第12話 円卓会議
「あり得ない……こんなのの何が報復だって言うの!!!!?」
机を叩く、大きな音が部屋中に響く。
ここは1号艦、会議場。円卓を囲って会議をする場所である。
紅の瞳は今までにないほどに鋭く、周りの騎士団組長たちはその様に恐れおののいた。
「団長、これからの行動は?」
その中で勇気を振り絞って話しかけた、背の高く黒髪短髪の30代前半程度の女性、遊撃を主とした部隊、紫組組長である紫。
「当然、助けにいくわ」
「ですが、今回の作戦で装備、人員も少なからず消耗してしまっています。
これから、しかも中央庁の本部がある東京に攻め込むと考えると……」
「っ……」
こげ茶色でウェーブのかかった短髪に緑色の眼鏡をしている20代後半くらいの。情報及び指令を担当する緑組組長、翠が冷静に現状を報告すると、紅は唇を噛み締めた。
「黄は……どう思おうの?」
「まぁ、間違いなく罠だろうね。ここで攻めるのは相当にリスクが高い」
先の戦いで、銀とともに研究所の突撃をした、20代中頃で金髪の女性。突撃などの、騎士団最大火力を誇る黄色組組長、黄。
「だがね、団長。ここでこれだけの女性を見殺しにするような組織だったら、それは薔薇騎士団って言えるのかい?」
「でもこのまま攻めて壊滅したら元も子もないでしょう!?」
「なんだよ翠。このまま放っておけって言うの!?」
「そうしたいわけないじゃない!でも、こう言う時こそ冷静にならなきゃいけないのよ……」
「あたしは目の前に救いを求める女性がいたら、助けたい。あたしの組全員が、そのために騎士団にいるんだ。ここで動かないんじゃ、話にならない」
「分からず屋っ……!!」
「そっちこそねっ……!!」
「やめなさいよ。喧嘩したって始まらないでしょう?」
「蒼……」
喧嘩を始めた翠と黄を仲裁したのは、黒髪ロングの20そこそこに見える女性、蒼である。
彼女の青組は後方支援、および防衛に特化しており、拠点防衛などでは要となる。
2号艦に乗り、避難民の京都行きを防衛する任務を受けていたのも、青組である。
「なんだよ、あんたはじゃあ何かいい案があるって言うわけ?」
「正解、なんてことはないわ。これは結局私たちの感情に任せるしかない。
団長、本部長は何か言っているんですか?」
「はぁ……好きにしろ、ただし死ぬな、とのことよ」
「無茶言う……」
会議は進まず、皆頭をかかえる。
「白、あなたはどうしたい?」
紅は、自分の傍に座る白組組長、白を見つめる。
白組。それは最も自由な行動を許されている組。
足りないところを補い、補強する。マルチな活躍を期待される組である。
だが、そんな白の答えは……
「行きたい人は行けばいい。行きたくない人は、行かなければいい」
「話にならないね」
蒼がため息をつき、足を放り出した。
反対に黄は身を乗り出す。
「じゃあ、あんたは行くってこと?」
「うん、いく」
「1組でも?1人でも?」
「うん、いく」
「なんだい、最年少が一番勇敢でどうするんだい?」
黄、翠を見る。
「戦闘狂の意見なんて聞いても仕方ないでしょうに」
「言うねぇ、臆病者」
「なんですって!?」
「いい加減にしなさい!!」
紅は再び机を叩き、組長たちを見据えた。
場は静まり返り、全員の視線が紅に集まる。
「多数決を取りましょう」
「……まぁ」
「妥当だね」
「ちっ……」
「それでいいです……」
「どのみち行くし」
それぞれ一応の了承を得たことで、採決は始まる。
紅は左隣を見る。
「まず、紫」
「行かないべきだと思う。戦力はここぞと言う時にとって置くべき」
「次に翠」
「私も行かないべきだと思うわ。戦力が整わないうちに行っても仕方ないでしょう」
「じゃあ、蒼」
「私個人としては、今から1日かけて部隊を整えれば、ある程度収容所から女性を救出できると考えてる。行くべきだと思うわ」
「黄……は聞くまでもないと思うけど」
「あたしはいくよ。ここで見捨てるようじゃなんのための騎士団かわからない」
「白は行くのよね?」
「行く。けど、行くべきじゃないと思ってる人は来て欲しくない。邪魔」
「へぇ……」
「っ……」
紫は冷たい目で白を見据え、翠は歯を食いしばり白を睨みつけた。
「白、いいすぎよ」
「……ごめんなさい」
白が素直に謝ると、紅は立ち上がる。
「薔薇騎士団団長として、諸君らに告げる!!」
その言葉が発せられた瞬間、全員が立ち上がる。
「我々薔薇騎士団はこれより明朝、東京収容所襲撃作戦に向けて行動する!!
直ちに各々が部隊に戻り、命令を伝え、戦闘に備えよ!!」
「「「「はっ!!!!」」」」
一斉に敬礼をし、会議室を出て行く。
白だけが、部屋に残り紅を見つめる。
「紅は、行くべきだと思うの?」
「……えぇ。もちろんよ」
「……そう」
白は立ち上がり、会議室を後にした。
「……さて、どう出るか、ね」
***
「まさか……戦争、なんてことになるのかな?」
「それは、まだわかりません」
「冷静になれば、ここは引くべきだってわかるはずだ。10万人……確かに多いが、騎士団が潰れれば女性はもうどうしようも……っ!!」
銀は自分の船室で、女性を心配するような発言をしていたことを悔いた。
たまは、そんな銀にお茶を差し出す。
「まだ、どうなるかは……」
「ううん、決まった」
だが、励まそうとした言葉はあっさりと白の言葉に上塗りされ、銀は顔を上げる。
「白……」
「報告。京都行きは延期。これからこの艦はここで駐留」
「ってことは、もしかして……」
「騎士団はこれから東京に襲撃をかける」
「そんな無謀な!いくら白で……」
銀は、この姿で白と戦ったことがない。だから、白の実力を銀が知っていてはおかしいことになる。
「何か?」
「いや、なんでも……」
「大丈夫。きっと戻ってくるよ」
「……そう、か」
「うん。それじゃあ」
白は用件だけ伝えると、外に出て行った。
「罠だ……これじゃ困る」
「はい。騎士団が負けてしまえばここは制圧され、ご主人様はもとの姿に戻る前に連邦に捕まってしまうでしょう……」
「後方支援なら……いや、僕は家隷だった設定だぞ?言うことを聞いてもらえるわけがない。第一、戦略次第でなんとかなるようなら問題じゃないんだ」
銀は頭を抱え込みうなだれる。
すると、銀の頭に優しく手が乗せられた。
「そんな選択肢を選ぶ必要、ありません」
「たま……?」
優しく頭を撫でてくるその仕草は、いつの日か、銀次郎がたまにしてきたことで。
「いつも……私が元気ない時は、こうしてくれましたね……?」
「僕、は……」
「もしもの時は、私がなんとかしてみせます。だから、そんな顔しないでください」
「それって、どうする気なんだ?」
「今はなんとも。ですが、安心してください!」
胸を張って笑いかけてくるたま。
こんな一人の少女に何ができる。彼女は銀と違って何か特別な能力を持っているわけじゃない。非常に平凡な、ただの少女だ。
そんな彼女に、銀はどうしてここまでの安心感を与えられているのか。
その時は銀自身、全く理解できていなかった。
***
————神奈川県、横須賀。
「報告します!!太平洋沖から戦闘機襲来!!その数200を超える模様!!」
「戦闘配置につけ!!一機たりとも上陸させるな!!!!」
騎士団の襲撃に備えあらかじめ配置されていた海軍。
慌ただしく迎撃準備を整えようと、怒号が飛び交う。
「斉藤!!ぼーっとするな!!」
「はっ、はい!!」
そんな中、この一大決戦を前に緊張した面持ちで立つ新人将校、斉藤圭太。
本日の初陣を共に迎えるはずだった恋人が隣にいないことに不安を覚えつつも、目の前に広がる海を見つめる。
深呼吸してから、最新式のライフルを構え、空を見据えた。
今だけは、彼のことは忘れよう。そして、目の前の敵を討ち滅ぼそう。
「——————来い!!」