「極秘」
「極秘 ~prologue~」
今日も朝からいい天気
私の開発者である、あの人を起こしに行こうとしたら
もう既に猫のロイドに先を越されていた
あの人がロイドとじゃれる
なんか寂しい
新聞を郵便受けから取りに行こうとしたら
もう既に犬のアンドに先を越されていた
あの人がアンドの頭を撫でる
ちょっと悔しい
小型ロボットの私はやり場のない気持ちを発散させるために
庭を全力疾走
すると途中で体力が切れた
気付くと私はあの人の腕の中にいた
ちょっとドキドキ
どうしてあんなに走ったのとあの人が笑いながら聞く
私は答える
極秘ですと
すばらしい答えだ
あの人はなぜか喜んだ
今のこの笑顔はきっと世界中で私しか知らない、見ていない
ちょっと嬉しい
私は今日も振り回される
感情という不思議なものに
「極秘 ~ちっちゃなタイヤ~」
意識がパソコンから 小型マシンへと移行してから 早1年
私のモーターがうなるのは あの人、私の博士の姿が見えた時
今じゃ お掃除ルンバに邪魔されて 追いかけにくいけど
ちっちゃなタイヤで走ります
苦手なもの 博士のペットの猫のロイド
ルンバに乗って 猫パンチをしてきます
嫌いなもの ペットの犬のアンド
博士の日常のお手伝いをすぐに覚えるライバルです
心苦しいもの 月1度の プログラムの更新と検査
目覚めてから ずっと きっと心がドキドキ
今日も晴天
今日も いつもと同じ ドキドキして 廊下の迷宮を走ります
もし ここで博士に出会ったら また言おうかな
このうなる気持ちは 極秘です ……。
「極秘 ~うなるモーター~」
瞳を閉じて 自分の感情を考える
心の底からの モーターのうなりが聞こえる
と、思っていたら 目の前には お掃除ルンバ
ルンバからも聞こえる うなる心
猫のロイドと 犬のアンドからは 聞こえない このうなり
私たち 機械は やっぱり 生物とは違うものを持っている
きっと そうだろう
きっと そうに違いない
博士は 知っているのだろうか ……?
でも 教えない
これは この感情は 極秘です ……。
「極秘 ~Christmas~」
今日はクリスマス ずっと待っていたクリスマス
今日はクリスマス 白い雪舞うホワイト・クリスマス
そんな歌を心できざみながら 今日も博士の後ろを追いかけます
今日は特異な日だから
統計学の平均値に影響を与える 特異な値の棒グラフのように
私の感情も クリスマス・ツリーを追い越します
英語では何て言うのか分からないけれど
博士のちっちゃな ちっちゃな蓄音機にもクリスマス・ソングが
でもね 本当の鼓動
私の心と共にきざまれていて 少し変な感じ
私が合わせているの? 私に合わせているの?
それは 極秘です。
博士には届けないように 小さく小さく 心できざみます ……。
「極秘 ~金平糖~」
廊下の迷宮で
小瓶が落ちていた
その周りには小さな 小さな星がたくさん落ちていた
誰だろう ここに金平糖を落としたのは
コン コン キン カン ……
コン コン キン カン ……
あまりにもきれいだったので 1つ持っていこう
私は廊下の迷宮を進む
今日はそういえばバレンタイン・デーだった
この金平糖を博士にあげよう
なぜ 父の日にあげないのかは
極秘です ……。
「極秘 ~満月~」
今日は冬至の満月
まるで満月がヤコウチュウみたいに淡い黄金に輝く
明るい窓辺に 影が一筋
猫のロイドが 寒さも忘れ 月を見上げていた
私もふと見上げる
聞こえるのは 私のうなる心1つのみ
あぁ まるで無になる
博士のことまで忘れてしまいそうに 月が輝く
私の記憶の基盤から 全ての傷が取り除かれるかのように 月が瞬く
ただただ 極秘と書かれた記憶がふと心に浮かぶ
それが博士の資料だったことは
極秘です ……。
P.S 冬至南京は とても おいしいそうです。
「極秘 ~epilogue~」
雪降る夜
博士と私は 暖炉の前
博士は疲れ切った頭脳を休ませて 眠りに入っていた
パチパチパチ ……
暖炉が燃える
こんなにも赤外線が放たれてとても暖かい
博士の素顔
博士のメガネを取った顔
見たことないな
博士にも 極秘があるらしい
私と同じで ちょっぴり うれしい
この感情は極秘です ……。




