12話「恋人はお医者さん」風祭順。
京介君、上手いね。いやいや。本当に、語り手としてやって行けるように思うよ。怪談を情感たっぷりに喋れる高校生というのも、中々珍しい。もし、何かあればケータイにかけてくれ。君は、面白い。
話がズレすぎたけど、では私の番ですね。
これも病院のお話で、しかも主役は女性だ。被っているね。
まあ、今回は大人。妙齢の女性だから、許して欲しい。
名前は仮に、裕子さんとしておこうか。裕子さんは20台の社会人で、元気いっぱいに下っ端を謳歌してたんだ。私達と似たようなものだね。
でも、ある日酔って階段を転げ落ちるという、不幸な事故に出会い、入院の憂き目に。
そして物語が始ま・・・らないんだなあ。なぜなら、既に始まっていたから。
その病院には、裕子さんの彼氏が務めてたんだよ。お医者様として。手術もどうやら、彼にしてもらえそう。やったね。
親類などの関係の近い人の手術は出来ない、という医師も居るそうだけど、裕子さんの彼氏はむしろ奮起したようで、念入りに体調を整え、手術の日に備えた。良いねえ。羨ましい。
そして迎えたその日。裕子さんは、実はそこはかとない不安を抱えていた。
いつもなら、医師としてではない、仕事終わりの彼が病室に遊びに来てくれるのに。その日は、仕事前に来てくれてない。
もちろん、今日が大事な日だとは分かってるよ。彼はその準備にかかっているはず。
今遊ぶより、大切な手術に備えるのが肝要。彼が良い人であればあるほど、そう考えるのは自然。
だから、裕子さんも少し寂しかったけれど、我慢したんだ。幸い、手術自体は難しいものではなく、数時間後には病室で読書だって出来る。彼は、手術後の様々な実務、そしてまた準備など。とても一緒には居られないだろうけどね。
元気になれば、問題なし。休日を一緒に過ごせば良いのだから。
で。手術は問題なく成功。
術後、病室で目覚めた裕子さんは、そっと生還を噛み締めた。別に、命の危機ではなかったんだけどね。
それまでの不安が、まるで無駄。喜ばしい無駄だねえ。
ただ・・・。
麻酔を打つ時ですら、彼が一言も喋らなかったのが、気がかりと言えば気がかりだった。それまで、看護師さんが同席していようと、冗談を飛ばしてくれたりしたのに。やはり、緊張から真剣になっていたのか?
そして始まったリハビリの日々。辛抱の要る時間だったけど、これからは良くなる一方。頑張りがいしかない。
けれど、彼には会えなかった。
泣きはらした彼のご両親には会えたけど・・・。
彼。
交通事故で死んじゃったんだって。
健康に気を使って、規則正しい生活を心がけて、彼女のために整えた体は、1台の酔っぱらい運転のために一瞬で潰されてしまった。
手術に挑む彼女の精神に最悪の悪影響を与えるだろうから、決して口外されないよう、看護師間でも意思統一されていたそうだよ。
彼女は悲しかった。リハビリに行くのも億劫になるくらい、しんどかった。
それでも、頑張ったんだよ。だって彼が成功させてくれた手術だもの。
・・・ねえ。
1つ、不思議があるのに気付いたかい?
彼は、手術前に亡くなった。
けれど彼女は、彼に麻酔をしてもらっている。
これは彼女の記憶違いだろうか。ただの勘違い?
・・いくら手術着をまとっていたとは言え、彼氏を別人と間違えるなどという事があるだろうか。
真相は、謎さ。答えはどうやっても出ない。
でも。
彼女を守ってくれたのは。彼女を、死んでも助けたかったのは、誰なんだろうねえ。
それじゃ、次。藤宮さんね。




