遷移者ルキア
目覚めるとそこは、中世的な街並みに、近未来的な要素がある不思議な街にいた。辺りを見回すと、うしろに、14歳くらいの漆黒の長い髪を持つ女の子がいた。
「君は?」
「人に名前を聞く時は、先に自分から名乗るものじゃないかしら?」
「僕は…? 僕は誰だ?」
やはり、《神の領域》にいた時のように、思い出せない。
「記憶喪失、或いは 《聖門》を飛んできた副作用ね」
《聖門》?なんのことだ?
「よく分かっていないような顔ね。いいわ。教えてあげる」
「ここは、『戦争世界ファナティカル』。この世界には、色々な世界からの人がくるの。大抵、1年に4、5回ね。で、その人達のこと及びその人達に起こった現象の事を《遷移者》または《遷移》と言い、総じて『メタスタシス』と呼ぶの。《遷移者》は大体、記憶を喪失してる。だけど、記憶喪失すると同時に強力な能力に目覚めている事が多いわね」
「強力な、能力?」
「そう。前に、任意のものを爆破させるとか、空中の原子を利用して様々な物体を作るとか、そういう能力を見たわね」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。この世界にはそういう類のものがあるのか?」
「どこの異界にもあるでしょ?」
記憶を喪失してるのだから、前の世界にあってもおぼえていないのは当然か…
「その能力を使って私たちは、戦争をしてるの」
「せ、戦争だって!?」
「そう。戦争。」
少女の話によると、別の異界と戦ったり、別の国と戦ったりしているらしい。
「そうだ。名前を言っていなかったね。わたしの名前は『ハマリエル』。この世界で2番目に権力を持つ集団《12宮》の1人よ」
「12宮?」
「12宮とは、私を含めた12人で構成されている能力者集団」
このコ、幼そうに見えて、とても凄い人だったらしい。
「失礼を承知の上だけど、きみ、何歳?」
「17よ」
…見た目より上だった。しかも、僕が確か…16だから、1つ上じゃないか!
「僕より上だったのか」
「あら、年齢に関しての記憶はあるのね」
「大体、だけどね」
「そういえば、あなた、名前をなんとなくでも覚えていないの?」
「いや…、名前以外ならおぼえているものもあるけど、残念な事に名前は抜けてるよ…」
「なら、私が《12宮》の名のもとで付けてあげるわ」
「ありがとう。名前は生きて行く上で重要なものだから、無いのは困るからね」
「そうね。それじゃあ、今からあなたの名前は、『ルキア・ローエングリン』よ」
「ルキア・ローエングリン…」
「何よ、文句ある?」
いや、文句あるっていうか…。女性みたいな名前だな…
「この名前の由来は?」
「ルキアはこの世界の神の1人。ローエングリンは私の苗字」
「苗字…ってことは!?」
「そうよ。私の家に住んでもらうわ」
なんだって!?
「ここで行き倒れていられるのも《12宮》として放っておけないし」
住む場所が無いよりかなり良い条件だな。
「じゃあ、家に向かいましょうか」