金がない!
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「金がない!!」
たかしは焦っていた。
現在、たかしはパジャマ姿の効果もあってか奇異の目を集め、衆目の的状態である。
たかしの半径1メートルには誰も近づかない。
「金がないと、飯が食えねぇ!!」
「飯が食えねぇと、満腹ゲージが回復しねぇ!」
「回復しないと、大変なことになる!! でも飯を買う、金がねぇ!!」
現在、たかしの満腹ゲージは4分の1。しばらく歩いたので、いつ0になってもおかしくない。
露店の一つにタダ飯をお願いしたが、駄目だった。
たかしは露頭に迷い、中央通りの噴水の縁に寝そべった。
と、そこに、
「たかし? たかしじゃないか!」
そう言って近づいてくる聞いたことのある男の声。
「たかし! 俺だよ俺! トシヒロだよ!」
「トシヒロ? え? マジか!!」
たかしが顔をあげると、そこにいたのは、控えめに言っても小太りとは言えないくらいには腹の出ている、ネットのオフ会で何度か会ったことのある、見覚えのある顔があった。
ネトゲでよく一緒に遊んでいた、友達のトシヒロであった。
「なんでお前がここに!? ここはいったいどこなんだ!?」
たかしはまさかの再開に驚き、また見知らぬ異世界で知り合いに会えたことの安堵感から、疑問あふれるこの世界に対しての疑問をトシヒロにぶつけていた。
「どこって、お前ここがどこか知らないのか?」
トシヒロは深刻そうな顔で聞いてくる。
「ってことは、お前はここがどこか知ってるのか?」
たかしも真剣な眼差しになって答えた。
ゴクリ、とたかしはつばを飲み込む。
「実は俺も知らないんだ」
「……って、なんでやねーん!」
俺はモーレツなツッコミをかました。
こいつは、そういうところがある。
オフ会で、トシヒロは学校でうんこを漏らしたことがあるという話を聞いた。
ヤベーやつなのだ。
「グーギュルギュルギュルギュル……」
「なんだ? 今の音は」
「俺の腹の音だよ。朝から何も食っていないんだ。しかも、」
ピコンピコンピコンピコン。
言いかけていたところで、俺の上の満腹ゲージが点滅し、音が鳴り出した。
見ると、俺の満腹ゲージは0になっていた。
「やばい! 死ぬ! トシヒロ、なにか食わせてくれ!」
「僕なんか食べても、おいしくないよ~」
「バカヤロウ! テメーボケるのもいい加減にしろよ? 俺は今すぐなにか食わないと死んじまうかもしれないんだ! トシヒロはなにか食べたのか?」
トシヒロは気だるそうに答える。
「ん~? ぼくは、スライムを倒して手に入れたアイテムを売って、そのお金でフライドホットドックを買ったよ~。たかしは、モンスターは倒さなかったのかい?」
「バカヤロウ! それを早く言え! 俺だってスライムは倒したんだ! 9体!」
「じゃあ、早くスライムが落としたアイテム売ってくれば~?」
「でも拾ってない!」
ドン!
「拾わなくても、勝手にアイテムポーチに入ってるはずだよ」
「アイテムポーチ? どこにあるんだ?」
「空中に向かって言ってみなよ。アイテムポーチって」
「アイテムポーチ?」
たかしが言うと、空中から黄色のアイテムポーチが現れた。
「おお、すげぇ。こういうところは、知ってるんだな」
「まぁね。僕も一応ゲーマーだし、リゼロとか見てるし、いろいろ試してみたんだ」
「リゼロって……まぁいい。お、本当だ、入ってる。ありがとな、急いで売ってくる!」
アイテムポーチの中には、スライムの液体瓶が7個入っていた。
「おっさん、これを買ってくれ!」
「全部で70ゼルな」
「ゼル? ああ、金の単位か。安いのか高いのかわからないが、まあいいや。じゃあ、これ1本いくら?」
たかしは、70ゼルをもらいながら、大きめの骨付き肉を指差した。
「2000ゼル」
「たっか! じゃあこれは?」
この店で一番小さい骨付き肉を指差した。
「1200ゼル」
「は? ぜんぜん買えねーじゃん」
たかしは絶望した。
「金がねぇんなら、さっさとどっか行け!」
「ひど」
たかしは追い出された。
ピコピコピコピコピコピコ!!
「ピコピコうるせぇ!」
「たかし! これを食え!」
ヒュッっと飛んできたフライドホットドックをたかしは掴むと、パクリと食べた。
《満腹ゲージ、2ゲージ分回復しました》
0だったたかしの満腹ゲージが、ギリギリ緑に戻った。
「おう、間に合ったようだな」
「サンキュー、トシヒロ」
たかしは投げてよこしてくれたトシヒロに礼を言った。
トシヒロがいなければ、たかしは死んでいたかもしれない。
「いくらで売れた?」
「えっーと、70ゼル」
「じゃあ、それ全部もらうぜ。そのホットドックもちょうど70ゼルだったからな」
「お、おう……」
トシヒロ に 全財産 を 奪われた。
「ああ、そうだ」
と、トシヒロが思い出したように言った。
「僕、王様に呼ばれてるんだった」
「え、王様? 王様って、あの城の?」
たかしは、気になっていた町の奥にそびえ立つ真っ白い城を指差して言った。
「うん、そうだよ。たかしは呼ばれてないの?」
「え? いや?」
「あ、そう。じゃあ、またね~」
そう言い残すと、トシヒロはたかしに背を向けて、城へと向かってしまった。
と、トシヒロはふと足を止め、なにかを思い出したように振り返った。
「ああ、そうそう、あとそのパジャマ、早く着替えたほうがいいんじゃない? みっともないよ。みんなに見られてるしさ」
「うるせぇ!」
それだけを言うと、トシヒロは今度こそ、行ってしまった。
たかしはいろいろと聞きたかったのだが、空腹でそれどころではなかったことと、トシヒロに変に見栄を張ってしまい、結局聞きたいことがほとんど聞けなかった。
「土下座をしてでも、一緒に行動しようと言うべきだっただろうか……」
だがもう遅い。トシヒロは行ってしまったのだ。
いや、遅くない。何もわからない今、手がかりはトシヒロと、トシヒロだけ呼ばれていたという王様のいる城だけなのだ。
たかしは呼ばれていないようだったが、もしかしたら何らかのイベントを規定のルートで通らなかったから、そのイベントが発生しなかったのかもしれない。
たかしは、トシヒロの後を追って、走り出すのだった。