。


「束縛もなにも付き合ってないっつーの」


「はぁ? 付き合ってなかったら、ガチでただの犯罪者じゃん。太一はいいの? それで」


「ヤに決まってる。でも、言っても止めないならもう無視するしかなくないか?」


「警察に行くとかいろいろと方法あるでしょ。バカなの?」


「子供の戯言だと思って取り合ってくれねーよ」


 初めて交番に助けを求めたのはたしか小学五年生の時。

 助けを求めた警官が「幸せそうでいいね!」と朗らかに笑った瞬間この町の治安がイカれてしまったことを悟ったのだ。


「日本の警察って被害が出てからじゃないと動けないってよく聞くよね。民事不介入だっけ」


 子供の頃の無力感を思い出して項垂れる俺に気づくことなく瑞穂はマグロのお寿司を咀嚼しながら美味しそうに微笑んだ。


「被害ならいっぱいあんだけどな」


「へぇ、どんな?」


「まず友達が少ないだろ」


「自己責任じゃん。陰キャやめれば? 話しかけろー」


 人の性格がそんなに簡単に変えられ成長できるのなら誰も苦労はしません。


「いやいやまじで俺の交遊関係あいつにブッ潰されて来たんだって。そうだ、中三の時だったかな、プレステ壊されたんだよ、あいつに。オンラインで友達つくんのが嫌だったみたいで」


「器物損壊じゃんか。訴えなよ」


「訴えてやめてくれると思えないんだけど……」


「……」


 瑞穂は少し無言になってから、


「やめてほしいってちゃんと伝えるのは大事だと思うよ」


 と他人事のように言った。実際他人事だからしかたない。


「太一が困ってんなら相談のるよ。暇だし!」


 びしっと親指を立てられる。心配と暇潰しでは、後者の割合が高い気がする。


「女心だってわかるからね。アタシに任せてくれれば、対処法を教えたげるよん。いままでどんなことされたの?」


 めんどうだけど、現状を客観視してみるいい機会かもしれない。


「メールとか電話とかラインが一日百件以上あるだろ」


「まあ、そんくらいならまだかわいいもんじゃない?」


「不在着信だからな」


「ほんとに好きなんだねぇ太一のこと。純愛だ」


 電話番号もメールアドレスも各種SNSのIDも教えていないのになぜか知っているのだ。機種変する度に変えてるのに。


「いつも出掛ける先にいるな。偶然装ってるけど、たぶんGPSがどこかにつけられてる」


「気のせいじゃないの? 意識しすぎだって」


「あとは、まあ、確証はないけど、物がよくなくなる」


「ボケーとしてるからでしょ? 何でもかんでも金守銀千代のせいにすんのはよくないよ」


「いやさ、ゴミ箱にいれたものが次の日にはなくなってんだよね」


「おばさんが捨てただけでしょ」


「母さんは触ってないって言ってるからたぶん銀千代だな。でもまあゴミ箱に関しては楽だからちょっと感謝してる」


「きっしょ。あんた頭おかしいんじゃない?」


「え、なんで。要らなくなったから捨てるんじゃん。それが次の日には綺麗になってたら嬉しくない?」


「それでいいならいいんだけど、その思考回路大分やばいと思うよ」


 俺もおかしいのかな。

 瑞穂は呆れたように肩をすくめて、オレンジジュースを飲み干した。


「まあ、お互い同意があるなら外野がとやかく言うことじゃないけどさ、金守銀千代ってほんとに太一が好きなんだね」


「まあ、そこに関しては疑いようがないな」


「相思相愛じゃん」


「相じゃねぇよ。話聞いてたか? 俺はあくまでもあいつの行きすぎた行動にはほとほと愛想がつきてんだ」


「別に太一が迷惑に思うような行動はしてなくない?」


 瑞穂は小バカにしたように鼻をならした。


「迷惑か……パッとは思い浮かばないが、直近なら、廃ビルみたいなとこに監禁されたな」


「え」


「一週間」


「えええ」


「最高に迷惑だったけど、でもまあ結果的には感謝してる」


「はぁー? 」


 瑞穂は訳がわからないといった風に頭をかきむしった。あの監禁のお陰で第一志望にようやく手が届きそうなのだ。本当なら今日だって家で勉強したいところなのである。


「やばいよ、太一、それストックホルム症候群ってやつだ」


「ストックホルム?」


「誘拐の被害者が犯人に同情しちゃう現象だよ。たぶんだけど洗脳みたいなもんだよ」


「それは違うな。あいつ、俺の尊厳だけは守ってくれてるからな。そこだけはわりと認めてるんだぜ」


「やば。もうだめじゃん、いかれてる」


「はぁー?」


 心底気味の悪いものでも見るように瑞穂は眉間にシワをよせた。なんとか誤解を解くため口を開こうとした瞬間、「バツン」と視界が黒にそまった。


「は!?」


 照明が落ちたらしい。


「きゃあ、なに!? 停電!?」


 田舎は山があるため日が沈むのが早い。カーテンに閉ざされた窓から月明かりが漏れることもなかった。


「ブレーカーが落ちたかぁ?」


 奥の席に座っていたじいちゃんが「よっこらせ」と立ち上がり、いずこかにあるブレーカーを上げるまで、さほど時間はかからなかった。


「あー、びっくりした」


 冷房をきせすぎたのだろうか。そこまで電力を食ってるようには見えないけど。


「ね。怖かった」


 横の瑞穂が甘えたように俺の太ももに手をやっ、って、


「銀千代!?」


 瑞穂じゃねぇ!


「なんでお前ここにいんだ!」


「なんでって、ゆーくんと銀千代は夫婦なん、……あ、まだこの時点では違ったか」


 てへっと舌を出された。なんだこいつタイムスリッパーのつもりか。


「俺んちの親戚の集まりに来てんじゃねえよ! GPSでも使って俺の場所を特定したな!」


「そんなことはしてないよ。運命の赤い糸を辿っただけだよ。えへへ」


「……本当は?」


 銀千代は少しだけ言い淀んでから、


「か、簡単な推理だよ。春先にお葬式があったからお盆に帰省するかなって、思って……カメラ見たとかじゃないよ。ほんとだよ」


 イヤな予感がして見上げると、木目調の天井に監視カメラが設置してあることに気づいた。じいさんの防犯意識は高いのだ。だからきっと銀千代は関係ない。そう思い込むことにしよう。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 挨拶回りは完璧ですね…しかも、防犯意識も高い…
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