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TS戦記  作者: 無糖
first『the knights of rose』
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第3話 制圧戦

 

「ほ、保坂さん!!」

「か……はっ……」


 信じられない。

 保坂さん他、ここの職員、警備員などがこんなに簡単にやられてしまうなんて、銀次郎の思考では考えられないことであった。

 それも、まさか女などに。


「これは、君たちが?」


 テロリストの数は目視できる中では13名。

 武装は拳銃、腰にかけた短刀を皆平準的に装備しているらしい。

 明らかな劣勢。仲間が負傷しており、このままでは確実に死に至るだろう。

 だが、こういう時こそ冷静にならなくてはならないことを、銀次郎はよくわかっていた。


「殺せ」


 が、どうやら話のできるような連中ではなかったらしい。テロリストなのだ、仕方あるまい。


「————起動(オン)


 その起動命令を出した瞬間、銀次郎の体は彼らの視界から消えた。


「……え?」

「ごめんね、僕は軍人だから」


 そして、彼らが消えたことを認識した瞬間、一人目の両足が千切れ飛んでいた。


「う、うわああああああああ!!?」

「小雪!?」

「は、早……!?」


 驚く間も与えない。彼はすでに二人目の背後に回り込むと、銃弾を持っていた腕ごと切り落とし、銃を奪っていた。


 ドン、ドン、と、音が鳴り響いた。

 銃弾の限りを的確に急所に当て、テロリストたちを封殺していく。


「この……なんだこの男っ!!」

「ほとんどが非戦闘員で、簡単なんじゃなかったのか!?」


 そう、これはテロリストである彼女たちが弱いのではない。ただ、運が悪かっただけなのだ。

 この速度は、彼の体に物心ついた頃から存在していた、ある“特徴”によるもので、その性能が故に、士官学校で前例のない天才と言われるまでの男。

 そんな彼が、こんなところにいるだなんて、さすがに最大のテロ組織、薔薇騎士団とはいえ予測できるはずもあるまい。


「く……距離を取れ!!」


 弾切れになった銃を放り捨て、敵を睨む。

 すでに敵勢力は7人にまで減少した。が、考えなくてはならないのはそれだけではない。

 仲間がこの他にもいるかもしれない。そして、たまはどこにいるのだろうか。

 それをいち早く確認するためにも、ここをいち早く突破しなくては。

 だが、あまりここで“装置”を使用しすぎるのよくない。銀次郎の背後にいるのは、デリケートな胎児たちなのだから。


「……はぁ。警告する。今から僕は君たちをきっと殺す。だから、できれば逃げて欲しいんだ」


 運が悪いのは、なにもテロリストだけではない。

 卒業していきなりこんな事件に巻き込まれるだなんて、どんな運命の悪戯だろうか。


「ふざけるな!誰が男などに!!」

「……そっか、なら、仕方ないね」


 銀次郎はかばんから折りたたみ式の刀を取り出し、一振り。

 すると刀は一気に刀身を数倍に伸ばし、立派な業物の姿を顕す。


「相手は一人だ!物量で押し潰せ!!」


 そんな銀次郎に向けて放たれる無数の銃弾。

 一斉に放たれた7、そして続けて14と放たれたそれらは。


「弓流し・閃」


 銀次郎の目の前で大きく火花を散らし、一つ、また一つと別の銃弾へ激突させ、やがて全ての銃弾を相手に跳ね返した。


 血を吐きながら倒れる敵たち。

 銀次郎の武器には一滴の血すらつくことはなく、だが、その場に自分以外が立つことを認めない。


「この程度のテロリストを潰すのに、中央は何年かけているんだ……」


 彼の心の中にあったのは、ただ怒りだった。

 こいつらさえ消えれば、この世界は真に幸せな世界に近づけるというのに。

 こんなにも簡単なことを怠ってきたこと。なにより、それが許せなかった。


「ねぇ、君」

「ひぅっ……ぁぐ……」


 先ほど両足を吹き飛ばした、確か「小雪」とか呼ばれていた女をつまみ上げ、ひどく冷たい、低い声で問う。


「こんな中央に近いところで大ごとをしでかしたんだ。本当の目的はなんだい?」

「はっ……誰が薄汚い男なんかに……」

「へぇ、まだそんなことを言っていられるんだね?」


 彼女の足の断面から覗く白い骨を握る。そして……


 バキ……


「だっ……はっ、はははははああっ!!!!」

「早く答えろ。右足はもう股関節から外した。あとは、引き抜くだけだぞ?」

「や、やめっ……あ、いだいっ!!」


 当然だ。テロリストに人道的な対応など必要ない。

 情報を聞き出すためなら、拷問くらいは当たり前のように行える。


「で、でも……もう遅いぞ……?」


 そして、右足の骨がもう半分以上抜け落ちかけているところになって、ようやくその小雪と呼ばれた女は口を開いた。


「今にこの施設の電源を落とした白様が、お前を殺す……」

「施設の電源を、落とす?」


 この施設は、当然ながら電気を使って胎児の状態を維持している。

 だから、そんなことをすればもちろんここにいる数万の命は皆死に絶えてしまうわけで。


「ほら、来た」

「ッッッ!!!?」


 それは、もはや直感的なものだった。

 掴んでいた女から手を離し、後ろに身をかわす。

 すると、さっきまで自分がいた場所には散弾銃の弾が通過し、内二弾は頬を掠めた。


「増援……つっ!!」


 どうやら単騎。だが、周りを見る時間すら与えてくれない。

 高速で繰り出される銃弾、そして剣術の組み合わせ。先ほど相手した女たちとのどれとも違う、人間離れした動き。

 こんな相手は、男の同期の中にだって一人もいなかった。

 何よりも恐ろしいのが、武器の取り替えの速さだった。

 牽制で銃弾を打って来たかと思うと、すぐに短刀で懐めがけて鋭い突きを入れられる。どうにかそれをかわしても、今度は銃を足元を狙って打ち込んでくる。


「なめるなよっ!!」


 押されていてばかりではジリ貧になる。

 多少のダメージを覚悟で一撃、腹部に拳をひねりこもう、と、その時、体が一瞬、大きく揺らいだ。


「お、お前っ!!」

「はっ……ザマァ見ろ」


 小雪が、銀次郎の足を握っていたのだ。

 失血多量と銀次郎による拷問で、もう意識も薄くなりつつあった彼女のこの行為は、ひとえに執念によるものだった。

 そして、フードの女はその、必死の思いで作り上げ荒れたチャンスを決して無駄にしない。


「しまっ……!!」




 ***




 油断していた。たかが有象無象の女がいくら集まろうと問題ない。

 自分には男が束になっても敵わないほどの力がある。だから、この先だってなんの問題もなく、正義を追い求め走っていけると思っていた。


「ん゛っ……ん゛ん゛ん゛ん゛っ!!!!」

「うるさいぞ、黙らせろ」

「ん゛ん゛っ!!」


 その結果が、腹部に負った傷をテロリストに蹴られている、今の状況である。


「ご主人様、どうかここは耐えてください……」


 そして、隣にはたまがいる。

 どうやら捕虜にすべき人間は別室に閉じ込められていたらしい。施設の人間も何人かは生かされており、ここで震えながら、救いを待っていた。

 どうやらたまは女性であるという点から殺されずに済んだらしい。


 周りは赤装束の女たちに囲まれており、銀次郎に至っては両足両手を縛った上に猿轡までさせられる厳戒態勢であったため、脱出は困難だ。

 その中でやはり目立つのが、フードを被った先ほど銀次郎の腹部を短刀でえぐった女である。

 彼女はどうやらこのテロのリーダー格の様子であり、様々な人間に指示を飛ばしたりしている。


 彼女が動いたのは、そのすぐ後のこと。

 震えて動けないもの、女に捕まった屈辱に打ち震えるもの、傷を負って高熱が出ているもの、それを側で心配そうに見守るもの。

 それらの姿を確認し、携帯電話を使用した。


「もしもし、総統官邸でよろしいですか?」


 声は案外幼く、まだ成人未満であるように思える。だがそんなことはどうでもいい。

 今重要なのは、テロリストが総統、つまり、この狭い世界のトップに電話をかけているという点である。


「なに?今は忙しい?では、伝言してください。

 私たち、薔薇騎士団は東京児童センターを占領しました。返還を求めるなら交換条件です。

 近年完成した新しいFRA細胞……通称TS細胞を、こちらに提供してください。もしそれが不可能、もしくは偽物を掴ませよう者なら、この研究所にいる無数の子供……そして何より総統、あなたの息子も死んでしまいますよ?」


 その時、銀次郎の耳は、受話器越しにガシャンという何かを落としてしまったかのような音が響いたのを聞き逃さなかった。


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