表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命の箱舟 リリン  作者: 胸毛ボルサリーノ将軍
終わりの始まり
15/45

空に浮かんだその後で

目が覚めるとそこは医務室だった。日は傾き、オレンジ色の夕焼けが窓から差し込んでいた。周囲を見回してみると一人の男性が目に入る。白衣を着たその男は30代後半に見えた。黒ぶちメガネに上に上げた短い茶髪が特徴的だ。クリスが起き上がると彼はこちらへ近づいてくる。



「気が付いたかい?君はここへ来るのは初めてだったね。私はネイサン・モリス。ここの軍医だ」


「あの、俺はどうしてここに」



軽い頭痛はするものの、それ以外に異常は感じられない。クリスはここに来る前の記憶を辿る。確かグレースと高速飛行の練習をしていて――



「君は酸素欠乏症で運ばれてきたんだ。相当無茶な飛行をしたらしいね。グレース大佐が大慌てで君を担いできたからびっくりしたよ。どうだい?身体におかしなところはないかい?」


「大丈夫そうです。グレースは?」


「大佐ならもう執務室に戻られたよ。心配していたから、ちゃんと謝っておきなさい」



モリス医師は「あ、特に問題ないなら帰っていいよ」と付け加える。あの時グレースの警告を無視したからこんな目に遭ったのだろうか。それも含めて謝罪する必要があるだろう。彼は医務室を出て彼女の執務室へ向かう。


その途中でセオドールとフゥラに出会った。ちょうど訓練が終わったようで、二人とも死んだ魚のような目をしていた。クリスが医務室に運ばれたことは知っていたようで、二人ともお見舞いに向かうつもりだったらしい。



「なんだ、元気そうじゃん。心配して損したわ」



セオドールが開口一番に言う。クリスからしてみれば、疲れ切った顔をした彼らの方が心身に問題がありそうに見える。



「おつかれ。余計な心配かけたな」


「ホントだよ!?グレースさんものすごいスピードで空から降りてきたもん!燃えてたし!クリス一体何したの!?」



グレースが燃えていたとはどういうことか。モリス医師はグレースはもう執務室に戻ったと言っていたが、まさか自分のせいで怪我をさせてしまったのだろうか。謝罪をしなければという思いより、彼女に大事ないか心配な気持ちが上回る。



「それ本当か!?グレースは怪我してたのか!?」


「きゃあっ!?わ、分からな――」



クリスは思わずフゥラの肩を掴む。フゥラは驚いて悲鳴を上げた。



「そうか!悪い、俺すぐに行かなきゃ!」



そんなことはお構いなしにクリスは走り去る。残された二人は唖然とするのだった。




「グレース!」



彼は執務室の扉を開けるなり彼女の名前を呼ぶ。彼女はそこにいた。いきなり扉を開けるものだから驚いた様子だったが、それがクリスだと分かると彼女は椅子から立ち上がる。


そして彼のそばまで歩いていき、ぺこりと頭を下げた。



「クリス君、ごめんなさい。私が無謀な事をさせたせいで、貴方を危険な目に遭わせてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。身体は大丈夫でしたか?」


「え?いや……あれは俺が」



彼は予想外の展開に戸惑う。てっきり叱られるものだと思っていたのだから、尚更どうしてよいのか分からなかった。しかしグレースは本当に申し訳なさそうに頭を下げている。



「俺の身体は大丈夫だ。それよりグレースが燃えてたってフゥラから聞いたんだけど、本当なのか?グレースこそ身体は大丈夫なのか?」


「私は大丈夫よ。ほら、どこにも怪我なんかしていないわ」



彼女はくるりと一回転する。確かに肌に怪我はしていなさそうだ。だがクリスは見逃さなかった。



「髪、少し短くなったな。……魔法じゃ燃え尽きたものは上手く治せないもんな」


「あ…………そうね。長さなんて覚えてないから上手く治せなかったわ」



彼女は少しバツが悪そうに髪の毛先を弄る。彼女は自分が悪いように言っているが、クリスが調子に乗らなければ起こらなかったことだ。本来なら彼女が責められるべきではない。



「俺がグレースの静止を無視したのが悪いんだ。お前が謝ることじゃない。俺のせいで怪我までさせちまって……本当に申し訳ない」



クリスは彼女に頭を下げる。彼女にとって今回の事故は、民間人を私情を交えて連れまわしたうえ事故を起こした、ということになる。組織に上げる報告書の紙面上では、全ての責任は彼女にあるということになるのだ。クリス以外の人間はそれで納得するかもしれないが、彼の胸の内には形容しがたい違和感が残る。彼女は悪くないと思うからだ。



「クリス君には責任はないのよ。でも反省するというのなら、今後は無茶なことはしないでちょうだい」


「ああ、約束する」



彼が返事をするとグレースはニコリと笑った。そして彼に一枚の紙を差し出す。



「それじゃこれ、明日までに答えを決めておいて」



彼女が差し出した紙にはこう書かれていた。


「入隊志願書」と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ