49話「運命」原唯。
・・・えっと。これは人から聞いた話なんですけど。
現代人が犯罪を犯して捕まらない確率って、どれくらいなんでしょう。殺人事件とか誘拐事件は検挙率高いって言いますよね。逆に万引きとか痴漢は、逮捕されにくい印象ですよね。
こんなケースはどうなんでしょう。
田中さんという女性が居ました。田中さんの家庭はごく普通のお宅で、学校生活にも特に問題はありませんでした。
あの日までは。
田中さんは通学中に、後ろから友達が来ているのに気付きました。信号を渡り終えたところで、友人を待とうと立ち止まりました。
友人は田中さんに追い付こうと、青信号の歩道を走り抜けようとして、信号無視の車にはねられました。即死でした。
狂乱状態に陥った田中さんを通行人がなだめてくれて、近所のカフェの店員が救急車を呼んでくれました。
しかし信号無視でひき逃げをした車はUターン。その場に居た田中さん以外の人を跳ね飛ばして、それから悠々と逃走しました。田中さんが助かったのは、壁際にへたりこんでいたためで、他の人々は歩道の中ほどに立っていて轢きやすかったからだろうと思われます。
何も考えられなくなった田中さんは現実逃避を起こし、普段通り学校に向かいました。救急車も警察も、何も呼ばずに。
学校に到着した田中さんを待っていたのは、大地震でした。校舎は崩落し、道路は地割れを起こし、田中さん以外の生徒のほとんどを大怪我や死亡に追い込んでいました。
学校が消えたのを見届けた田中さんは、家に帰りました。普段通りに。
そして夕方、家族の訃報を受け取りました。
父親は通り魔に殺され、母親はひき逃げにあい、弟は誘拐された上で死体で発見されました。
その後、数年間、田中さんはものを考える事が出来ませんでした。
理不尽。不自然。そんな表現はものの役にも立たず、田中さんは自分自身を疫病神だとしか考えられませんでした。
私、皆さんに出会えたのは何かの運命だと思うんですよね。
もっと、お話を聞かせてくださいね。
では次の人、お願いします。