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52話「盗難事件」風祭順。

 今回は現実的な事件のお話。私も実際に立ち会ったんだけど、面白い事件だったよ。


 だからあんまり怖い話じゃないけど、そこは許してね。



 これはつい最近の出来事で、今年の1月の事件。多分だけど、新聞記事になってないから、今聞く皆はラッキーだよ。


 私が使ってもらってるある編集部で、盗難事件が発生したんだ。今年の1月は雪が多かったでしょ?うちも結構降ってて、まるで推理小説の密室殺人みたいなロケーションだったよ。起きたのは盗難だけど。


 道路が雪で綺麗に塗装された中、編集部内から一冊の本が消えた。編集部のある建物内に踏み込んだ足跡はない。


 その日、最初に鍵を開けて入った編集長は何も気付かなかった。普段どおりの部屋だと思ってた。


 気が付いたのは、その次に入室した編集員の牧野さん。彼女が机の上に置いておいた一冊の本が、消えていた。


 でもすぐに盗難と思ったわけじゃないよ。もちろん。


 自分がどこかに置き忘れたか、それとも誰かが持って行ってそのままか。とりあえず牧野さんは自分のデスクを全部探してみた。お出かけ用バッグの中も、資料箱の中も。でもなかった。


 なので、牧野さんは編集長や他の室員にも聞いてみた。誰か持ってってませんか?って。


 それでも見つからなかった。


 なくなった本というのは、金銭的な価値のあるものじゃない。次の本に使う資料なの。メイン記事になる予定だから、私も協力して集めたのよ。かなり厚い資料集で、写真やら雑誌のコピーやらを詰め込んだもの。


 だから、誰かが盗んだ、というのは考えにくかった。売っても、多分ゼロ円よ。


 ・・・言いにくい事だけど、誰かのイタズラ説の可能性は消せない。誰にだって、人に言えない気持ちはあるものだものね。


 牧野さんはそこのエースだったから、ねたまれていても何も不思議じゃなかったしね。


 で、どうしてなくなったのかは分からず、資料集も戻って来なかった。だからもう1回集め直し。それで私も雇われたのよ。


 手伝うついでに牧野さんから詳しい話を聞いたんだけど、嫌がらせのたぐいだったら、もう見つからないだろうし、うっかりだったなら、誰かの家にあるのかも知れない。どちらにせよ、うちには監視カメラはないのよ。出入り口には設置されてるんだけど、それじゃ編集長が犯人になっちゃうし。


 うん。もしかして、分かった?


 牧野さんが盗難に気付いた前日に戸締まりをした人物で、盗難のあったその日、最初に編集室に来ていた人物。それは編集長で、だから編集長が犯人。私は推理小説は苦手だから、シンプルにそう考えた。トリックだのなんだのは考えずにね。


 でも事件が起きてから数日が経過していた。全員の荷物をその場で開けてチェックなんてしなかったから、もうとっくに持ち帰って処分されてるんだろうな、と思った。


 でも、動機はなんなんだろうね。うちは編集長が一番偉い人で、言わば社長みたいなものなのよ。中小企業だから。


 牧野さんが社内に悪影響を与えるとか、そんな事実もなかった。能力はあったけど、雰囲気は普通の人だったよ。


 その牧野さんを困らせて、どうしたかったんだろう。りが合わなかったのかな。もう確認出来ないけど。


 編集長は、その後、行方不明になっちゃった。


 ある日いきなり会社に来なくなって、ご家族から行方不明の届け出も出されて、本当に居なくなっちゃったの。


 それで判明したのよ。ご家族の方からの申し出で、仕事で使うかも知れない資料だからって、編集長の私物を見せて頂いたんだけど、その中にあったわ。あの資料集が。


 現在、その編集室は、牧野さんを編集長代理として活動しているわ。多分、牧野さんが独立した後は解散かしら。


 人を呪わば穴二つ。怖い話ね。



 え?その資料を使った記事は、どんなものかって?


 なんてことのない、その雑誌の特集よ。


 ただの心霊スポット特集。実際の行方不明者が出ているという触れ込みのね。


 全然怖くなかったでしょ。単なる盗難事件だから。


 次の人、怖い話をお願いね。

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