入学と《幻想支援者》
「さあ、君のエージェントを登録するよ。まずは、それを腕につけてよ」
腕時計型のUSSIをつけた。
「それから、手を閉じてすぐ開いてみて」
アルカスの通りにすると、自分の情報が示されたホログラムが表示された。
「おお!僕の情報が出てる!」
「ああ、そうだね。じゃあ、その画面に人の形のところがあるだろう?それを触ってみて」
触れると、メニュー画面のようなものが縦にたくさん出てきた。
【個人情報】【スキル・アビリティ】【他機との通信】【エージェント】etc…
「たくさんあるんだなぁ…」
「そこにあるエージェントの項目を触って」
これか…。4番目の項目に触れると、『エージェント登録』という画面が出てきた。
「まずは、型を決めるところからだね。僕のように人型にするか、テュールのようにスフィアにするか、はたまた、動物や幻獣のようにするか。…どうするんだい?」
「幻獣…?」
「幻獣とは、ドラゴンやペガサスのような生き物のことだ」
「うーん…。僕は人型でいいかなぁ…」
「じゃあ、人型って所を触って」
「はい。…女性、男性か…。どっちにしようかな」
女性、か…。女性にすると、妹に似たやつが出てきそうだな。あいつより優れた人は多分いないだろうからな。
僕は迷うことなく女性を選んだ。
「そこから先は、USSIが君にあったエージェントを作成してくれるから、何もしなくていいよ」
『エージェント作成…。……。作成完了。あなたの記憶に最も結びついていた女性をエージェントとして登録。』
僕のエージェントができた。…そこにいたのは、普通に立っている妹だった。
「カノンが、僕のエージェント…」
『兄様!やっぱり繋げることが出来た!』
「え?お前…」
『はい!兄様がいなくなってから、兄様のお友達のお家でかなり考えて、兄様と再び会える方法を考えていたのですが、先程、私と兄様が繋がっているラインから、このエージェント?という情報が伝わってきたんですよ!』
「じゃあ、お前の意識は、こっちの世界にあるのか!?」
『はい!』
「ルキア。アルカも俺もよく状況が分かっていない・・・説明してくれ…」
「あー、えーと、こいつは、僕の妹のカノンです。カノン・月詠・ヴァルキュリア。こいつの記憶は何故かあるんです。で、エージェントを作成する時に、僕の前の世界で多分こいつが何かしたんでしょう。で、こいつがエージェントとして出てきたっていうわけです」
「じゃあ、君の妹さんも《遷移者》ってことになるのかい?」
『いえ、私はまだ意識がこっちに来ているだけなので、まだ、兄様と同じ《遷移者》というものではありません』
「何故、《遷移者》のことを知っている?ルキアがこっちの世界に来た時は、知らないような反応をしていたらしいんだが」
『私と兄様は、自分の持っている情報を共有出来る、兄妹の愛という能力を使っているので、私の肉体がある世界から、私が兄様の情報を引き出していたんですよ。もちろん、兄様からも私の情報を引き出すことも出来るんですよ』
「リンク…。その能力を使えば、僕の情報も引き出せるかもしれないのか…」
『そうです!』
「まあ、それは後でいいや。カノンは、お前の肉体がこっちに来れるように研究をしていてくれるか?」
『はい!わかりました!』
「おいおい。ルキア、お前、エージェントはどうすんだ?」
「エージェントは他に作りますんで、大丈夫です」
「じゃあ、その説明をするよ」
そこから、新しいエージェントを作成した。
『よろしくお願いします』
今度は、紅い眼をし、クリーム色の髪を持つ凛々しい女の子だった。
「よろしく」
『あなたが私のご主人様ですか?いい顔をしてるじゃないですか』
「あはは。ありがとう」
「じゃあ、エージェントも作成、登録もしたことだし、ルキア君の入学手続きを始めるよ」
「はい。お願いします」
「まず初めに、君の能力を見せてもらうよ」
「え…?僕、自分の能力分かっていないんですけど」
「大丈夫!さっきのメニュー画面に【スキル・アビリティ】の項目があったと思うけど、そこを開くと自分の能力が分かるから」
【スキル・アビリティ】の項目を開くと、
「『1度見た能力を自分のものにする能力』。それだけなんですけど…」
「君の前の世界で見た能力とかも入ってる可能性があるから、それの発見をしていくよ」
「はあ。そんな簡単にわかるかなぁ?」
「大丈夫だよ。『バトルエリア展開!』」
バトルエリアが展開された。
「バトルするんですか!?」
「違うよ。僕が一方的に攻撃して、君の能力を見つけるんだよ」
マジかよ…。僕は攻撃できないのか。
「まずは、何もしないでね」
アルカス理事長は、そう言って拳銃のようなものを取り出した。
パァン!
銃声が理事長室内に響き渡った。
「ほう。この攻撃を耐えるか…」
僕の体を見ると、心臓部が見事に撃ち抜かれていたが、そこから青い気体が流れ出ていて、僕の体は耐えていた。
「なんだこりゃ」
「今の君には、生体反応が見られない。心臓が止まっている…、いや、君の中の別の、心臓がない体に置き換わっているようだ」
「心臓がない体…」
「僕が君を撃つ直前は、生体反応が見られたが、今はそれが無い…。てことは、僕が撃ったその刹那、君の体は無意識に置き換わったということだ」
「これ、心臓撃ち抜かれてますけど、僕は死なないってことですかね」
「いや、それはまだ分からない。【スキル・アビリティ】から、そのアビリティを見つけて、詳細を調べみてくれないか」
○あらゆる攻撃を無効化させるアビリティ
└あらゆる外からの攻撃を無効化する。攻撃を受けた部位からは、身体保護気体が漏れ出、使用者の身体を保護、修復する。
使用者:サリア・月詠・ジークフリート
「あらゆる攻撃を無効化…。アリス、ちょっと彼をぶった斬ってみて」
『わ、分かりました』
ズバンッ
やはり、ルキアの体からは少し斬れて、青い気体が出るだけで、絶命には至らなかった。
「これも、別の人からコピったやつなのか?」
「多分、前の世界で見たやつなんじゃないかな」
この能力をこの世界で見た覚えがない。
「サリア・月詠・ジークフリート…?誰だ?カノンと同じ『月詠』が有るから、家族か何かかな」
「この学園に、その名前の人はいないから、多分そうだね」
この能力を持った人がいただなんて…。
「まあ、君の能力が、本当に人の能力を取っていることは分かったから、最後に君の入学、と言うより編入手続きをやるよ」
「編入?」
「ああ。この世界の学園は6歳時に、既に入学しているのが普通だからね。《遷移者》は編入ってことで入るのは仕方がないことだよ。この紙の、この欄にサインをして」
「紙、なんですね。USSIでやるのかと思いましたよ」
「出来ないことはない…、というか他の学園はその方法でやっているよ」
「じゃあなんでなんですか?」
「まあ、この方が改竄されにくいっていうのが1番かな。…はい。ありがとう!これで君もこの学園の生徒だよ!理事長として、君を歓迎するよ!」
「ありがとうございます。では、僕はこれから何をすれば?」
「まずは、君のクラスを決めなきゃならないんだけど…。テュール、君のクラスでいいよね?」
「ん?ああ、いいけど、入学段階であそこに入れるのは…」
「大丈夫だよ。彼ならね!」
なんだ?不良の溜まり場か、或いは環境の悪い所か…。
「じゃあ、この腕章を左腕に付けていてね。外していいのは、寮にいる時だけだよ」
「分かりました」
そう言って渡されたのは、《アルカディア》の校章が入った、白色の腕章だった。