この世界のシンジツ
「ドウシテコウナッタ!」
たかしは呪文を唱えた。
だが、その呪文は空に霧散した。
攻撃力最弱の木の棒を持ち防御力0のパジャマを着た少年、たかし。
最強の武器も最強の防具も与えられず、女神にも合わず、ただ寝て起きたら、異世界の草原にほっぽり出されていた。
「なんで俺だけなんだ!」
「無慈悲にも程がある!」
とは言いつつも、たかしは、なぜ自分がこの異世界に飛ばされてしまったのかについて、ここにいてもまたスライムに襲われかねないので、とりあえず歩き出しながら、考え始めた。
その点について、少し思い当たる節があることを、たかしは思い出した。
「確か、俺は昨日、友達にモンスターズワールドダンジョンメーカー2というゲームを貸してもらったんだ……」
たかしの友達とは、ネットのオンラインで知り合った、謎のチーターである。
そのチーターに、面白いゲームがあると言われ、そのゲームデータを送ってもらったのだ。
しかし、そのデータは壊れており起動できなかったため、明日また、送るという話になっていた。
ゲームの内容は詳しく教えてくれなかったが、ありきたりな、勇者が魔王を倒すRPGゲームだと言っていたのを覚えている。
「考えれば考えるほど、わからん!」
たかしの頭は、真っ白になった。
「確かそいつは、俺が考えた超最強の異世界ゲーとか言っていたっけ」
もしもそのゲームデータに入ってしまったのだとしたら、こんな扱いはおかしいはずである。
「これはおかしい。だとすれば、俺は、最強なはずだ。仮にも、そんな非現実的な俺の妄想が、現実だった場合の話にはなるが……」
と、たかしはある言葉に違和感を覚えた。
「俺が考えた……?」
たかしの頭の中で、何かが繋がり始める。
突然囲まれたスライムたち。
近くにあった木の棒。
あれがすべて、配置されていたものだとしたら。
「あの野郎、まさか!」
「自分で作ったゲームに、俺を招待したとでも言うのか!!」
ヒュゥゥー・・・
そよ風が、吹きすさぶ。
ピコーン!
《スキル 怒り 発動しました》
「クソー! あのヤロウ! マジだったら、許せねぇ! 元の世界にあったら、ぶっ殺してやる! 会ったことねぇけど!」
たかしは怒り狂いながらも、奥底の冷静さだけは失わなかった。
やがて、たかしはある場所を見つけ、足を止めた。
「町だ!」
たかし は 町を見つけた!
「おい!!!」
「こっちを向け!」
突然、誰かに呼び止められ、たかしは振り向いた。
振り向くと、そこにはいかつい装備をした無精髭の色黒のおっさんが立っていた。
「どうしてこんなところに、冒険者でもないチビがいるんだ!?」
「うるせぇ!」
たかしは捨て台詞を残し、とっさに逃げた。
「おい! 待て!」
いかつい防備のおっさんは、予想通りののろまさで、すぐに遠くなった。
おっさんは追いかけようとしたが、諦めたようだった。
「ふぅ、あぶなかった……。なんかあの人、俺を怪しんでいるようだったな。右手に構えた大斧。下手なことを言えば、殺されていたかもしれない。まあ、こんなパジャマ姿じゃ、怪しまれても仕方ないか」
たかしは息を吐くと、近づくごとにデカく見える町を目指して進んでいった。
続く。