城内にて
城内は人気が感じられず、3つ目の角を右に曲がるまで誰にも出会うことはなかった。従者や騎士に出くわしてまた面倒なことになることを心配していたたかしだったが、杞憂であったようだった。
3つ目の角を右に曲がると、これまた長い通路が真っ直ぐに伸びていた。厳かな空気が漂っている。遠くに最奥と呼ばれる真っ赤で荘厳な造りの両扉が構えており、その脇をまたしても2人の家来が扉を守っているのがわかった。
たかしは余計なことは考えずごくりとつばを飲み込むと、一歩一歩足元を確かめるように通路を進んでいった。
「ん? ハッ……なんだお前は!!」
「おいお前、どこから入った!!」
通路を進んでいくと、案の定、2人の家来がこちらに気づき、たかしに向かって長槍を構えてきた。
だがたかしはここで怯めば一巻の終わりとばかりに、下がらず一歩前に出る。
「今すぐその矛を収めよ! 我は、勇者たかし。4人目の勇者である!」
ドン!
たかしは先程の門番の話からさも自分が勇者であるかのような立ち居振る舞いをし、勇者を演じた。
「なに!? 勇者は3人だという話だが、何かの間違いではないか?」
「その通りだ。今は神聖な儀式の真っ最中。ここから先へと通すわけにはいかん!」
「う……」
たかしは口どもる。ここで嘘を通さなければ、目の前の家来に殺され一巻の終わり。
急いで引き返しても、裏門の門番に嘘がバレ、一巻の終わり。
しかし、ここで大嘘をかませば、後々、さらなる危機的状況に陥ることは必至。
どうする、たかし!
「しかも、こんな変な服装をした勇者などいるわけがない! 殺してしまえ!」
「そうであるな。裏門から侵入したのが運のつき。ここで生かして返せば、我ら王に仕えしものの一生の恥となろう! 殺すが通り! いざ、参らん!」
たかしの言い分など聞かず、城内に侵入するものは全て敵と言わんばかりの鬼気迫る勢いで近づいてくる、2人の家来。
たかし、もう言い逃れすらできない。
「クソぉ!!! なんで俺はこうも、こうなんだ!!! トシヒロ! 聞こえているか! トシヒロ、助けてくれー!!」
これしかない、と扉の向こうにいるトシヒロに大声で助けを請うた。
その声は重々しく閉ざされた扉の向こうに聞こえるのか否か。
だが、今のたかしが助かるには、トシヒロが聞いている可能性にかけるしかなかった。
「トシヒロ!!! 助けて!!!! 殺される!!! トシヒロー!!!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!! 死ねええええ、ザコおおおお!!!!!」
「お願いだ、トシヒロおおおおおお!!!!!!」
長槍の切っ先がたかしの首元を捉える。
たかしの中で、走馬灯が駆け巡る。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
たかしの目から、一筋の涙がこぼれた。
「ん? お、たかしじゃん」
ジャキーン!!!!!!
ヂャリン!!!!!
一瞬のできごとに、たかしの目は追いつかなかった。
気がつくと、たかしの後ろにはトシヒロがおり、たかしの目の前には、2人の家来が長槍を落とし倒れ伏していた。
「ふー。もう、何事だよ。王様が直々に登場するというときに、謎の叫び声が扉の奥から聞こえてくるもんだから、びっくりして出てきちゃったよ。そしたらたかしがいるんだもの」
「トシヒロ……」
「たかし、お前ってやつは、いつも意地を張っているんだから。お前の気持ちはわかっているつもりさ。これでも長年ネトゲでパーティを共にしてきた仲間だ。一緒に来たいなら、はじめから来たいと言えば僕だって無碍にはしないよ。でもやっぱり来たんだね、たかし」
「ごめん、トシヒロ……俺……俺……」
「説明はなしだ。君も来るといい。元の世界へと帰れる方法が、わかるかもしれないのだから。君はなぜかイベントを飛ばして王様から呼ばれなかったみたいだけど」
「トシヒロ……ッ!」
たかしは初めてトシヒロに神を見た。
神様はたかしを見捨ててはいなかったのだ。
「行こう、僕たちの未来を求めて」
「ああ、トシヒロ!」
こうして、トシヒロの助けがあり、なんとか王様の元へとたどり着くことができたたかしなのであった。