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3話「お正月に帰って来た」藤宮蛍。

 初めまして。私は藤宮ふじみや ほたる。奇遇だけど、私も迷ってしまってね。普段はこんな事はないんだよ?いつもの私は、もっとちゃんとしているからね。ま、それはいいか。


 1人、ぶらり山登りと洒落こんだら、この結果。私にはアウトドアは向いてないかねえ。


 さあ、百物語か。話には聞いても、いざ自分がやった事はないねえ、そう言えば。中々の奇縁だ。


 伝聞で良いのなら、私でもなんとかなるか。あまり気構えず聞いてくれたまえ。



 皆はお正月には帰省するかな?お盆でも良いんだが、今回はお正月の話なんだ。


 毎回の帰省ラッシュに、日本人に学習能力は無いのではないかと思わされるほどだが、皆が一斉に休みを取る事にもメリットはあるので侮れないものだ。大抵の人間が考えるような事は、他の人も考えている。いや、世の中はままならないものだね。


 と。そんな帰省の最中、やはり皆と同じく帰って来た者が居たんだ。


 もちろん、百物語の題材なのだから、まともな生者ではないよ。


 死人・・・それも年末のね。


 もう少しでその年も終わろうという時期に、不幸にも病死。せめて最後は家で、とも思っただろうけど、家族としては病院に居てほしいよねえ。もし急激な体調の変化があっても、病院と家じゃあ安心感がまるで違う。


 で。手厚い看護も甲斐なく、あっけなく逝っちゃった。苦しまずに逝けたのはせめてもの幸いかね。こういうと語弊ごへいがあるだろうけど、最後は投薬中で意識も無かったそうだ。だから、痛みも苦しみもなく死ねたらしい。私も、どうせならそんな死に方が良いなあ。いやいや、まだ、まだ死なないけどね。


 それで、その人が帰って来てしまった。お正月に。


 おいおいって感じだよね。めでたい年明けに。


 なんでその人だって分かったかって?そりゃ姿形がまんまだもの。透けてるだけで。


 ご家族も困ったそうだよ。そりゃそうさ。お盆なら、こちらも迎える準備、心構えが出来ているから、ちょっと驚くだけで済んだかも知れない。


 けど、正月は、さあ。ねえ?


 めでたい席に、なんで死んだ人間が顔出してるの・・・。ご家族がそう思っても、責められないと、私は思うよ。


 お正月。帰省した子供達や孫。年末の不幸を、明るい笑顔が癒やしてくれそうだったのに。空気読めよ、って。ね。


 でもねえ。


 死んだ人にしてみれば、知らない内に死んじゃって、それでもなんとか帰ったら、もう居場所も無くなって。踏んだり蹴ったりとはこの事だよ。


 こうなったら素直にお墓に行くかあの世に行くか。どっちかなら、受け入れてくれるだろうかね。


 お正月、何をするでもなく家の中や外をうろついていた死んだはずの人間の姿。小さいお孫さんが居るんだから、そりゃ厄介者にもなろうさ。


 可哀想だけど、その人の場所は、もうそこには無かったんだよ。


 塩まかれて、死人の影は消えたらしいよ。恨みがあったとかじゃないから、強い霊魂てわけでもなかったんだろうね。それだけで終わり。



 はい。おしまい。


 え?怖くなかった?


 そう言われても困るよ。私は怪談の専門家じゃないんだからさ。


 はいはい、次々。

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