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35話「博物館」八幡八重花。

 これは、怖い話は怖い話なんですけど、幽霊とかは出ません。なので、少しは安心出来ますよね。


 これはネットで見た話なんですけど。



 とある地方の博物館で起きた事件で、犠牲者は出なかったんですけど、その博物館はしばらく休止したらしいです。


 それはこんな事件でした。


 観光客の影も形もないような平日。お客さんは、常連のおじいさんだけ。職員も事務仕事に精を出して、館内は静けさに包まれていました。


 ここは田舎の小さな郷土資料館でもあったので、今は使われていない昔の生活用品も展示されていました。洗濯板とか漬物石とかですね。


 おじいさんは昔を懐かしんで、よくここに来ていたんです。こうして通っていれば、昔を忘れる事もない。おばあさんの事も。ちょっとロマンチックです。


チャキ


 静かな館内に、鞘鳴さやなりの音。


 おじいさんは、昔、おじいさんのおじいさんが刀を抜いて見せてくれたのを思い出しました。


 おじいさんが見やった方向では、展示回廊の中ほどで飾られている郷土の名刀が、1人でに宙を舞い、ガラスケースを切り開いて飛んでいました。


ガタン


 そしてさらに中央展示室では、戦国時代の槍や化石の恐竜の骨が動いていました。


 おじいさんは、飛び回る日本刀が、自分を貫こうとしているのが分かりました。


 だから、老体に鞭打って、本気を出しました。


 飛来する日本刀の狙いは右の眼球。その寸前で、おじいさんは刀身を掴み取りました。若い頃は剣道でご飯を食べていたおじいさんです。刃物の取り扱いに、少々の心得がありました。


 おじいさんは自在飛行する日本刀を得物として右手に収めると、次の怪生けしょうに向かい合うため、中央展示場に足を運びました。


 そこでは槍を自由に振り回しながら他の展示物を破壊して回るラプトルの姿が。


 奇っ怪な武将の姿に、しかしおじいさんは、強者の振る舞いを見出しました。


 槍の取り扱いはまるでなっちゃいない。それでも、そのスイングは人間ぐらいなら簡単に真っ二つにするでしょうし、何より体バランスが全く崩れない。子供がおもちゃを振り回すような無造作で、戦場の武器であるはずの槍をマッチ棒のように軽く、簡単に。


 強いのではない。化け物なのだ。おじいさんは、見たままに目の前の怪物の正体を察知しました。


 体長4メートルの竜と、身長150センチのおじいさん。まるで勝負にもならないような2人ですが、勝負は目と目が合った瞬間に始まりました。


ッゴッ!!


 突き抜いた後に音が発生する槍をかわしざま、おじいさんはその槍を両断しようと刀を振り下ろしました。が、その時にはすでに槍は引かれ、おじいさんは隙だらけの姿をさらしました。


 二撃目は躱せない。そう分かっていたおじいさんは、一撃目で見極めた槍の軌道をイメージしながら、影も追えない速度の突きを逸らし、今度はおじいさんが竜の体勢を崩しました。


 竜の突きは、あくまで単調。のど元狙い。一撃必殺であると同時、敵の酸素吸入を防ぎ、抵抗力を奪う、一石二鳥の最高効率の動き。


 おじいさんは剣道でご飯を食べていた人なので、武者修行中は日本刀一本でライオンやジャガーを狩っていました。


 ライオンよりはるかに大きくても、竜の動きはライオンそのもの。同じ肉食獣のモーション。おじいさんには見覚えのあるものでした。


 だから、首を狙って来た突きを躱す動きそのまま、突っ込んで来た竜ののど元を刀でかっ切りました。


 原始の血飛沫ちしぶきを浴びながら、おじいさんは懐かしい思い出に浸っていました。


 あの時のライオンも、こんな感じだった。いつかの虎も。ピューマも。


 その後、動きの鈍った竜をめった刺しにして完全に殺した後、握り締めていた日本刀が、カタカタと震え始めました。


 また飛ぶのか、と思いながら、おじいさんはそれでも手を離しました。


 すると刀は元の回廊に戻り、ケースの中に収まりました。血塗れのままで。


 手入れをした方が良い。そう言おうと受け付けをのぞいても、そこには気絶した職員のみ。


 救急車を呼んで、おじいさんは一息つきました。


 斬った後は、お茶が飲みたい。久しぶりに自動販売機のお茶を買いながら、おじいさんは若い頃を思い出していました。



 博物館は、記憶を取り戻すのに、とても役に立つ施設だと思います。


 では、次の方、どうぞ。

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