62話「ランコ」風祭順。
今回は取材先で聞いたお話。大人になっても怪談はどこでも聞くものだね。人に恐怖心がある限り、怪談は途絶えないのかもねえ。
そんな感じで、植物園のお話。これも普段は聞かないと思うから、じっくり聞いてね。
東日本有数の巨大な植物園。観光地としてもかなり栄えていて、私みたいな下っ端ライターでさえ、10回以上も取材に行かせてもらったような場所。広報の人も何人も居てね。行くたびに人が違うような気がしたものよ。
そこでの取材が終わった後、植物園内をぶらっと歩いて帰ろうかと思ってたら、その日、私の相手をしてくれていた広報さんとの雑談が深くなっていってね。ちょうど一緒にお昼を食べていたの。
その席上で、各地の怪談話に花が咲いたんだ。私もあちこちで聞いて来た人間だから、来たぞ来たぞ、とわくわくしてたね、正直。
その人、野本さんて言うんだけど、野本さんの語るのは、その植物園でずっと語り継がれていた怪談らしい。
閉園後の恐怖のお話。
意外だけど、歴史はそこまで古くないんだ。1990年台に入ってから作られた植物園だから、老朽化もまだ。
だからかなり鮮度の高い怪談だよ。楽しみにしててね。
野本さんの担当している広報部門では、当然だけど植物園内の全ての植物を把握しているの。そうでないと宣伝なんて出来ないしね。
そうして園内を見て回ると、不思議な事に気付いたの。
そこは熱帯植物のエリアだったんだけど、ある一角だけ、むやみに綺麗なのね。普通、植物のまわりなんて、落ち葉やなんかがあって当然じゃない?お客さんもそんな自然な風景を楽しみに来ているんだし。
でもその花のまわりだけは、ちがった。綺麗、というと実は語弊があるね。周囲の土は踏み荒らされたようにデコボコで、花のまわりには雑草も生えていない。綺麗という言葉から連想されるような光景ではないんだ。
花の名前はランコ。昔の人が付けた名前で、ランの子供だから、ランコ。夏には青い花、冬には赤い花が咲く、不思議な花なんですって。
そのランコのそばには、いつでも人がすぐそばで踊ったような足跡が残る。だからダンスフラワーとも呼ばれるわ。人が踊らされる、という意味で。
ランコは大きな根っこを持った花なの。その根は樹木より広い範囲を覆い、他の競争者を寄せ付けない。ランコだけの花園を作るのね。
その花園に立ち入った者は、誰であろうと、ランコの栄養になる。植物も動物も、人間も、ね。
もちろん、ただの噂よ。ランコの物珍しさのために、従業員の間でさえ流行った都市伝説。それ自体が、ランコの注目度の高さを表しているのね。珍奇な植物を見慣れているはずの職員ですらが、注目せざるを得ない。
ランコは間違いなく、幸せだったはずよ。植物の幸せ、って何?って話だけどね。
栄養はある。日光もある。邪魔者も居ない。
だから、もっと繁栄しようとしたのかな?生命の本能のままに。
最初の犠牲者は植物園の関係者だった。熱帯エリアの管理者がランコのテリトリーに入った瞬間、ランコに襲われて食われた。
次は警察関係者。次は・・・。
もちろん、嘘だよ。こんなの根も葉もない噂に決まってるじゃん。警察の介入があったレジャー施設なんて、やってけないよ。
ただの噂でした。
ごめんね。あんまり面白くなかったよね。
じゃあ、次の方お願いね。
ああ。
そういえば、ランコのエリアの管理者が行方不明になったのは、本当だよ。どこか、教えてあげようか?