16話「消えるトイレ」城新地。
わざとやってんのかと疑われるかも知んねえけどさ。
また、八幡さんと被っちまったぜ。次の話。
おれもトイレの怪談なんだよなあ。まあ、ホラーっつったら、こんなのしか知らねえんだ。勘弁してくれや。
ああ、だが舞台は学校じゃあねえぜ。そこは安心してくれ。
そこはとある公園のトイレなんだよ。
まあ、よくある公衆トイレ。夜になると変なのも集まるような、よくある場所さ。いわゆる不良の溜まり場だった時期もあったみてえだけど、ダチやおれらの世代になると綺麗さっぱり片付いてたな。
なんで、溜まり場になってないのかって?
そこが今回のお話さ。
おれらは不良ってわけじゃあないが、良い子でもなかった。夜遅くまで遊んで親に怒られるなんてのはしょっちゅうだったな。別に、ケンカしてたりじゃなくて、スケボーだとかフットサルだとか、スポーツにのめり込んでたんだよ。大会なんかも参加してたから、結局は親も許してくれたな。親を納得させるために学校の成績も多少は頑張ったし。
で、だ。トイレの話だ。
おれらの根城にしてた公園にも、当然トイレはあったんだ。外は薄暗いけど、中は新品の蛍光灯が明ってて、まあまあ悪くなかったな。夏場は虫がブンブン飛んで、うっとうしかったけどな。
ある時、酔っぱらいが中に入ってさ。外に出て来なかったんだよ。
もちろん、おれらもずっとそっちを見てたわけじゃない。誰かがトイレに立っても、それを気にしてプレイを中断したりしなかった。なのになんでそう言い切れるかって?
明らかに泥酔してたそいつが、個室から出て来なかったんだよ。
朝になる前におれらは帰ったけど、その時にも閉まってた。でも、おれらの中に心配してる奴なんて居なかったね。だって、普通に寝てるだろうからな。警察を呼ぶほどの事でもない。よくよく考えてみれば、鍵のかかった個室に入ってるんだから、物取りの心配もない。冬でもないから凍死もしない。
それで放っておいて、その日はお開き。で、またその深夜に集まったんだけど、さ。
想像の通りさ。
トイレは、まだ閉まってた。
個室は2つある。だから困るって事もなかった、が。
いい加減、おれらも不安になって来た。もしトイレで死んでたら、ここの誰かの責任になるのか?おれらは何もしてないのに?
それで、一応救助?救護?ってのをやろうとしたんだよ。トイレのドアをドンドン叩いて、大丈夫ですかー、って。
んで、しばらくやっても埒が明かないからさ。最後には警察に通報したんだよ。黙ってて警察に見付けられたら、それこそおれら全員が容疑者になっちまうからな。
そうしてトイレをこじ開けたら。
中には誰も居なかった。
ガッカリなオチだったか?
でも、おれらは心底ブルったぜ。穴も開いてない個室から、人間が消えちまったんだ。もちろん、おれらの知らない内に帰った可能性はある。少なくとも警察はそう結論づけた。
でも、おれらの結論は違う。正体をなくすまで酔ってた奴が、朝までにしっかりした足取りでおれらの気付かない内に居なくなるだなんて。考えられねえ。
それからは、仲間内であそこの個室を使う奴は居なかったな。どれだけ腹が痛くても、必ず遠くの公園まで行ってた。
あんまり怖くなかったかな?これで話はオシマイ。
あー・・・。1つ付け足すと。そのおっさん、無事に帰って来たらしいぜ。これ言うと全然怖くなくなるからどうかなとは思ったんだけど。行方不明になった男性が、半年後に発見された。ちょっとしたニュースになったから、この中にも知ってる奴も居るんじゃないかな。消えてた間の記憶もなくなってて、現代の神隠しとまで言われてたんだぜ。
じゃあ次の人よろしく。あ。
なんか、今のおれら、トイレに消えた人と似てねえかな・・?ま、気のせいか。