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42話「桜の木の下には」風祭順。

 春の話をしようか。


 私はフリーのライターだから、割の良い仕事ならだいたい引き受けるんだけど、それでもメインで雇ってもらってるのは、旅行関係かな。とりあえず日本一周はしたよ。


 今回は、その中でも印象に残ってる記事のお話。私が本気で記者を目指した理由・・・重い?ごめんね。



 場所は日本有数の桜の名所。じゃないよ。


 そういうところは、ちゃんとしたカメラマンも連れて行くから、私みたいに1人で動いている人間向きじゃないんだ。


 私が行くのは、女性1人で気軽に行けて桜も見れる、ちょっとした観光スポット。日帰り旅行ぐらいの気軽さで、スッと行けるのが良いんだよ。そういうタイプの旅行プランや行き先を練って取材してたんだ。


 そこも、そんな場所だった。


 舞台は田舎のレストラン。辺鄙へんぴな土地に思えるけど、実はバスで来れて、バス停から徒歩5分以内。しかも周辺には桜並木のある川辺や、もうちょっと歩くと、有名なお寺まである。バス旅行にも良いし、そこからのウォーキングにも良い。我ながら気持ちの良い発見だったね。


 そのレストランはご夫婦で経営されててね。その夫婦の親御さんから受け継いだ土地に建物と庭園が作られて、野菜畑まであるんだ。だから桜だけを目当てに来ると、ガッカリしちゃうかも。確かに桜も見れるんだけど、足元にはたっぷりのお野菜。ちょっとイメージが違うよね。


 最初は物珍しさで来たお客さんも、次は味で来てくれる。そんな理想的なお店だった。お洒落、とはとてもいかない店構えだったけど、温かみはどこにも負けていなかった。女の子にはちょっと重いぐらいの椅子は頑丈で、テーブルにしたって、どんなに料理を積み重ねても平気なほど。いずれも大工をやっていた父親からのプレゼントだった。


 順風満帆じゅんぷうまんぱん。絵に描いたような田舎のレストラン経営は、3年で終わりを告げた。


 不慮の事故で、店主が亡くなっちゃったの。


 その1年前から、店主は酒量が多くなっていた。今となっては、原因がなんだったのか、はっきり分からない。彼は悪い人じゃなかったけど、熱くなりやすい人でもあった。


 ほどほどで止めておけば良いのに、飲みすぎたり。付き合いで行ったはずのスナックのホステスに入れあげたり。


 夫婦仲はどんどん悪くなっていった。


 奥さんは、いつしか決意したそうよ。離婚しなきゃダメだ、って。


 不幸中の幸い、と言って良いのかしら。不妊治療中の夫婦には子供はまだなかった。だから今の内に。


 仕事終わり。夫に酒が入っていない時を見計らって、離婚届を出したわ。


 でもあの人は、振り払った。


 最後まで、妻を愛していたからか、それとも別れるのに何かの抵抗があったのか。


 その後も彼の様子は変わらなかったから、分からないわね。



 おしまい。


 ホラー・・・・じゃないわね。ごめんなさい。


 だいたいこういう話では、桜の木の下に夫を埋めるパターンだと思うんだけど、とてもそんな事、1人じゃ出来ないわよ。人間1人隠すのに、どれだけ掘ると思う?それに人にも見られるかも知れないしさ。


 だから奥さんは何もしなかった。主人が泥酔して帰って来た後、お風呂に入れてあげただけ。警察にはバレなかった。以前から、友人間では酒癖の悪さは知れ渡っていたし、酩酊めいていした姿を何度も周囲に見せていたから、納得されたくらい。


 今では奥さんも、第2の人生を歩んでいるそうよ。何の気負いもなくね。


 じゃあ、次の人どうぞ。

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