15話「アクティブ花子さん」八幡八重花。
えーと・・・。じゃあ、これで。
これは私の学校での噂話なんですけど。
皆さんも学生時代、聞いた事があるかも知れない話です。
トイレの花子さん。
有名ですよね。多分、日本の怪談トップ10に入ってますよね。
私の学校にも、もちろんありましたよ。
4階のトイレの4番目の個室を4回ノックすると出るとか、1階の来客用トイレが、実は事故のあったトイレだとか。
それで、ウチの学校にはもう1つ、特徴的な花子さんが居るんです。
アクティブ花子さん、ていうんですけど。
その花子さんは、アクティブの名に恥じない、大変活動的な花子さんなんです。
だからって言うかなんていうか、生徒達の遠足行事や修学旅行先にも、トイレの花子さんとして随行するそうです。
それでこの話は、私の体験じゃなくて、私の先輩から聞いた話なんです。
春の修学旅行。その先輩は、九州地方を巡るルートを選択しました。他に、北海道や京都などもあったそうですが、九州ルートにだけ遊園地で遊ぶ時間があったのです。
旅行は楽しく進んで行きました。日程通りに九州温泉巡り、お土産漁り、そしていよいよ目玉の遊園地。
九州パンゲアランド。従業員数500余名を数える、西日本屈指の総合エンターテイメントパーク。
私も行った事があるので分かりますが、素晴らしい場所ですよ。牛丼が美味しかったです。・・・アトラクションは乗っていないので分かりません。
それで、遊園地です。
先輩は5、6人のグループで園内を回っていました。気の合う友人達と遊び回るのは大変気の晴れる行為で、先生達が一緒に居たとしてもなお楽しいものでした。
それでも、好事魔多し。
楽しい場所ならなんの問題も起きない、という事はありません。
1人の先輩がトイレに入った時の事です。他の皆さんは自販機でジュースを選んでいました。
トイレの個室を開けると、そこに不審者が居たそうです。
驚いた先輩ですが、とっさには声をも出せず、硬直してしまいました。いきなり「キャー!」と声を上げられるのは、それだけで才能です。普通は練習をしないといけないそうですね。
そしてその先輩も、普通の女性として、大声を上げる事も抵抗も出来ず、個室に引き釣り込まれたそうです。
通常であれば、この後は陰惨な光景が繰り広げられるのでしょう。先輩も、最悪生きて帰れなかったかも知れません。
ですが、先輩が入った個室は、一番入り口から遠い、4番目の個室。
先輩が入った瞬間に、そこは花子さんのテリトリーと化しました。
学生が入ったトイレは当然、学校の管理監督が働きます。トイレの花子さんという監視者も、もちろん付属して。
花子さんは、学校の異物である、女子トイレに存在する不審者をとりあえずバラバラに解体した後、圧縮してゴミ箱に叩き込みました。
「トイレは清潔にね」
花子さんはそう言い残して消え去りました。先輩は、恐怖と戸惑いの中で、そんな声をおぼろげに覚えていたそうです。
目の前で男性がこの世ならざる力によって消滅させられたのですから、無理もないでしょうね。むしろ、よく記憶があったものだと、尊敬すらしてしまいますよね。
先輩はトイレでの出来事を、とりあえず友人達に相談しました。なぜならもしこれが殺人事件なら、第一容疑者は先輩です。
まさか、花子さんがやりました、では通らないと女子高生である先輩方も分かりきっていたのです。
先輩方は、トイレ内をくまなく観察。血痕や男性の持ち物、衣服の切れ端などの痕跡が、最低でも目視では認識出来ない事を確認してから、この事件を黙っている事に決めました。
喋った所で、先輩の不利益になるばかり。通りすがりの不審者の肩を持つ気もありませんでしたし。
そして、その件は、表沙汰にはなりませんでした。その地方では行方不明者が一名増えたかも知れませんが。殺人事件として捜査される事は、決してありませんでした。花子さんが、上手くやってくれたのでしょう。
それから。
修学旅行から帰って来た先輩方は、その後の学校生活の中で、トイレ掃除だけは、絶対に手を抜かなかったそうですよ。
やはり、トイレの花子さんは、学校には欠かせない怪談なのかも知れませんね。
では、次の人どうぞ。