91話「ゴミ収集車」神渡京介。
いよいよ最後。なんとか、ネタも残りました。
これは友達から聞いた話なんですけど。
うちの学校では、何か親のお手伝いをしましょう、というキャンペーンというか、イベントみたいなものがあって。で、おれや友達なんかは、家のゴミ出しのお手伝いで茶を濁してたんです。料理とかは、あんまり出来ないんで・・・。
その友達、名前は後藤にしときましょうか。後藤もおれと同じで、毎週のゴミ出しをしてて、ついでに近所の人とも顔見知りになって。学校への宿題提出も順調に進んで、まあ良い感じだったんです。
それで、いつもの通り、燃えるゴミを出しました。後藤の住んでるマンションのゴミの集積所には扉があって、猫やカラスがあされないようになっていました。だから人間が開け締めするんですけど、たまーに締め忘れる人も居たりして。もちろん、後藤も何度か締め忘れた事はあって、人の事は言えないんですけど。
それで、その日も後藤はゴミを出しに行きました。普段どおりの時間に、いつもの場所へ。すると、扉が開いていたそうです。
後藤は別に怒ったりはしませんでした。さっきも言ったとおり、誰でもついうっかり忘れるものだし、カラスや猫が入ったからって、被害はゴミ袋だけ。キレるほどの話じゃない。
でも、その日は、少しだけヘンでした。
ゴミ収集車が来るまで、まだ30分はあるはず。なのに、後藤がゴミを置くと同時に、収集車が停まりました。
こんな時間に来たら、回収されない人がいっぱい出るんじゃないか?
後藤はそんな不審感を抱きましたが、別に文句を言う事もなく、収集車を見送ったそうです。
ただ。少し気になったのは、業者さんがやけに若くて良いガタイをしていた事。後藤は学校では陸上部でしたけど、趣味で総合格闘技のジムにも通ってて、そこのプロの先輩たちみたいな体に見えたそうです。
新人かな?と、ふと思いました。玄武さんは知ってるでしょうけど、日本で格闘技で食べていくのは大変で、プロになってからも普通にアルバイトで生計を立てている人が大半です。
でも、彼らの体が気になったのは、ただゴツかっただけじゃないんです。
そんな鍛えられた体で2人がかりで重そうにゴミ袋を抱えて収集車に積んでいたのが、気になったんです。
・・・ペットの死骸?
大型犬なら、人間並みに大きくなる犬もたくさん居ます。ひょっとして、収集業者に連絡して、朝早く引き取りに来てもらったんでしょうか。だから、わざわざ体力に自信のある人達を選別して。
なるほど。あまりしたくなかった納得をしながら、後藤は自分も学校に向かいました。
ところで、関係ないかも知れませんけど、この日から後藤のマンションでは、行方不明者が1人出ていました。
後日。また後藤は朝早くに収集車を見かけました。今度は早朝ランニングの時間に。
後藤は何気なく、階段に隠れるようにして、業者の仕事の様子をうかがいました。またペットの死骸か何かを回収するのが、ちょっと気になって。
その時、出ていたゴミは2つ。おそらく、同一人物が出したであろう2つの袋。やはり、業者は重そうにしながら、慎重に抱えていました。
そして後藤は見ました。
袋からわずかにはみ出ている、黒い毛に。
もちろん、犬種によっては黒い体毛だろうし、なんならペットに猿を飼っている人も居るでしょう。
でもその毛は、まるで人間の女性のもののように見えたそうです。
そしてその毛の見えた袋とは別の、もう1つの袋の中には、2つの長い何かが入っているように見えたそうです。
後藤はそれ以上は語りませんでした。業者のナンバーを控え、いつでも警察に届けられるようにしながら、でも通報しませんでした。
マンションを後にするまで、怖くて何もする気はないそうです。
あのゴミ袋に触れていた業者は、間違いなく中のモノの感触で、何が入っているのかを理解して仕事をしていたはず。
おれは後藤を責めませんでした。いつか後藤の身の安全が確保されてから、真実が明らかになれば良いと思います。
以上です。次をお願いします。