18話「絵を描く幽霊」明野未明。
では次の話ですね。
これは私の母校に伝わる伝承です。
と言っても、私も私の同級生らも、誰も見た事はありません。ただただ先輩方から伝え聞いた、よくある学校の怪談です。
放課後の教室。残っている生徒もまばらな中、現れる、見覚えのない教師の霊。
美術室で、技術室で、それに中庭にも現れる、ベレー帽をかぶった男性。かつては実際にこの学校の教員だったそうです。絵画を専門として、一般美術教師としてのスキルも兼ね備えた先生。生前はやはり、学校の至る場所で絵を描いていたそうです。生徒に美術への興味関心を持ってもらうために、最も身近な学校を描いて。
今もその先生の製作したとされる絵画が、美術室に残っているはずです。ただ、私も見た事はありません。年に一度くらい、展示されても可笑しくないはずなんですが、ね。ですから、私も実在を疑っているわけです。
そして最も信憑性の薄い理由。
その先生、何もしないそうです。目撃者を祟ったり、呪い殺したり。そんな真似は一切。
ただ現れ、絵を描く。
まるで生前のように。
たった1つ、理屈を付けるなら。これこそ、純粋な残存思念というものではないでしょうか。
絵を描く。それだけが残った全て。
私はこの幽霊を恐ろしいとも思いませんし、興味もありません。
ですが、畏敬の念は覚えます。
死んでも絵を描きたいだなんて。
・・・まるで怖くなかったですか?それは申し訳ない。
これでもウチの十八番の伝説なんですけどね。
では、次の方。お願いします。