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TS戦記  作者: 無糖
first『the knights of rose』
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第4話 女体化兵士と拘束具24時

 

 中央庁は東京に本部を置く、日本最大の勢力で、国土の9割を占めている。

 その頂点に君臨するのが総統。選挙制で選ばれる中央庁最大権力だ。

 中央裁判所のみがその命令に異を唱えることができるが、基本的に総統の言葉は絶対である。

 例えばテロリストによる危機にさらされた場合なんかは、裁判所を通さずに総統令を発布だきたりなんかもするのだ。

 そして今期の総統は人柄も良い50代前半くらいの男で、子供好き。だが、長年息子ができないことに頭を悩ませていることで有名であった。

 だから、そんな彼に息子ができた、という喜ばしいニュースはあっという間に世間に広まっており、総統官邸内に特別に作ったポッドの中で大切に成長を見守られている、というのが誰もが知っている総統の子供の話だった。


 だから、ここに総統の息子がいるはずもない。けれど、電話の向こう側から聞こえた、まるで動揺したかのような落下音が銀次郎を不安にさせる。

 自分を拘束する器具は解ける気配もないし、解けたところでフードの女にこの傷で勝てるかどうか。

 となれば自分が助かるには、テロリストの要求を飲むしかない。だが、もし仮に新型FRA細胞なんてものが本当に存在するのなら最高機密ものなのは間違いない。

 そんなものを、いくら息子の命がかかっているからと言ってテロリストに渡すだろうか。否、渡すわけもないし、渡していいわけもない。


んん(あれ)んんんんん、んんんん(もしかして、詰んでる)




 ***




 ————一方、総統官邸




 ドン、と、机を勢い良く殴りつける。


「なんということだ……」


 総統、村雨龍蔵。


「一体どこからテロリストどもに情報が漏れたんだ!」

「落ち着いてください総統!」

「これが落ち着いていられるか!!何が万全の警備体制だ!あっさり制圧されているではないか!!」

「…………ただいま機動隊を向かわせております」

「こうしている間にも、我が愛子が殺されるかもしれんのだぞ!?」


 これでも普段は温厚な人物なのだ。だが、今は秘書に八つ当たりをしてしまうほどの動揺している。

 官邸に置いて置く、と言いつつ、東京子供センターで息子を育てることで、万一テロリストの襲撃を受けても子供は無事。そのはずだったのだ。

 このことを知っているのはごく少数の人間のみ。では、一体誰がこの情報を?

 それ以前に、テロリストたちの要求。新型FRA細胞のことを奴らはどこで知ったのか。これは中央庁最高機密事項であり、以上のことから、内通者がいるのは確実と言える。


「女に与する愚か者め……必ず見つけてくれるっ!!」

「ですが総統、この状況……どうします?」

「………………………」


 彼も、この世界の頂点に君臨する男だ。どちらがより優先度が高いかなどよくわかっている。

 わかっているのだが……


「科学班に連絡しろ」

「総統!?」

「至急、TS細胞を寄越せと、早く、伝えるんだ」


 息子ができた時の喜びを、夫と共に思考錯誤した末にできた結果を、彼は、捨てられなかった。




 ***




 シロ、とかいうフードの女が総統に向けて電話をしてから3時間、サイレンの音からして、どうやら機動隊は来ているようだ。


「ご主人様」


 そこで、たまが銀次郎にそっと近づいて来た。


「私がご主人様の錠を外します。その隙に、どうか退避を」


 銀次郎がかろうじて聞き取れるくらいの本当に小さな声で囁く。

 たまがどうやって錠を外すのかが非常に疑問ではあったが、手段はあるらしい。

 猿轡があるので返事はできない。だが、ここで彼に逃げるという選択肢はなかった。

 第一に、ここの電源を落とされるわけにはいかない。それを恐れているから、機動隊も入って来ていないのだろう。

 第二に、たま、そしてその他を置いて逃げてしまっても、機動隊は中に突入できないだろう。

 そして何より、銀次郎は数ヶ月後海軍少尉になる身。テロリストの前に屈することなど、あってはならないのだ。


「では、3、2、1で外します」


 たまが指を3つ立てる。2、そして1……


「ちょっと待って!!」

「「っ!?」」


 だが、急にテロリストのうち一人が声を上げたため、錠を外すことはできなかった。


「何事だ!?」

「遠くから、科学班のものと思われるヘリが接近しています。おそらく、あれにTS細胞が入っているものと思われます!」

「わかったわ。全員、戦闘配置に。交渉は私がしてくるから」


 フードの女は他の仲間に指示を出し、外に向かって歩き出した。

 だが、銀次郎は内心穏やかではなかった。国家機密をこんなテロリスト達に渡していいわけがない。上は何を考えているんだ、と。


「んん!」


 もう時間がない。後先振り返ってはいられないのだ。

 じゃらじゃらと音を立て、たまに錠を見せつける。

 外せ、という合図を理解したのか、たまは首を振る。銀次郎がなぜ焦っているのかも、そしてこれから何をする気なのかも、察しがついたのだ。


「んんんっ……」


 たまが外してくれないのなら仕方ない。

 装置は音声解除になっているため、猿轡をした状況では使えない。だが、その性質上、少し熱を与えるだけで簡単に効力を発揮しだす。

 その結果にあるのはおそらく暴走だが、なに、この場には機動隊もいる。きっとなんとかしてくれるだろう。


 銀次郎は体をひねり、背の、腰あたりを強く地面に叩きつけようとする。


「貴様、何をしている!!?」


 見つかった。まずい、間に合わない。今銃で撃たれたら流石に失血死するかもしれない。


 が、その時、錠が外れた。

 たまが外してくれたのだろう。結局どうやって壊したのかはわからなかったが、ギリギリのタイミングであった。


起動(オン)


 キン、という音とともに彼の背中の装置から爆発的にあふれたエネルギーが、彼の身体中を駆け巡る。

 銃弾が彼の身を掠ったものの、その瞬間には勝負はすでに決まっていた。


「らああっ!!!!」


 まず、目の前にいた監視役の1人を殴り飛ばし、10メートルほど吹き飛ばす。


「貴様、まだ……っ!!」

「あいにく傷の治りは早めなんだ……よっ!!」


 迫り来る銃弾をかわし、足元に潜り込むと、蹴りを一撃。ゴキ、という音とともに二人目の監視役の首があらぬ方向に曲がった。

 もう一人の監視役はそれを見て通信機を手に取った。


「メーデー!人質の一人が暴れ出した!電気を今すぐ止めろ!!」

「お前っ!!」


 通信機を慌てて蹴り上げるものの、すでに遅い。

 腹部にに鋭い一撃を入れて、最後の監視員を倒したと同時に、センターの明かりが全て消えた。

 予備電源が使用されないことからして、おそらくケーブルごと切断したのだろう。


「たま!みんなを解放して逃げてくれ!」

「ご主人様はどこへ!?」

「このことを機動隊の人たちに伝えてくる!」


 だが、国の電源装置を使って再接続をすれば、施設の電源が復活するかもしれない。

 外に向かって駆け出す。

 すると、施設の前で白衣を着た男から、フードのテロリストがスーツケースに入った何かを受け取ろうとしているのが見えた。


「あぐっ……」


 足元がふらつく。銀次郎の体も限界だった。長時間連続してこの装置を使うことは想定されていないのだ。

 これが実戦。主席とはいえど、自分が所詮学生だったことを思い知らされた。


「ははっ……」


 だが、彼も男だ。

 守らなくてはならないもの、そして、正義のために。


「————解放、炉心融解」




 ***




「これが、約束のものだ」

「ああ。協力、感謝する」


 機動隊員は空中で見ていることしかできない。

 襲われないように、最低限距離を取るように、テロリスト側が要請したためである。

 そうして、フードの女はスーツケースを受け取った。

 彼女は施設内の混乱を知ることもなく、順調に計画は進んでいることに満足感を覚えながら、中身を確認する。


「確かに」


 TS細胞。国家機密。これを渡したことは、テロリストに屈したということ。

 こんな事実は、当然マスコミに公開などされない。目撃者……つまり、人質達も、どのみち政府に殺される道の上にある。


「ぬんんんんんんんっ!!!!」

「っ!!!?」


 それを薄々、銀次郎はわかっていた。

 みんなを、そして自分を守るためにも、絶対にこの細胞をくれてやるわけにはいかない。


 フードの女の前に立ち、スーツケースを奪い取る。


「お前、さっきの!!」

「電源が落とされました!!今すぐ電源を接続してください!!まだ間に合います!!」


 テロリストの怨嗟の声を無視して、白衣を着た科学班の男に声をかける。


 銃声。

 間一髪、銀次郎のこめかみを掠めた銃弾は施設を囲う塀にぶつかる。

 銀次郎も先ほどの監視役の女から奪った拳銃を抜き、牽制として数発放った。

 互いに距離をとって見つめ合う。

 機動隊員が来るまであと15秒。この間だけでも守りきれば勝ちと言える。


 一瞬の静寂ののち、フードの女は銀次郎へと近づいてきた。

 放たれる銃弾、それらをかわしながら銀次郎も接近する。

 どうせ、こんな限られた子供センターの庭では鬼ごっこなどできない。

 ならば近づいて、戦うしかないのだ。


 そして銀次郎が銃弾を放つ。


 銀次郎はスーツケースを片手に持っているにも関わらず、放った銃弾は的確に女の方向へ飛んで行った。


「はっ!」


 だが、女は飛び上がったかと思うと体を捻りこみ、銃弾をかわした。

 そして、その右手にはナイフが握られている。


「ちっ!!」


 銀次郎は銃身でそれを受け止める。

 キーン、という金属音が鳴り響き、同時に銀次郎の銃は先端が切り取られてしまった。

 スーツケースを空高く投げ飛ばし、構える。

 ナイフに対してこちらは素手。どちらが有利かは言うまでもない。

 だが……


「なっ!?」


 ナイフの刀身を右腕の関節で挟み込み、蹴りを放つ。

 ドスン、と鈍い音を立てて入ったその一撃は、少女に過ぎない彼女の体をたやすく吹き飛ばす。

 彼が負傷した身でなければ、おそらくその身はちぎれ飛んでいたことだろう。


「か……はっ……」


 行動の限界に至った銀次郎は倒れ、その横に投げ捨てたスーツケースが落下する。

 だが、もう機動隊が来る。なんとか責務を果たし切ったと、銀次郎は満足げに気を失おうとしたが……




「白……何をやっているんだかと思ったら」




 背後から聞こえた、女の声に底冷えする。

 気づけば機動隊のヘリや空車の姿も見えない。

 まさか、撃墜されたとでもいうのか?


 腰まである赤い髪を携えた女はスーツケースを片手に取り、銀次郎が吹き飛ばした女の元へ歩く。

 絶体絶命だ。これでは、誰も救われない。

 銀次郎は考える。自分にできることはなんだ?守れるものは、何がある?


「白をこんなにするなんて、恐ろしい少年だ」


 倒れた白、というフードの女を抱きかかえ、新たに現れた女は銀次郎を振り返る。


「何?」


 だが、その視線の先には、銀次郎はいなかった。


「まさか……」


 赤髪の女はスーツケースを開く。


「あの……男……っ!!」


 彼女はスーツケースを投げ捨て、踏みつける。

 その苛立ちも当然。中になくてはならないはずの“それ”は、姿形もなく消え去っていたのだから。




 ***




「はっ……はぁっ……かはっ……」




 飛び込んだ高層マンションの影。ここなら、少しの間は見つからずに済むだろう。


「どうして、こんなことに……」


 たまは無事なのか。他の人質だった人たちは無事だろうか。

 そして、軍は出動してくれているのか。まぁ、どのみちその到着よりも早く、銀次郎が見つかってしまうだろうが。


「くそっ……くそっ、くそっ……」


 泣いたってどうしようもない。けれど、突然、あまりにも理不尽に降りかかった不幸に、彼は打ちひしがれていた。

 そして、その元凶たる薬品……右手に持った、新型FRA細胞の入った注射器を睨みつける。


「あいつらに……くれてやるくらいなら……っ!!」


 ここでこれを破壊したところで、見つけられてしまえば採取されてしまう。

 だが、FRA細胞は動物性細胞に触れることで変化をきたす細胞。つまりは。


「どんな効果があるんだか」


 自分に打ち込んでしまえば、どうやってもテロリストの求めていた薬品の姿には戻らない。

 だが、FRA細胞とは“無い部分”を“有る部分”として想定させ、傷を修復したり、病気に強い新しい器官を人工的に生み出したりする細胞。

 どの形状がインプットされているかわかったものではない。奇形になってしまう可能性も十分にあった。


 すると、近くに足音が聞こえた。

 テロリスト近い。もう、迷っていられる時間はないのだ。


「父さん……そして父さん、ごめん。圭一、もう一度、会いたかったよ……」


 覚悟を決め、銀次郎は自分の腕に注射を打ち込んだ。


「…………?」


 変化はない。だが、体はどんどん熱を帯びていき……


「う、ああっ……!!」


 痛い。


「あっ……ああああああっ……」


 痛い痛い痛い痛い痛い!!!!


「あああっ……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 全身を叩きつけるように襲う痛みに、銀次郎の意識は一瞬で持って行かれた。




 ***




「…………んあ?」


 そして、物語は冒頭(1話の最初)へ。

 自分がどうしてこんなところにいるのか、どうして遠くで火の手が上がっているのか、記憶が混乱していてよくわからない。

 とりあえず家に帰って、圭一に電話でもしなければ。と、思いたかった。

 思いたかったのに、彼は気づいてしまった。


「ない……?」


 今までいつでも一緒だった、大事なものが。

 男としての象徴が、消えていることに——————!!


「いやいやそんなバカな。エロ同人じゃないんだから」


 新型FRA細胞、通称TransSexual細胞。

 通常欠けた臓器等に変わるよう組み込まれるFRA細胞だが、従来のそれとは一線を画す大発明。

 その真髄は、生体そのものの構造変化。

 “とある理由”から、中央庁が開発を進めてきた、男性を女体化させる細胞だった。


「嘘だ……だって、まさか……」


 そう、つまり生駒銀次郎、18歳男性は…………




「…………ち◯こが……ない……ッ!?」




 ——————————————————女の子になったのだ。




この世界にエロ同人なんてねぇよと思ったそこのあなた、正解。

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