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TS戦記  作者: 無糖
first『the knights of rose』
14/19

第13話 横須賀港空戦

 

「撃てーーーー!!!!!!」


 大砲が爆音を響かせ、天を衝く。

 が、高度一万、速度4000㎞/hを超えて動く、それぞれの組み色に着色された薔薇騎士団自慢の戦闘機、「二六一型戦闘機」には、船の上からの砲撃など当たるはずもない。

 騎士団と海軍の距離はぐっと縮まるばかりである。


「なんだあの速度は……っ!!」


 頭上を通り過ぎてゆく敵の戦闘機をただ見つめるばかり。


「空軍……頼むぞ!」


 だが、連邦側もそう甘くはない。

 空軍による防衛網もしっかりと敷かれていた。

 やがて両軍の戦闘機は近づいて、激突する。

 互いが互いの背後を狙い合い、時に周りに邪魔され、撃墜される。

 そんな大混戦の中、騎士団側の一騎が凄まじい勢いで敵を落として行く。

 まるで雷のごとく敵の人を突破し、回り込む。


『団長、いつでもいけるよ!!』

『黄、背後から!!他は一転集中して突撃!!』

『『『『了解!!!!』』』』


 通信機で流れた音声は各機に伝達され、命令は滞りなく実行される。

 いち早く敵の陣を通り抜けた黄色組と、その他の組との挟み撃ち。

 連邦空軍は陣形を崩し、四散して行く。


『今だ!!深追いはするな!!直進し、東京に急げ!!』


 紅の一声で戦闘機は一斉に方向を変え、一気に陸へ進む。

 撃墜された連邦軍の青年パイロットは燃えゆく飛行機の中、最期にその鮮やかな戦闘機を味方が打ち滅ぼさんことを願い沈んでいく。


「敵、ほとんど損傷なし!!」

「くそっ!!女だから侮るなと何度も言ったというのに……っ!!」


 海軍、日南(ひなん)少佐は自分の背後に構える若き将校たちを振り返り、声を張り上げる。


「これよりここを攻め入りしは100年の昔、我々の人口の大半を削り取った災悪の末裔である!!油断するな!!容赦はいらぬ!!全て撃ち落とすのだ!!」

「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」


 その声に呼応して、圭太を含む陸地に控えた海軍たちは砲台の標準を合わせる。


「敵機、接近!!」

「撃てええええええっっっ!!!!」


 無数の砲台から放たれた弾幕の密度は厚く、速度も落ちた騎士団の二六一型では完全には避けきれない。


『味方の損傷は!?』

『続々と落とされている模様!しかし、最低基準は数を確保しています!!』

『よろしい!!各員、存命を最優先させ、この弾幕を超えよ!!

 横須賀港を超えたのち、上陸を開始する!!」

『『『『了解!!!!』』』』


 黄色組を先頭とした陣形は崩されることなく、連邦海軍の頭上を乗り越えて行く。


「うわあっ!!」


 その音圧と風圧は遥か上空にいても凄まじく、圭太は思わず頭をかばう。


「手を止めるんじゃない!!貴様、軍規違反とするぞ!!」

「申し訳ありません!!」


 その様が日南少佐の目に映り、怒声を浴びる圭太。急ぎ砲台に弾を込める。

 だが、もしもあの戦闘機が爆弾を積んでいたなら死んでいた、というリアルな死の恐怖が、圭太の足を震わせる。


「敵、多く通過!!ただし損傷は大きい模様!!」

「ちぃっ……通したか」


 日南少佐は戦闘機を憎らしげに睨みつける。


 ————そして2分の時が経ち、横須賀港での弾幕も終わった頃、再び頭上に二六一型が通り過ぎて行く。


「まさか、遠隔操作まで可能なのか!?」


 再び海へと戻って行く戦闘機の影を見ながら少佐は唇を噛む。

 だが、その中で圭太は少し安心していたのだ。

 だが、その安心は、その中でも最後列にいた、青き戦闘機によって打ち砕かれることになる。




 ***




 ————東京大収容所前、陸海空軍拠点。


「敵、間も無く……え!?」

「どうした?」


 陸軍大将、大政泰造が通信班の青年に問う。


「も、目前にして敵、引き返していきます!!」

「なん……だと……?」


 テントを出て、空を見上げる。

 すると……


「なんだ、あれは……」


 大政が目にしたのは、落ちてくる無数の人間の姿だった。


「戦闘機を遠隔操作して引き返させ、自分たちはあの高度から飛び降りると言うのか……!?」

「接近!!しかしパラシュートを開いてはいません!!」

「侮るな!!奴らは必ず策を持っている!!そのまま墜落死とは行くまい!!

 B作戦通り、各員に動くよう伝達せよ!!」

「はっ!!直ちに伝達します!!」


 驚きはした。だが、大政の顔はすでに笑顔に変わっていた。




 ***




『総員、機動開始!!』


 呼び声がかかると同時に、騎士団たちは青組を除き全員がハッチを開け、空からダイブした。

 と、同時に彼らの全身にくくりつけられたホースの出口……足の裏と手のひらから爆炎が上がり、全員体勢を整える。

 非常にシンプルな機器だが、使いこなすのはかなりの技術を要する。だが、そのための訓練など、騎士団はすでに何度も積んでいた。


 地面に接近すると同時に全力で斜め上に噴射する。

 騎士団たちの体は一気に収容所へ向き、突撃していく。

 敵が銃弾による弾幕を張り、何名か地に堕ちるものの、多くは収容所前にたどり着き、噴射口の調節によって着地した。


 ついに地上に降り立った騎士団の前に立ちはだかる壁は、一気に肉薄してきた彼らに恐れおののく陸軍将校、および看守のみ。

 先頭に立つ紅は口元を引きつらせ、命令を下す。


「殺せ」


 ドドドドドドドド、と無数の銃声が響き、兵は一気に蹂躙された。


『この奇襲法は、もっとここぞと言う時に使いたかったんだけど……』

「いつまでんなこと言ってんだい、翠。ちゃんと観測できてるんだろうね?」

『ええ、あなたなんかに言われなくてもね!団長、目の前が東京大収容所です!突入命令を!』

「ええ、わかったわ。案内よろしくね?」

『了解!!』


 紅は、目の前に立つ80の兵を前に叫ぶ。


「突撃せよ!!!!」

「「「「「はっ!!!!」」」」」


 騎士団は黄色、紫、紅率いる中枢にして近衛兵、紅組の順で収容所内に突入する。

 無骨な鉄筋コンクリートを向きだしにした内部を進み、監獄部へと侵入。


「……?翠、レーダーを」

『対人?』

「そうだから早く!」

『わ、わかったわよ……』


 黄は周りを見渡しながら翠の連絡を待つ。


『……え、これって……』

「おい、翠?」

『いないわ……誰も、人間の熱反応が、騎士団以外に感知されないわ!』

「ジャミング……じゃあ、なさそうだね」


 黄は鉄格子の向こうに誰も人間がいないのを確認し、唾を吐く。


『その先に毒ガス室があるはずだけど……』

「毒ガス、か……もう処刑が始まっているのか?いや、にしては静かすぎる……っ!!」


 後ろに続く黄色組を振り返る。黄色組にはまだ異常がない。だが、その向こうで……


 ————爆音と銃声が、響いていた。


「ちっくしょうやっぱり罠じゃないか!!」

『黄!今すぐ戻って!!紅組と紫組が戦闘開始したわ!!』

「わかってるよ!!くそ、おびき出されたってわけか。さては元フランス人だな!?」

『そんなこといいから早く戻りなさい!!この収容所、囲まれているわ!!』


 黄色組は方向転換。入り口に向かって動き出した。


「こうなる気はしてたけどなぁっ!!」

『待って、テレビ中継が始まったわ!!』

「こんな時にテレビか!?」

『囚人の処刑が……開始してる……全国放送でこれを流しているの!?きゃあっ!!』

「落ち着け!!急いでその場所を特定しろ!!それがあんたの仕事でしょうが!!」

『わ、わかってるわよぉ!!』




 ***




 ————3号艦内、広場。


 銀とたま、そして大人たちは小さなテレビを取り囲み、食い入るように見つめていた。


「政府が、ここまでするなんて……」

「ひどい……」


 たまは目を覆い、銀はその場に立ち尽くした。

 周りの女性たちは子供にそれを見せないようにして、涙する。

 テレビからパン、と、まるでポップコーンが弾けるような音がするたびに、人が一人死んでいく。

 もっと簡単な殺し方があるはずだ。なにせ10万人もいるんだから、それこそ毒ガスなどを使えばいい。

 でも、わざわざ血を流させ、テレビで中継しているその理由もまた明白。


 ————見せしめだ。


 こんな風に死にたくない。そう思わせることで騎士団に協力しようとする者、または家隷、労働奴隷の根底に恐怖を植え付けることを目的とした行為。

 ああ、死んでいるのはじ女性だ。銀の心が傷つくわけがない。

 だって、女なんていうのは家畜のようなもの。学校ではそう教えられて来たし、間違っていないと父も言っていた。

 では、この胸から込み上げるような吐き気は何か。


 銀は胸を押さえ、膝をついた。


「はっ……はぁっ……」


 目を閉じ、圭太のことを、父のことを、そして士官学校での仲間たちのことを思い返す。

 乱れた呼吸を、乱れてしまった鼓動を、どうにかして元に戻さなければならないのだ。


「…………学校?」

「ご主……銀さん?」

「待て、ここって学校じゃないか……!?」


 銀は立ち上がり、女性をどかしてテレビを食い入るように見つめる。

 見間違いようもない。ここは生駒銀次郎が友と、そして恋人と学んだ地である。


「まさか……」


 銀は自分の記憶をたどり、ある結論に至る。


「東京収容所に騎士団をおびき寄せて、本当の処刑は士官学校で行うということか……?」

「え……」


 たまが銀を見つめる。

 士官学校では軍の重要機密を教えることも多く、そのため内部の構造、外見は基本的には公開されていない。

 空中から見ようとしても電波による妨害でモザイクがかかる仕様になっており、その秘匿性は最高機密並みである。

 つまり正門から入った人間……学生および教官以外はこの場所がどこなのか理解すらできない。

 そして、士官学校で差別意識をしっかりと植えつけられた男が、中で何があっても情報を外に出すことはありえない。

 隠れて何かを行うにはちょうど場所であったわけだ。

 今頃必死に処刑場を探しているのだろうが、この映像から分かるわけがない。

 まんまと東京に向かった騎士団たちはどうしているだろうか。やるならば、収容所に入れてから包囲し、一網打尽とするだろう。

 突破しようにも、陸海空全勢力が収容所を取り囲んでいるのだ。たった200程度、さらに収容所にたどり着く過程での消耗を考えると、それもまた絶望的だろう。


「は、はは……」


 銀の口から、思わず乾いた笑みがこぼれる。

 これから、自分は死ぬ。

 戦力を失ったこの潜水艦は必死に逃げるだろうが、攻撃を恐れなくなった連邦軍は必ずこの艦隊を見つけ出す。逃れることはできない。

 だが、代わりに女性の反撃の種も同時に潰えるのだ。なら、それは悪いことでもないじゃないか。


「たま、船室に戻ろう」

「銀さん……?」

「もう、ここにいる意味はないよ」


 でも、死にたくない。

 今すぐ船室に戻って装置をつけて逃げれば、まだたまと自分は生き残れる可能性はある。

 少ない確率でも、逃げおおせてみせよう。銀は決意を胸にたまの手を引こうとして……


「うわあっ!!」


 その時、大きく艦が揺れた。

 銀もたまも、大人も含めて皆転んでしまった。

 ゴゴゴゴゴゴ、と、地揺れのような音が響き、やがて治まってきた。


「何が、起こったんだ……!?」

「うふふっ……ふふふふふ…………」

「っ!?」


 銀が起き上がると、目の前には真っ白な髪の少女が立っていた。


「A作戦は失敗。これからB作戦に移行する」

「な、何言ってるのさ白……」

「全速前進。目指すは横須賀港」

「へ?」


 全速前進。目的地は横須賀港。

 それはつまり、どういう意味かというと……


「これから潜水艦隊花園は、本土に突撃する」


 淡白に放たれたその言葉。

 だが、その一言は銀にとって死刑宣告に等しく……


「嘘だろ……」


 火の中へと爆進する潜水艦(棺桶)からは、もう、誰も逃げることはできないということだった。




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