88話「裏道」明野未明。
これは先輩に聞いた話なのですが。
先輩は大学に近い場所に実家があり、通学が楽なのが自慢だ、と言っておりました。
ただ、先輩の友人でも、先輩の家に遊びに行った人間は居ません。
その理由を先輩はこう話していたそうです。
A区の国道沿い。アクセスは最適で住環境はまあまあ。そこで生まれ育った先輩は地元民として、A区の裏道や近道もたくさん知っていました。
先輩の家の裏からつながる通りを抜けて、畑が見えたら右に曲がる。さらに工場が見えるまで直進し、工場を左に折れると、大学。徒歩20分以内の羨ましい立地です。
しかし、先輩は大学の友人とは絶対にその道を一緒に帰りません。
こんな過去があれば、それはそうでしょう。
先輩がまだ幼かった頃、母親と一緒に散歩に出かけたそうです。車の通りの少ない裏道は、子供の運動に持って来いの場所でした。
「すみません。A大学はこっちの道で合っていますか?」
母親が若い男性に話しかけられました。今思えば、私達のずっと先輩です。そしてその大先輩は先輩の母に教えられた通りの道を歩き、消えたそうです。何の前触れもなく、ふっと。
先輩は母親に、こう言われたそうです。
「この道は人を選ぶの。知らない人が嫌いなのよ」
今も先輩は、決して地元の人間以外を案内しないそうです。
もし案内をしたがったなら、その時は・・・。
では次の方、どうぞ。