10話「夏祭り」亀戸玄武。
いやあ、ぼくがラストかー。責任重大というか、緊張しちゃうねえ。ぼくの仕事次第で百物語がめでたしめでたしで終わるかどうか、決まっちゃうからねえ。
ぼくは 亀戸 玄武。プロ格闘家をやってます。たまにテレビにも出てると思うんだけど、どうかな。見た事ある人居る?・・・居ないかー。まあ、民放の深夜枠か、ネット配信がメインだからなあ。売出し中だから、名前覚えてってね!
それでまあ、毎日のトレーニングの最中に迷ったってわけですよ。ここの山を走って登るのは、それなりにやってて、迷った事なんてないんだけどなあ。
まあ寝床も確保出来たし、夜露もしのげる。遭難なんて事にはならなくて、不幸中の幸いって感じ。
それじゃあ、お宿代として、怪談。支払わせてもらいましょう。
うーんと。そうは言っても、ぼくもあんまり知らないんだよなあ。
だから、おばあちゃんから聞いた話をしますね。ぼく、おばあちゃんっ子で、色んな話をよくせがんでましたよ。
それで、これもおばあちゃんから聞いた話なんですけど。
昔々、ある所に一組のカップルが居ました。2人は大変仲が良くて、学校を卒業次第結婚すると、親同士まで認めていたほどでした。
でも、お嫁さんになるはずだった女の子は、死んじゃいました。流行り病で、あっけなく。
それは夏の手前。梅雨の終わる前。お葬式も、雨のしとしと降る中で取り行われたそうです。
1人残された男の子は、しばらく何も手に付かなかったそうです。そりゃそうだよ。自分の半身みたいな存在が、居なくなっちゃったんだから。
でも、時間は過ぎる。男の子は、なんとか日常生活に戻って、立ち直り始めた。
そうして迎えた夏祭り。
2人で楽しく遊ぶはずだった季節を、1人の彼は憂いを帯びたまま歩む。彼女の墓前に、報告するために。2人で見るはずだった光景を、彼女に届けるために。
家に帰った彼は、花火の響きを感じながら、風鈴が揺れるのを聞いていた。彼女と選んだ風鈴だ。
そして気付いた。
蒸し暑くて風も吹かない夜。だから花火も無事に打ち上げられている。
風鈴が鳴るはずが、ない。
ちりん。
姿は見えなかった。けれど、彼は不思議に確信していた。
彼女が、会いに来てくれた。自分を見てくれているのだと。
家族はまだお祭りから帰って来ていなかったので、彼は遠慮もなく、彼女に向けて思いの丈をぶちまけた。
花火が終わった頃。家族の帰って来る少し前。
風鈴の音は、止んだ。
彼女も、帰った。彼女の今の世界へ。
それっきり、彼は彼女の気配を感じる事はなかったそうです。次の夏祭りでも、その次の夏でも。
あるいは最初から気のせいだったのかな?それとも、彼女が怖いお化けじゃなかったから、風鈴の音色だけの出現に留まった。
どちらにせよ、お話はこれでおしまい。
夏の不思議でした。
じゃ、次の人。って、一周したから、京介君になるのか。
よろしく!