29話「言葉」原唯。
あ、じゃあ動物園のお話を。
皆さんは動物とお話してみたい、って思いますか?
良いですよね。可愛い猫ちゃんとかワンちゃんとお喋り出来たなら、どんなに楽しいでしょうね。
でも、本当にそうなったら、怖いのかも。
伊藤さんはB動物園で働く飼育員でした。毎日動物の世話をする仕事を選ぶぐらい、動物が大好きな人でした。
伊藤さんも、人に言ったら笑われると思っていたので公言こそしていませんでしたが、実は動物とお喋りがしてみたい願望がありました。
ライオンさんはお腹すいてるのかなあ。骨が歯に刺さってるから歯ブラシしたい、とか考えているのかなあ。動物の考えてる事が分かれば良いのになあ。
そしてある日、その願いは叶いました。
いつものように伊藤さんが出社すると、そこかしこから声が聞こえて来ました。人間の喋っている声とは似ても似つかない声が。
「・・・眠い・・・」「お腹空いた」「暑い」「寒い」
檻の中から、柵の中から、あらゆる声が聞こえます。
しかし、伊藤さんはすぐさま理解しました。
聞いてても、あんまり面白くない事に。
それはそうですよね。だって、そこいらの人間に面白い話して、と言っても無茶振りでしょう。動物なら出来る、というわけではないでしょうね。
ただ動物の今の感覚はダイレクトに理解出来るようになったので、動物の手当てや体調管理は誰よりも上手くなったそうです。
伊藤さんはこの技能を隠したりはしません。誰にでも教えてくれます。
動物の言葉が分かっても、あんまり面白くないよ。って。
では、次の人お願いします。