十人十話、百物語。

８６話「通り魔」城新地。

　口裂け女って聞いた事あるか？かなり昔にブームになった化け物だ。道行く人にいきなり話しかけて、「私きれい？」って聞く自意識過剰女だ。ただ厄介なのは性格だけじゃなくて、それにどう答えても、襲って来るところだな。綺麗と答えても、そうじゃないと答えても、どっちでもだ。

　そんな奴にも弱点があって、「ポマード」と３回唱えると逃げて行くらしい。なぜポマードなのかは諸説あるがな。

　今の世の中、口裂け女より怖いもんに溢れてるから、そこまで脅威じゃなくなった。それでも会ったら怖いだろうな。脅威の象徴ではない女性が襲って来るんだから。特に子供にとって、大人の男性より安全なはずの大人の女性が敵に位置するのは、想像以上に怖いはずだ。

　だから口裂け女は、子供達の間では流行っても、大人には特段の脅威にならない。大人は大人同士で殺し会えるからな。化け物なんて要らない。

　でも、だから大人は大人が怖くない、わけじゃない。

　知ってるか。通り魔ほど狩りやすい獲物はないんだぜ？

　武器は所持していても、自分が襲われるという前提がない。常に自分が襲う側だと思ってやがる。それに警察にしょっぴかれる危険性も理解してない。まるで酔っ払いだ。

　昔会った女も、このタイプだった。マスクで口元を隠して人相判断の妨害をしているのか知らんが、絶対に運動性能は落ちた状態で、おれに突っかかって来やがった。デカい鎌なんぞ振り回してな。

　たまたま交番を襲った時に手にした拳銃があったんで撃ってやったら簡単に死んだ。防弾チョッキは着てなかった。やっぱり自信過剰なんだよな。

　まあその女、その後のニュースでも死亡情報が流れなかったから、まだ生きてるのかも知れねえ。それだったら、マジモンのホラーだけどな。まさかな。

　つまんねえ話で悪いな。んじゃ次。