表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/100

20話「学校からの帰還」亀戸玄武。

 唯ちゃんお疲れ!じゃあ、次はおれだね!オッケーお任せ!


 これは同じジムの後輩から聞いた話なんだけどね。



 後輩もまあ気の強いやつでね。おれもだけど、格闘技をやるやつなんて、たいてい気の強いもんなのよ。まれに弱気なのが発奮して、とかもあるけど。ああ、あとは親の勧めだね。日本の格闘技だと、ほとんど例外なく礼儀作法を教えるからね。親としては危険だけど安心感もあるんだろうね。


 で、その気の強い後輩なんだけど、学校でも番長・・・っていうと古いね。まあ何か力仕事でもあれば駆り出されるような、ガタイの良いやつだったんだよ。ジムでも積極的な性格だしね。


 で、そいつ、学校の肝試しに誘われたんだって。夜の学校に忍び込む、定番のアレ。


 まあ最近は警備装置がいっつも働いてるから、侵入とかは無理なんだけど、そこは頭を働かせてね。


 廃校になった、別の学校に行くことになったらしいよ。少子化の影響で別の学校と統合されて、今は公民館的な立ち位置になった小学校。


 そこが今回の舞台だ。


 メンバーは友人の集いで、全部で5人。名前は詳しく知らないから、聞かないでね。


 当日、午後7時。中学生の夜歩きとしては、まあまあ遅い時間帯だ。中には親の車で連れてきてもらった子も居たらしいよ。まあ、いくら夏って言っても、痴漢なんかは季節を選ばないからねえ。本物の危険に近寄る必要はないよね。


 それで、親の監視もありながら、廃校探検は始まった。なんだか色々ズレてる気もするけど。事件が起きるよりはマシかな?


 学校への侵入は簡単だったらしいよ。なんでかって、貴重品がある建物じゃなし。不審者対策はしなきゃいけない気もするけど、そこはまだだった。


 乗り越えてごらんなさい、と言いたげな門を越えて、冒険に舞台に降り立った。


 夜で真っ暗な校舎だけど、そこまで怖くはなかった。全員が懐中電灯を持ってたし、親もすぐそこで待っていてくれるし。


 それで、ルールが決まったんだ。


 校舎の奥にある理科室。そこに行って、紙を置いて来る。ノートをちぎって作った小さな紙片をね。


 順番はじゃんけんで決めて、おれの後輩は最後。まあお決まりだね。


 理科室は2階。皆、1人でそこまで行って来た。女の子も居たのに、平気だったらしいよ。すごいねえ。


 で、後輩だ。女子まで行かせて、自分は行かないなんて、とても言えない。


 それに行くのは嫌じゃなかった。ゾクゾクするものがあって、これは確かに夏の涼にぴったりだと思う余裕もあった。


 なにより、非日常的な体験にわくわくして、怖さすら楽しかった。



 あまり詳しくない学校だけど、実は何回かはここを利用する機会もあった。だから皆、すいすい行ってこれた、っていうのもある。


 廃校と言っても、現在も使用されている建物だ。後輩が歩いていても、全く危険そうな箇所はなかったらしいよ。ガラスが割れてるとか、床がはがれているとか、そんなものはもちろんなかった。


 ただ、建物の中は暑かった。もしかしたら、昼間、換気しながらの方が良かったかもね。しっかり施錠されてる締め切ったコンクリート建造物の中は、本当に暑くて、恐怖心なんかよりそっちの方が参ったそうだよ。


 それでも淡々と歩いて、2階に上がり、理科室手前。そこに紙を置いて、おしまい。


 さあ、帰ろう。


 と、したんだけど。


 道が分からなくなったんだって。


 そりゃ、一本道じゃない。教室はいくつもあるし、階段はその真ん中あたりに位置してる。だから角を間違えれば、階段を発見出来なくても不思議はない。


 けど、そんなレベルじゃなかったんだってさ。


 確かに自分は懐中電灯で照らしながら、来た道を帰っていた。それで階段を見落とすなんてあり得ない、って。


 少し、本当に怖くなって、涼しさを感じた。それでもパニックにはならなかったんだから、流石おれの後輩。え、それは関係ない?


 まあともかく、勘違いとかの可能性もある。闇夜で視界は悪いんだから、方向感覚がズレるってのも。


 それでも、階段は見付からなかった。ずっと壁際を照らしながら歩いていたのに。


 どうしよう。


 ここで、本物の恐怖を味わった。閉じ込められた。幽霊なのかおばけなのか、知らないけど、そういうのに。


 後輩も格闘技に関わるぐらいだから、腕力には自信があった。


 けど、迷子になった自分を救い出すには、無意味。


 それで、出口が見えない、分からない。後輩は参った。困った。それに、出口を求めてずっと歩いてたから、少し休もうと思って、廊下に座り込んだ。床は少しひんやりしてて、ちょっと気持ち良かったってさ。


 焦っても仕方ない。少し休もう。不幸中の幸いか、幽霊はまだ出ないし。


 で、ちょっと眠っちゃった。固い床で、起きたら体痛かったって。


「ラジオ体操行くんでしょ!」


「・・・はーい」


 ・・・そう。起きたら、自宅で、母親に起こされたんだって。


 昨日、確かに階段を見付けられなかったのに?


 あれから記憶が飛んでる。


 早朝のラジオ体操が終わって、怖いのは怖いけど、どういう事が起きたのか、確かめたい。そう思って、後輩はまた廃校に向かった。もちろん、早朝。おばけなんて出ない時間帯だ。


 学校には、なんの異常もなかった。その日は何かイベントがあるのか、朝から誰かが窓を開けて、準備をしていた。


 その様子を見て、困惑もしたけど、ほっとしたんだって。記憶が飛んでるのは怖いけど、それ以外何も起きてない。



 はい、おしまい。


 うん?これで終わりか、って?


 そだよん。何もオチなんてないんだ。


 あ、そうだ。ちょっと応援してやってほしいんだ。


 そいつ、今は海外デビュー決まりそうなんだよ。女子総合で。



 男子だと思ってた?


 うん。おれもそう思ってたよ。それに、そいつも昔は男だったような気がするってさ。今じゃ女性としての自分に慣れたらしいけど。



 あいつ、実はまだ帰れてないんじゃないかと思うんだよね。「自分」の世界に。んで、元の世界には、なぜか男になったあいつが居ると思ってるんだ、おれ。



 はい、これで本当に終わり。


 面白かったでしょ?


 次は京介くんよろしく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ