トシヒロ速い!
「トシヒロー! トシヒロー!」
たかしはトシヒロを急いで追いかけた。
だが、たかしはトシヒロに追いつけない。
「トシヒロー! 待ってくれー!!」
人が行き交う大通り。たかしはこれでも全力で走っているつもりなのだが、デブのトシヒロとの差が一向に縮まらない。
「くそー! デブのくせに、なんて速さだ!」
一方、トシヒロ。
「うんこ漏れるぅ!!! 早くお城に行って、トイレ借りなくちゃ!!」
トシヒロは排泄物が落ちないよう片手でケツを押さえながら全速力で走っていた。
そう、トシヒロは走れるデブだったのだ。
「このスピードなら、お城まで3分とかからん! トイレなんてどこにあるのか知らないし、このまま行ってしまおう!!」
トシヒロは走った。
その後ろを、懸命に追いかける、たかし。
たかしはその差をどんどん離されていく。
引きこもり体質の足腰がここに来て仇となった。
「くっそ、追いつけねぇ!」
たかしのスピードは明らかに落ちていった。それに対し、ぐんぐん引き離すトシヒロ。
「あ~ん、漏れるぅうううう!!」
ついに、たかしはその足を止めてしまった。
膝に手をつき、肩で呼吸をする。
遠くに消えていくトシヒロの後ろ姿を見送るたかし。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……勝てねぇ、トシヒロに、負けちまった」
たかしはなんとも言えない敗北感を味わった。
しかしなぜトシヒロはいきなり全力疾走を始めたのか、たかしには謎であった。
仕方なく、たかしは歩いて城を目指すことにするのだった。