97話「電車」水野智之。
これは本で読んだ話で、信憑性は定かではないです。なにせ、電車の話なので。
Dさんは通学のために毎日A駅を利用していました。そこから電車に乗って学校に向かい、そして帰って来る。慣れ親しんだ道です。
でもその日は、なぜか乗り過ごしてしまいました。途中で眠ったわけでもない、ケータイを触り続けていたわけでもない。なのにそこは知らない路線でした。
駅名が分からない。終着駅が、途中駅も、何も見覚えがない。
Dさんはケータイで現在位置を確認しました。しかし半ば予想通り、位置情報は取得出来ませんでした。電波は届いているのに。インターネットで駅名を調べても、ヒットしない。
Dさんはしかし、タフな人でした。調べても考えても分からないから、寝よう。駅員さんに起こされるまでひたすら眠りました。
何時間か、それとも何日間が経過したのか。ケータイが電池切れになった頃、電車が止まりました。
Dさんは寝ぼけ眼のまま電車を降り、やっと家に帰れると体を伸ばし、見知らぬ街を歩き始めました。
見知らぬ生き物と見知らぬ言語の街を。
Dさんは今も行方不明のままです。
ところで皆さんはDさんに会いたいですか?もし会えるなら、行ってみますか?Dさんの今のお住まいに。
冗談です。
ぼくの話にも最後まで付き合ってくださって、ありがとうございます。
では次の方。