表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

74話「幽霊さんのスーツ」透真瞬一。

 皆さんも学生服や仕事着、それにスーツなど、日常的に使う衣服に思い入れはあるでしょう。私も友人からプレゼントされたネクタイピンなどは、傷を付けるのがもったいなくて、中々使えません。親にもらったネクタイはすぐに使い古してしまいましたが・・・。


 今回はそんな、我々の衣服にまつわるお話です。


 これは友人から聞いた話なのですが。



 友人はクリーニング屋を経営しておりまして。私も使わせてもらっているのですが、確実な仕事をしてくれて、重宝しています。もちろん、他の一般のお客様からの依頼も多く、ありがたい事に商売繁盛しているそうです。


 そんな友人にも、一つ厄介な出来事がありました。


 友人の店は一般的なクリーニング店と同じく、面積のほとんどが多数の預かり品で埋まっています。圧縮して保管など出来ませんからね。


 しかしそんな店の一角に、一つのスーツだけを吊るすスペースがあります。


 ふと目にした私は聞いてみました。「これは何か特殊な事情の品なのかい?」


 友人はこう答えました。「特殊と言えば特殊。それは幽霊さんのスーツさ」


 幽霊さんのスーツ。大の大人が言うセリフではありません。


 ですが強く興味をそそられた私は、その日の夜に友人を誘って、より詳細な話をうかがいました。


 話は数ヶ月前にさかのぼります。


 友人が引き受けた一件の依頼。仕事用のスーツを綺麗にしてほしい。


 いつものように受け、いつものように遂行すいこう。約束の日までに完璧に仕上げておきました。


 ですが、お客様はいつまで経っても、来ません。


 こういった事はままあるのですが、流石に仕事着を預けたままでは、困ったのではないでしょうか。


 しかし友人は慌てず騒がず、普段どおりに預かり品にしておきました。先述した通り、よくある事なのです。


 ですから、お客様の御遺族の方から死亡を告げられた時には驚いた。そう言っておりました。


 スーツを返却し、ご冥福をお祈りし、一件落着。


 のはずでしたが、話はそこで終わりませんでした。


 翌日、職場に来て、友人は我が目を疑いました。


 昨日確かに返却したはずのスーツが、店にあったのです。


 遺族の方が返却されたにせよ、店の中に勝手には入れません。


 不気味に思いながら、友人は再度、スーツを返却用に置いておきました。御遺族を待ちながら。


 しかし、誰も取りには現れませんでした。


 友人は御遺族に連絡を取りもしませんでした。無理強いも出来ない、し。それ以上に、連絡するのが怖かった。



 今でもそのスーツは、店の一角を飾っています。


 そして友人はそのスーツを指して、こう言うんです。


 「いつか、御本人がお受け取りに来られるかも知れない。うちは信用商売だからね。大事にとっとくよ」


 全く、肝の座った男です。そして私は、そんな友人が好きです。


 皆さんも機会がありましたら、その店をご贔屓ひいきに。


 では、次の方。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ