89話「悪夢」原唯。
怖い夢、って一口に言っても、色々ありますよね。階段から落ちる夢。お化けに追いかけられる夢。死ぬ夢。
どうしようもなく無抵抗で何も出来ない恐怖。
これはそんなお話です。
遠野くんは怪談が好きで、テレビのホラー映画なんかを心待ちにしていた人でした。
妖怪も好き。幽霊も好き。殺人鬼も好き。
そんな無敵の遠野くんは、ある日悪夢を見ました。
その夢の中には怪異など、一体も出ません。
出たのは隕石だけでした。
遠野くんの家の周囲はクレーターだらけで、隣近所に住んでいた人々は皆血のシミになるか、肉片になって転がっていました。
吐き気を覚えた遠野くんは、避難がてら家を出て、ひた走りました。しかし行けども行けども、建物が見当たりません。
瓦礫。クレーター。廃墟。
無事なものが無い世界で、遠野くんは発狂しました。それ以降の記憶はありません。
それからの遠野くんは、怖いものから少し距離を取ってしまったそうです。怖がりになったというか。
自然現象にあんなにも怯えてしまう自分を認識した遠野くん。
でもそれって、ちょっと大人になった、って事なんでしょうか?
じゃあ、次の人お願いします。