78話「オープンカー」明野未明。
カランカラン。すでに懐かしい響きですが、この音、聞き覚えのある方はいらっしゃいますか?
あの結婚式の門出の際、新郎新婦が乗る車の音です。正確にはブライダルカーの後ろに付けている空き缶の音ですね。
私も映画でしか聞いた事のないものですが、先輩はこれを聞いたそうです。
これは先輩から聞いた話なのですが。
先輩は週末の買い物に、ちょっと遠出をして、寄った事のないガソリンスタンドで給油をしていました。周囲にあるのは一軒のコンビニのみ。
先輩はガソリンを入れてもらっている最中、自販機でジュースを買い、周囲をぶらぶらしていました。長いドライブだったので、少し体をほぐしたかったのです。
すると、ガソリンスタンドの隅に、オープンカーを見付けました。しかも、結婚式の「あのガラガラ」が付いたままです。
式場で使って、そのまま修理に出されたのか?そう思った先輩でしたが、なんとなくピンと来ません。
空き缶をぶら下げたまま、公道を走って来た?そんなバカな。それにこのオープンカー、ホコリを被ってる・・・。
なんだか不気味になった先輩は、さっさと車に戻って、そのガソリンスタンドを忘れる事にしました。
実際、オープンカーに空き缶を付けてブライダルカーを再現してみたかった、という遊びだったのかも知れません。あまり現実には見ないものですからね。
ですが、先輩はそうでない事を語ってくれました。
その夜。オープンカーを見た日の夜の事です。
眠りにつこうとした先輩の耳に、どこからともなく、カランカランという音が聞こえて来ました。遠くなのか近くなのか、それは分かりません。
カランカラン。ガラガラ。カランカラン。音は軽くなったり重くなったり。先輩はまるでメリーゴーランドにでも乗っているような気分になって来ました。
幽霊。お化け。妖怪。なんという名が付いているのか知らないが、寝てしまえ。先輩は朝まで寝たフリをし続け、ぼんやりした頭で翌日を無事に迎えたとの事です。
その後先輩は、あのガソリンスタンドに行ってみるべきか。そう考えるたびに、誰が乗る羽目になる?と思い直すそうです。
先輩の判断。私は賢明だと思いますよ。
おそらくオープンカーの行き先は、帰れないハネムーンでしょうからね。
では次の方。