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TS戦記  作者: 無糖
first『the knights of rose』
16/19

第15話 君のために

 

「っ!!」


 銃弾が飛び交う横須賀港。

 圭太含む海軍は、薔薇騎士団青組との戦闘を続けていた。


「くそっ……しぶとい!!」


 圭太は一人の青組騎士と銃撃戦を繰り広げる。

 数で勝るはずの海軍が、たった数騎しかいないはずの敵になぜこんなに苦戦しなければならないのか。

 だが、それもそのはず。戦闘を長引かせたり、拠点を防衛することに関しては青組に勝る兵士はいないだろう。

 それだけの実戦経験を超え生き残っていきた兵士と、学生上がりの烏合の衆とでは個体差がありすぎるのだ。

 その時、圭太と対峙する青い騎士が何かを放る。


「手榴弾!?」


 目の前で爆音とともに手榴弾が爆発した。

 間一髪のところをかわし、銃を構える。仲間が一人やられたようだが、それが誰か気にする暇も、余裕もない。

 だが、もう遅かった。圭太の背後には敵がすでに回り込んでおり、銃口は真っ直ぐに彼の心臓を狙っている。


「死ね」

「しまった!!」


 目を閉じたその時、銃声が圭太の背後を過ぎり、青の騎士を貫いた。

 鮮血を撒き散らし、その場に倒れ伏す敵の女性。


「少佐!」

「気を抜くな!!敵はまだまだいる!!」

「は、はいっ!!」


 青のローブが血で滲み変色していく様を見て、感じた。

 さっきまでのは前哨戦。いや、それ以下だと言うこと。

 そして、この鉄臭さと硝煙の匂いこそ本当の戦場なのだと。

 こみ上げる吐き気を押さえ込んで、立ち上がる。

 圭太は立ち止まれない。始まってしまえば、もう誰も後に引くことなどできないのだ。

 そして、圭太は目の前の少佐の背中に向かって……


「…………え?」


 圭太が追いかけようとしたその男の背中は、首から上をなくして、横に倒れた。


「少佐……少佐ああっ!!」


 圭太は思わず駆け出してしまった。

 ここの隊長は日南少佐である。指揮官たる彼が死んでしまったのだ。

 すぐにこのことを副隊長に知らせなくてはならない。

 それなのに、亡骸の元へ走ってしまった。

 一瞬前まで会話していた上官が、こんなにもあっさりと殺されてしまったのだ。新人で、死に慣れていない新兵には、あまりにもショックの大きい出来事だった。

 首から出る血液も勢いをなくし、ゆっくりと硬くなっていくその体に触れた後、ゆっくりと顔を上げる。

 ああ、そこにいたのは女だ。彼にとっては憎むべき敵であり、汚らわしい畜生だ。

 なのに、それなのに……


「蒼、リーダーっぽいの、倒した」

『えっ!?嘘っ!?』


 そうして返り血で汚れたフードを取り払いこぼれた白い髪と、あまりにも戦場に似合わない整ったその容姿を見て、圭太は思ってしまった。


「天使……?」

「蒼、敵がいる。切るね」

『あ、ちょ、白組の指揮丸投げ!?』


 天使は圭太を見て、ゆっくりと近づいてくる。

 ここで、自分は死ぬ。

 でも、それでもいい。この天使に連れて行ってもらえるのなら、それも悪くない。

 圭太は銃を握っていた手から力を抜く。






「————————圭太!次は遊園地に行こう!」






 ダメだ!!

 愛する人との、そんなあまりにも小さな約束。

 でも、果たしていない。果たさなくてはならない。

 そうしないと、彼はきっと弱虫だから、泣いてしまう。

 ならば、圭太は銃を握らねばなるまい。

 あのちっぽけな天才と、再び会わねばならないのだ。


「うおおおおおおおお!!!!」

「へぇ……」


 すでに戦場は大混戦。

 港では死体以外に暇そうにしている人間はいない。援軍はないと思うべきだ。


 白は懐からナイフを三本取り出し、圭太に向かって投げ飛ばす。


「らあっ!!」


 銃身でそれらのナイフをはじき返す。

 ただのナイフ投げとは思えないほどの重量感が腕に伝わった。

 が、ひるむことはない。

 その隙にマシンガンを放ってみせた。


「ふっ!!」

「は、はぁっ!?」


 勝利を確信していた圭太は、今起こったことに目を疑った。

 なんと、マシンガンの銃弾を滑るような重心移動で避けてみせたのだ。

 そのまま一気に距離を詰められる。

 そして、白の懐からナイフが引き抜かれ、圭太の首に吸い込まれて行こうとした時……


「っ!!」


 白は、圭太が薄く笑っていることに気がついた。

 だが、完全に油断していた彼女は勢いを止めることができない。

 自分の目の前には、ピンの抜かれた手榴弾が転がっていたと言うのに。


 ドン、という爆音とともに、白の小さな体は吹き飛んだ。


「お前はいざとなったら必ず近接戦闘を仕掛けてくる。最初に大佐を銃殺ではなく、わざわざナイフで切り裂いたことから容易に想像できたよ……」


 白の体を見ると、左腕は吹き飛び、左半身のほとんどが大火傷に見舞われていた。

 呼吸をしている様子もない。確実に死んだと確信した圭太は他の海兵の援護に向かおうとして……


「くはっ」

「っっっ!!?」


 背後から聞こえる、不気味な笑い声に振り向く。


「お、お前……」

「あはっ……たのしぃ……」


 そこには、今まさに殺したはずの敵兵が立っていた。

 ボロボロで、常人ならその痛みで意識を失うか、運悪く意識があれば泣き叫ぶほどの重症のはず。

 狂気。

 その二文字が、圭太の脳裏に浮かんだ。


「もっと……もっと!!!!」

「このっ!!」


 走り寄ってくる白にマシンガンを放つ。

 距離もほとんどない。直撃は免れなかった。だが、もう遅い。

 ガシャリ、と、ガラス製の注射器を踏みつぶすと、白はその破片を蹴り上げる。

 当然ただのガラス片。銃弾を止めるほどの力などあるわけがないが、わずかに軌道がずれた。

 その生まれた隙間に体を滑り込ませると、さらにナイフを取り出して圭太を追い込む。


「化け物めっ!!」

「きゃはっ!!きゃはははははははははははははは!!!!」


 圭太は銃を捨て、足に付けていた隠しナイフで応戦する。

 が、さすがに技量も反応速度も違いすぎた。

 凄まじい速さで猛攻してくる白になすすべなく圭太はナイフを弾かれ、眉間に凶刃を突きつけられる。


「ばいばい」

「っ……」


 悔しい。こんなに頑張ったのに、結局もう、銀次郎には会えないのだ。

 死なんて遠いところにあると思っていた。

 目の前に来て、ようやくこんなにも自分が自分を可愛がっていたことに、気付かされるのだ。


「銀次郎っ!!」


 そして、ナイフは無慈悲に振り下ろされ……


「………………………………え?」


 ることはなかった。

 目を開け、ゆっくりと顔を上げる。

 するとそこには、癖のある銀髪を揺らした、白いローブを着た細い女性の後ろ姿があった。

 それが誰かは知らない。だが、どうしてかとてつもなく心を惹かれてしまう圭太。。


「ごめんね」

「うっ!!」


 だが、そんな彼の意識もここまで。

 銀髪の彼女が圭太の腹を強く殴り、気を失わせたのだ。


「何のつもり?」


 怒っても笑ってもいない。白はあくまで無表情のままだ。


「この男は……僕が処理する」

「どう言う意味?」

「だから、こういうこと」


 銀髪の少女は圭太に向かって銃を構える。

 3発、圭太の体に銃弾が撃ち込まれた。


「僕……銀は、薔薇騎士団に入るよ」

「本気……?」

「ああ。一緒に戦おう、白」


 そうして、白いローブをはためかせ、銀は戦火の中に飛び込んでいく。




「————起動(オン)!!」





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