第0話 光
ヒュウヒュウと吹く風に煽られ、土埃が舞った。
少女……ああ、少女は目を覚ます。
数えてはいなかったが、目の前に広がる荒涼とした世界に嫌気がさしてくる程度には、彼女は同じ場所で目を覚ましていた。
今日もまた、同じなのだろう。
瓦礫に埋もれ、灰色の空を見上げる。
朝焼けの空が青いということを、太陽が赤いということを、彼女は知らない。
ただ、この緩やかな停滞だけが、少女の世界なのだ。
「誰か、いるの?」
だから、その呼び声が、少女の存在を確認するものだということも、当然わからない。
声の方を見る。
瓦礫が邪魔だ。
退かす。
重い。
赤いものが出た。
不快。
これだから動くとろくなことがない。
でも、見たい。
だから、動く。
それを気まぐれと呼ぶのか、それとも運命と呼ぶのかはわからない。
が、ともかく少女は瓦礫を押しのけ、起き上がり、刺さる破片を引っこ抜き、声の主を見た。
————似ている。
そこに立っていたそれは、自分と形状がとても似ていた。似ていたのだが。
————違う。
何が違う?
見た目はほぼ変わらないはず。
目の色?肌の色?髪の毛の色?それとも薄い何かを身に纏っていること?
…………ああ、わかった。
その、自分に似た何かは……立っていたのだ。
覚束ない足取りながらも、足場の悪い瓦礫の上を、両の足で力強く、一歩、また一歩と歩いている。
ああ、眩しい。その姿は、地に這いつくばり空を見上げるばかりの自分と比べ、なんと美しいことか、勇ましいことか。
少女は絶望し、憧れた。
そして……何より妬んだ。
自分にないものを持ったそれに。こんなにも似ているのに、自分にはないものを持っているそれに。
そう、彼女の見た光はその人間そのものではなく、その人間が持っている、何よりも輝く……
“————自由”であった。
何度も言うようで申し訳ありませんが、この作品は差別をテーマにしています。
従って賛成反対いろんな意見があり、中には不快に感じる方もいらっしゃると思います。
文句や意見等、是非感想などに書いていただければ参考にもなりとてもありがたいのですが、この作品を読んでいくことで不快になる可能性があることだけはご了承ください。