神の領域
僕は、足が生まれつき不自由で、車椅子に乗っている妹と2人で街を散歩していた。時間は21時。19時に家を出て、既に2時間経っている。
「そろそろ、家に帰ろうか」
「そうですね。兄様。」
そんな話をしていた時、突然僕らの目の前に巨大な光が現れ、僕らを覆った。
「うわ!」
光は、輝きを増してゆき、僕たちを完全に包もうとしていた。
「兄様!」
「カノン!この光、なんかおかしい!…丁度いい!あそこに俺の友達がいる!あいつに連れて行ってもらえ!早く!」
「兄様は!?」
「この光、俺を狙っているようだ!俺が飲み込まれなくては消えないだろう!俺のことはいい!早く行…!」
僕は遠ざかる意識の中、その光に飲み込まれた。
「…!ま…、てち…で…よ!」
辺りが騒がしい。何かあったのか?
「あ!起きましたか!」
目を開けると、果てしなく続く真っ白い空間に浮いていた。声のするほうを振り向くと、銀髪をポニーテールにまとめた女性天使がいた。
「あれ?天使様がいる?ついに頭、ブッ壊れたかな?」
「何言ってるんですか?」
鼻で笑われた。
「ここはどこですか?」
「ここは、世界と世界の狭間。私たちは《神の領域》と呼んでいます」
「なんでそんな所に僕が?」
「申し訳ありません。こちらの…と言うより、あそこにいらっしゃるアルナ様の手違いで、あなたはここに転送されてしまいました」
天使の指さす方を見ると、中性的な顔立ちの男性天使が、ひどく申し訳ない顔をしていた。
「本当に、申し訳ありません!もう、なんとお詫びしたらいいか…」
天使に頭を下げられた。
「と、とんでもない!頭を上げてください!」
男性天使が顔を上げると、間髪入れずにまた頭を下げた。
「もう!アルナ様!しっかりしてください!」
女性天使が、喝を入れる。
「すみません。アルナ様は、神になられたばかりで、ミスが多いんです。この間も《人間界》に行くと言って、この部屋からでていったのに、少し後に近くの公園で、迷子になっていたんですよ!しっかりならないもんですかね!」
女性天使は、話すと止まらないタイプらしい。
「そうだ。あなた、自分の名前、分かる?」
「そりゃあ…。…あれ?少しの記憶はあるけど、名前は思い出せない…」
「やっぱり。アルナ様ぁー!この人、リストに無いから、時空の歪みに耐えられなかったらしいよー!」
「ええ!?まただよ。やっぱり僕は神様なんて向いてなかったんだ。僕はやめた方がいいって言ったのに、レイディアスのやつ、なんで推薦したんだよぉ…」
女性天使とは反対で、アルナはネガティブ思考の天使らしい。
「はあ。…マイン。ちょっと彼にこれからの事教えてあげて」
「…分かりました。突然ですが、あなたは前の世界で死亡認定されたようです!」
「え!?は!?死亡って!?僕、死んだの!?」
「はい。申し訳ないことに」
突然、死亡確定って言われても。これからどうすれば…。
「まあ、話を最後まで聞いてくださいよ。前の世界では、死んでしまったんですが、違う世界ではまた、生活を送れるようにできます」
「違う世界って、前の…、僕の世界には帰れないんですか!」
「帰れないことはないんですが、前の世界に戻るためには、莫大なエネルギーが必要なんです。で、そのエネルギーは、その、戻る本人のものを使わなくては行けないので、エネルギー不足だったりすると、あのー、完全に消滅してしまって、もう、どこの世界にも行けなくなってしまい、俗に言う『異世界転移』から、『異世界転生』になってしまって、その人自身の前の世界からの意識じゃなくなってしまうんですよ」
「少しでも…。少しでも希望があるなら、やらせてください!」
「なぜ…。なぜ、あなたはそこまであの世界に執着するんですか?」
「妹がいるからですよ!妹は…、カノンは、僕がいなきゃほとんど生活できないんです…。妹は、生まれつき足が不自由で、両親は僕とカノンが幼い時に、繁華街で暴漢に襲われて…、死んでしまったんです…。だから、カノンの支援を出来るのは僕一人なんですよ」
「でも、その方法で成功した人間は、確か…、歴史上、1500人程がチャレンジして、2人なんですよ。それより、生きたいなら、別のに転移したほうが…」
「なんで、あなたは僕を前の世界に…、妹にまた、会わせてくれないんですか!」
「私達は、あなたの安全を第一に考えて言ってるんです!じゃあ、私達が妹さんを時空の歪みに落として、この、《神の領域》に連れてきましょうか!?」
「それはダメだ…。カノンの幸せを考えて僕は生きてきた…。それをやっちゃあ、僕の生活が無駄になってしまう…」
「じゃあ、素直に転移してくださいよ」
あれ…?いや…。でも待てよ…。あのカノンなら…。或いはできるかもしれない…!
「どうしたんですか?」
「いや。カノンなら、僕が行く世界にも頑張れば1人で行けると思いましてね…。きっともう既に僕がここにいる可能性も考えているはずですよ」
「妹さんは、一体…?」
「まあ、いいです!別の世界に行きますよ!」
「やっと決めてくださいましたか!じゃあ、アルナ様ぁー!準備してくださーい!」
マインと呼ばれた女性天使が、数十メートル先にいるアルナに声をかけた。
「分かった。行く時は失敗しないから、安心してね」
「あはは。大丈夫ですよ。ここに来る時だって、時空の歪みに押し潰されないようにしてくれたでしょう?」
「気づいていたんだね」
「あなたが行く世界には、ファナティカルという都市があります。あなたが飛ぶのはその都市の中心になります。そこで、誰に拾われるかによってあなたの命運が変わってきますので、ご了承ください。あと伝える事は…。ああ、そうだ。時間はあなたの世界とほぼ同じものですので、安心してくださいね」
じゃあ、最初に良い人に出会えるといいな。
「最後に、あなたの元の世界での能力を一部、新しい体に移行しておきました」
「僕の能力?」
「そうです。あなたが記憶を取り戻せば、その力は最大限発揮できるようになるはずです」
「その力とは…?」
「それは、あちらの世界の人が教えてくれるはずです。よし!では!新世界での生活を楽しんで!」
最後にマインが、そう言って、僕はその世界へと転移した。