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TS戦記  作者: 無糖
first『the knights of rose』
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第6話 中央科学研究所

 

 中央科学研究所。

 発足は男女対戦以前、2010年代にドイツに本部を置いた国連技術開発機構を前身としており、科学はもちろんとしてそこから派生する医療、宇宙開発など、様々な技術を世界中から集め、人類をさらなる発展に向かわせるという素晴らしい機構……の、はずだった。

 彼らはレイラ・スカーレット博士を筆頭として万能細胞、FRA細胞を開発し、男女対戦を起こした張本人でもあるのだ。


 その技術は大戦後、核の炎から逃れ、日本に全技術を輸送。現在も中央庁管轄の機関として主にFRA細胞の研究を進めている。


「でも、いくらテロリストが力をつけてきたからって研究所を襲えるもんか。あそこの機密事項が山ほどあるし、それだけあって防御網も万全のはず。

 一体何ができるって言うんだ?」

「そこまでは……ですが注意してかかりましょう。なんの策もなく飛び込むような者たちではないはずです」

「そ、そうだね……」


 スカイバイクに二人で乗り込み、空を全速力で駆ける。

 対向車線からやってくるバイクも空車もない。まだ午後3時なのに、こんなに交通量が少ないわけがない。故にそれは、この道に先にある研究所、またはその近くで何かが起こっているということ。

 だが、この状況は銀次郎にとってチャンスでもあった。

 こんな姿で研究所の前に行こうものなら即射殺されておしまいだろう。

 テロリストたちが暴れて気を引いてくれると言うのなら、そこを利用するしかない。

 腰のベルトについた小さな箱型の装置に触れる。

 今日は何せ稼働させすぎた。自分の体もそうだが、装置自体もそろそろ限界だろう。そもそも、今の体でこの装置を使えるのか、使ったとして、無事で済むのか。

 FRA細胞は体質ですら変えてしまうほどの力を持っている。何が起こっていても不自然じゃない。


「……ご主人様、前に!」

「あれは……機動隊か?」


 機動隊。軍が対外用のものだとすると。機動隊は領域内の警護、つまりは警察の役割をする。

 黄色いエアラインを張って見張っているところを見ると、やはり予想通り交通規制が行われていたということか。

 だがスカイバイクはその性質上かなり危険な乗り物。定められた道路以外に出ることはできない。


「どうしよう、話し合い……にはできないよね、この体じゃ」

「突破するしかないかと」


 機動隊も銀次郎たちに気づいたのか、手を振って止まるように合図を出してきた。

 そこで銀次郎は、先ほどたまが自分の錠を外してくれたことを思い出す。


「たまって、実は戦えたりする?」

「いざとなったら抵抗くらいはできますけど、攻撃などはちょっと……」

「だよね……」


 たまは過去銀次郎が拾ってきてからずっと家の中にいることがほとんどだった。

 文字も言葉も銀次郎が教えたものだ。戦闘技術など持っているはずもない。


「……………………」


 目を閉じ、イメージする。

 相手は機動隊。犯罪者を捕らえるプロだ。それに対してこちらはか弱い女が二人。ダメだ、勝てるわけがない。戦闘はできない。

 スピードで突破するか?だが、そんなことを許すほど甘い相手ではないだろう。仮に突破できたとしても侵入者あり、と報告されて待ち伏せられる。


「ご主人様、もう止まれません!」

「ごめんたま、ちょっと運転代わって!」

「え、できませんよそんなの……」

「大丈夫、このペダルを一番深く踏んでさえくれればいいから!」

「や、やってみます!」


 銀次郎はたまにアクセルを踏ませ、自分は銃を構える。

 スピードを緩めないスカイバイクに気がついた機動隊は、そこに乗っている者が銃を構えていることに気づき、慌てて銃を構えてきた。

 だが、その発砲より、銀次郎の方が早い。

 引かれた引き金、飛び出る銃弾。

 二人の機動隊の銃を正確に打ち抜き、スカイバイクはその真横を突破した。


「なんだあれ!?」

「今すぐ連絡を……ん?」

「どうした?」

「通信機が……壊されている?」

「……え?」


 一方、彼らとはすでに100メートル以上間の空いた銀次郎とたま。


「あ、危なかった」

「か、神業ですね……」

「銃を撃つのに力はいらないからね」


 実は銀次郎の弾は2発ではなく、4発撃たれていたのだ。

 機動隊が通信機を腰にぶら下げていることは、士官学校に通っていた者なら誰でも知っていること。

 だが、場所がわかるからと言って高速で移動するバイクの上で正確に撃ち抜けるのかと言うとそれはまた別の話。

 銀次郎の腕と、そしてわずかな運によってかろうじて成功した突破作戦だった。


「そろそろ、ですね」

「ああ……」


 その視線の先の空は紅い。

 おそらく、激しい戦闘が行われている最中なのだろう。


「近くにまできたらたまは降りて」

「え?」

「ここまでありがとう。でもきっと戦いになる。

 そのどちらが相手になるとしても、たまと一緒だと、その……」

「足手まとい、ですか?」

「…………」

「わかりました。私はご主人様のお帰りをまっております」

「ああ」


 もう爆音が聞こえるくらいには研究所に近づいた。

 銀次郎はそばにバイクを止め、たまを下ろす。


「じゃあ、行ってくる」

「……はい」

「たま、もしも僕が帰ってこなかったら……父さんたちに、言っておいてくれないかな?」

「っ、そんな!」

「ごめん、よろしく」

「ご主人様!」


 たまの声を無視して、銀次郎はバイクに跨る。

 戦場は、近い。




 ***




「なんだ、これ……」


 建物の陰に隠れてのぞいた研究所前は、火の海だった。

 爆弾の音、銃声、悲鳴、うめき声。

 近くの建物は炎上し、研究所はかろうじて攻撃から身を守っていると言った状態だ。


「戦っているのが、機動隊ばかりじゃないか……どう言うことだ?」


 通常ここまでの事態となれば、軍が出てくるのが常識。

 だが、そこにいたのは黒の防具姿の機動隊だけ。

 海軍の白と青の服も、陸軍の迷彩色も見えやしない。

 これじゃあ、守れるものも守れないと言うものである。


「とりあえず、動かないと……」

「ねぇ、そこのあなた」

「っ!?」


 銀次郎は焦って振り向く。

 そこには、黄色のマフラーを巻いた、金髪くせ毛の美女が立っていた。

 まずい、殺される。そう思った時だった。


「どうしたの、そんなに服がボロボロになって……救護班行く?」

「……は?」

「傷を抱えたまま戦われても足手まといよ。ほら、早く行く!」


 そこで、銀次郎は自分の体のことを思いだした。

 この女性はきっと、自分のことを仲間だと思っているのだ。ならば……


「私、戦えます。かすり傷で傷はほとんどありません、ほら?」

「……そう、確かに傷はないわね」


 なぜか完治していた腹部を見せて、自分が大丈夫であることを伝えた。


「これからの作戦を教えていただけますか?一時戦場を離れてしまったため、現状の報告もお願いします」

「……そう、まぁいいわ。銃も持っているみたいだし、首輪もしていない。

 私、(おう)はこれから分子剥離機を使って、あの鋼鉄の扉を開けるわ。

 あなたたち他の騎士は私の援護。いいわね?」

「はい、わかりました!」


 分子剥離機、とやらがどんなものかはわからなかったが、下手なことを聞いて疑われてもまずい。ここは適当に合わせておくことにした。


「じゃあ、行くわよ!」


 黄、という女は片手に楕円状の何かを持って駆け出した。

 それを見た銃撃戦を繰り広げていた騎士団たちも黄を守るように配置を固め、そのまま研究所へ突っ込んで行く。

 銀はその最後方で銃を構え、ついて行く。


 研究所の扉は特別な合金を使って作られており、核爆弾が落ちても壊れないような作りになっている。

 そんな扉が力で開くことはないだろう。

 だが、侵入するなら今が好機なのは疑いようもない。銀次郎のクラッキング技術があれば侵入もできるかもしれないのだ。

 ならいっそ女性側について行くふりをした方が壁役、囮役などに使えて、事がうまく行くだろうと言う打算の下の小芝居であった。


「テロリスト戦力、一点に集中!中央ゲートを突破する気です!」

「っ!これじゃあ守りきれない……軍どもはまだ来ないのか!?」

「それが、未だに政府からの許可が下りないとか……」

「ふざけるなこの脳みそ腐った政治家どもめ!!」

「来ます!!」

「散開!!このゲートは強固だ。破壊に手間取っている間に囲んで集中撃破する!」

「了解!各位通達します!!」


 機動隊はゲート前から離れ、一気に散り散りに散開しだした。

 囲う気なのだ。そんな事、誰にだってわかる。

 だが、銀次郎にとってそれは困る事であった。機動隊は予想以上に頭がキレる。

 早急に違う行動を……


「開けてくれるのか。なら結構!全員、道を開けろ!!」

「な、に……?」


 黄は、それに対策することもなく突っ込んで行く。

 あまりにも無謀だった。この門をどうやって突破する気なのだろう。銀次郎は自分の選択ミスを嘆いた。


「起動、分解!」


 だが、黄が先ほど持っていた楕円形の何かを壁に向かって投げた瞬間、


 ズン!!


 という爆音が響き、見ると、門はまるでくりぬいたかのように、円形に穴が空いていた。


「え、えぇ……」

「総員、突撃!!」


 そうして銀次郎は騎士団たちと一緒に、研究所内部に入ることに成功したのだった。




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