87話「ポスト」水野智之。
皆さんは普段、郵便物をどこのポストに入れるか決めていますか?今はコンビニでも投函出来ますし、ポストを探す必要もないですよね。
でも、もし知らないポストがあったなら、気を付けた方が良いかも知れません。
こんな事になる前に。
Kさんは遠方の親戚に友人に懸賞にと、手紙を出す回数がかなり多い人でした。月曜日にまとめて出す枚数は平均して10枚。毎日コツコツ書き溜める習慣も、それなりに長くなりました。
そんなある日、いつも出している郵便局の前で、道路工事が始まりました。迂回すれば問題ないのですが、そうすると仕事に行くにも遠回りになります。
しばらくは郵便局前は通らなくて良いか。Kさんはそう考え、郵便物を出すのは会社近くのコンビニに変更しました。
と。コンビニよりも更に近くに、ポツンとポストが佇んでいるのに気が付きました。こんな所にあったっけ?普段は郵便局を用いているので、気にも留めなかったのだろう。Kさんはそう考え、コンビニではなくそのポストに投函しました。
郵便局前の工事が終わっても、相変わらずKさんはそのポストを利用しました。なんとなく気に入ったのです。
そしてKさんがそのポストを使い始めてから、Kさんには新しい手紙が届くようになりました。
名前の覚えはない。けれど、Kさんの住所氏名は合っている。昔の知り合いだろうか。そう考え、Kさんは返信を送りました。
そうしてKさんには新しい友人が出来たのです。
Kさんとその人の文通は続き、いつしか無二の親友という親密さになっていました。手紙の裏面で足りた文章は、いつの間にか封筒に数枚の長さにまで。
そしてKさんは失踪しました。Kさんの住所には誰も帰って来ません。会社にも。
しかしその後もKさんからの手紙が途切れる事はありませんでした。住所もそのままで。
これだけなら、ただKさんがよそに移り住んだだけの話ですが、Kさんは自分が受け取っていない手紙の返事をどうやって書いているんでしょうね。
あのポストの友人に教えてもらってるんでしょうか。
Kさんの親戚や友人は、Kさんを心配して何度も手紙で近況をたずねました。しかし帰って来る返事はいつも同じ。
皆が何を心配しているのか分からない。自分は変わりないから、心配しなくて大丈夫だ。と。
Kさんは生きているんでしょうか。普段Kさんと手紙でやり取りをしている友人達は、一度はその考えに取り憑かれたそうです。
手紙のやり取りが出来ているなら、それはKさんの無事を意味している。例え、生身がそこになくとも。
ぼくは・・・・どうなんでしょうね。研究さえ滞りなければ、ぼくは生きているんでしょうか。ぼくは、何なんでしょうか。
ちょっと怖いですね。
では次の方どうぞ。