96話「窓」城新地。
これは友達から聞いた話なんだけどよ。
矢野が小学生の頃だ。親と一緒に買い物に出かけて、それで駐車場の車の中で待ってたんだ。もちろんエンジンはかかっててエアコンも効いてた。
親の入った店に興味のない矢野は、買ってもらった漫画を読みながらジュースを飲んで、まあ悪くない環境だった。
親が帰って来るまで、長くて10数分。矢野は当然、何の不安もなく車の後部座席でくつろいでた。
コンコン
突然、窓を叩く音がした。
矢野は親が帰って来たと思ったんだが、車の外には親はおろか、誰の姿も見えない。本から顔を上げるタイムラグはあったにせよ、そんな瞬間で車から離れるわけはない。もしくは窓の下に隠れてるかだが。そんなイタズラの目的が分からない。
結局、気のせいという事にした矢野は、気を取り直して、また本を読み始めた。
コンコン
再度の音。だが、ちらりと周囲を見回した矢野は、今度こそ無視を決め込む。両親じゃない以上、イタズラは無視で構わない。
ゴンゴン!
音は、大きくなっていた。少しずつ、そして今は窓ガラスが割れんばかりに。
もう本を読んでいるフリも出来なくなった矢野は、窓の外をギラギラした目付きで眺めたが、それでも何も見えなかった。
矢野は考えた。ドアを開けるべきか否か。
答えは簡単に出た。窓の外に居るモノを信用出来ない以上、親を待つ。
矢野は全神経を集中して本を読む事に必死になった。耳がおかしくなりそうな轟音も、車が揺れるほどの振動も、全て無視した。
ガチャリ
矢野の体感時間では、1時間。実際には8分間が経過した時、親が車を開けた。
人生で一番怖かった瞬間は、親が帰って来た時だった。
矢野は今は笑ってそう言っている。
これでおれの話は最後だ。
じゃあ、次。よろしく頼むぜ。