50話「人を食ったような」亀戸玄武。
これは友達に聞いた話なんだけど。
そいつ、加藤っていうんだけど、加藤が1人で旅館に泊まった時の話。
地方に観光に来て、温泉も入って、旅館のご飯は美味しくて。最高の旅行になったんだけど、ふと夜中目が覚めちゃった。出先で神経がピリピリしてたんだろうか。
一度起きると中々寝れない加藤は、旅館の外をちょっと歩く事にした。夜風に当たりながら、夜景を見るのも一興。街はすでに寝静まっていて、夜景も何もないけどね。
それで外に出た加藤はぶらぶら、足の向くまま歩いて、気分がすっきりしたところで旅館に帰って来た。
で、そこで変なものを見た。旅館の玄関先に置かれた荷物。
こんな時間に到着したのか。大変だな。
そんな事を考えながら、加藤は部屋に戻って、今度こそぐっすり眠った。
翌朝、元気よく朝食を平らげた加藤は、勢いよく旅館を後にした。
ただやっぱり、玄関には荷物が置かれてあった。昨日見た奴だ。
旅館に置き忘れられたものかと思い、加藤は従業員に伝えた。「荷物置いてっちゃったんじゃないでしょうか」
するとこんな答えが返って来た。「いえいえ。あれはただの食べ残し。お客様にはお見苦しいものを見せてしまい、申し訳ございません」
旅館の人はあくまで丁寧で優しかったけど、加藤は愛想笑いをしたまま、全力でその場を離れた。
何か、絶対にヤバいワードが並んでた、気がする。
ひょっとしたら旅館特有の符丁で、怖がる事なんて全然ないのかも知れない。
でも加藤は自分の本能に従って、即逃げた。
ぼくもそれで正解だったと思う。
世の中には全く知らないルールがあるし、全く聞いた事のない理屈で動いている人達も居る。
その境界線がどこにあるのか。それすら分からなかったりする。
ぼくも知らない言葉を聞いたなら、注意してみるよ。
じゃ、次!