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冬怪談

転職?それとも天職?

「もう、やめようかな・・・」


寂しい一人声が反響する。


時計の針は真夜中の12時を指しているものの、男はまだ職場で書類整理をしていた。


数年前から総合商社とは名ばかりの飛び込み営業要員としてこき使われ、朝から晩まで住宅街を練り歩き、オフィス用品や日用品を買ってくれと縋り付く毎日。


このご時世、ネットを駆使すれば宅配まで行う大手の販売業者がいるのに、わざわざ押しかけてまで物を売ろうだなんて消費者からすれば怪しくも見えるだろう。


男は太陽が昇る前から訪問販売を始めたが、新規顧客の獲得は1件のみで、それも一ダースのトイレットペーパーの発注をもらっただけだった。


受発注をまとめる報告書には大きな空欄が出来上がり、そのことがさらに男を悩ませる。


「そろそろ、本格的に転職を考えた方がいいかもしれない。」


男がそう呟いた時、一本の電話が鳴り響く。


「なんだよこんな時間に・・・」


非常識な時間にかかってくる電話は大抵厄介ごとだ。


男は嫌々ながらも声のトーンを確認してから受話器を取った。


「はい。お電話ありがとうございます!〇〇商事です!」


男は元気よく会社名を名乗ったが、相手からの反応はない。


しばらく、根気よく「もしもし?」と尋ねながら相手の反応を待っていると、消え入りそうな声で返答が返ってきた。


「56‥ィ‥。‥…ョゥ……。」


男はほとんど相手が何を言っているか聞き取ることができず、声の大きさを挙げてほしいと要求したが、その電話はそのまま切れてしまった。


「なんだったんだ?」


男は首をかしげて受話器を置くと、以前、同僚が遅くまで仕事をしていたら何度も無言電話があったと言っていたのを思い出した。


「いたずらか?それにしては質が悪いけど・・・」


結局、男は考えるのを放棄して仕事に戻ったが、ふとある事に気が付いた。


「もしかして・・・最初に言ってたのって商品番号か?」


男はすぐさま会社のカタログを引っ張り出し56-Eを確認する。


「カーネーションだ・・・」


カタログには色とりどりの造花が描かれていた。


「仮に最初に商品番号を言っていたなら。後に言っていたのは住所か?」


男がそのことにたどり着いた時、再び電話が鳴り響いた。


男はゴクッと生唾を呑み込み受話器を取った。


・・・


「おいおい、嘘だろ・・・?」


男は何とかして住所を聞き取ると、現場に足を運んでみて震えた。


集合墓地。


「いやいや、怖すぎるだろ!どういうことだよ!」


それでも、わざわざこんな時間に商品を持ってきた手間が男の背中を後押しする。


「くっそー、呪われたら会社に慰謝料請求するからな!」


男は震える足に鞭を打って集合墓地へと入っていくと、とある墓の墓前にきっかりカーネーション分のお金が置かれていることに気が付いた。


「ここってことだよな・・・?」


男は怯えながらもその墓に花を生け、ついでに墓をきれいに磨いてから手を合わし、墓地を後にした。


それからというもの男の成績はうなぎのぼりだった。


熱心にビラを配って営業をかけていたのが功を成したのだろう。


ただ、男にはある悩みが・・・




「宅配先が毎回、墓なのはなんとかならねぇかなぁ・・・?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖い話のはずなのに、結末を読んで本気で吹き出しました。 会社勤めとはお客様の選り好みなどしてられないものです。それが死んだ人からだとしても。「お客様は仏様」です。 [一言] 主人公が良い人…
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