ドラゴン、この世界のドラゴン事情を聞く
「う、うまい・・・こんなうまいものがこの世にあったっていうのか・・・!」
「いやあんた泣きながら食べてるけど、それただのリンゴと焼いた魚・・・」
人がせっかく感動してるところに水を差すなよこの野郎。
ウンディーネに食べ物を恵んでもらった俺は、この異世界でようやくまともな食事にありつけていた。
まぁルルが言ったようにリンゴと魚だけだが、それでも空腹の俺にとってはこれだけでもとてもありがたかった。リンゴがあるということは、この世界の食べ物などは、地球とあまり変わらないのかもしれない。魚に関しては大雑把に淡水魚ということしかわからなかったが・・・
ちなみに、俺がグレイウルフとの追いかけっこに巻き込まれる原因となった木の実というのがこのリンゴだった。このリンゴ、普段はウンディーネが採ってきてくれているらしいのだが、ウンディーネを起こすための火薬を切らしていて、ウンディーネを起こすことができなかったルルが我慢できずに一人で森の奥に入ったところ、グレイウルフと鉢合わせてしまったというのがことの顛末だった。そして驚くべきことにこの妖精、なんとリンゴの生っている木の場所を知らずに森の奥に入ったらしい。それでグレイウルフに追っかけられた挙句、そのとばっちりを俺が受ける羽目になったと知ったときはマジで切れかけた。その後、そもそもの事の原因が自分にあるとウンディーネが土下座してきたので、ひとまず俺も怒りを収めることにした。というかこっちの世界にも土下座があったんだな。
あと分かったことが一つあった
「おかわり」
「ま、まだ食べるんですか・・・?」
「ちょっといい加減にしなさいよ!!あんたどれだけ食べれば気が済むのよ!?」
この底なしともいえるほどの食欲だ。いや、マジでいくら食べても満腹にならない。かれこれ一時間ぐらい食べ続けてるのにだ
「あの・・・そろそろ食べるのをやめてくれるとありがたいのですが・・・これ以上食べ続けられると、貯蓄してた食べ物が食べつくされそうで・・・」
・・・さすがにこれ以上食べるのはまずいか
「これだけ食べてもまだ食べられるって、あんたの身体どうなってんのよ?」
「俺も驚いてる」
確かにこの身体になってとてつもなく腹が減ってたけど、ここまで食べても腹いっぱいにならないのは予想外だった
「うぅ・・・ドラゴンの食欲がこれほどの物だったなんて・・・」
「あたしのリンゴもほとんど食べられたし・・・」
「・・・ごめん」
「い、いえ!気にしないで下さい!また貯蓄すればいいんですから!」
俺が謝るとウンディーネが気にしなくてもいいと言ってくれた。
俺の中でウンディーネの株が上がり続けている。
「そういえば、ウンディーネは俺のことなにか知ってるのか?最初に会った時も『なんでいるんだ』って感じだったし」
「あんた自分のことなんにも知らないの?」
「少なくともこの世界で俺がどんな存在なのかは全くと言っていいほど」
「私もそこまで詳しく知ってるわけではないですよ?」
「それでも何も知らないよりはいいさ」
「わ、わかりました・・・私が知っていることでよろしいならお話しします」
こんな感じでこの世界のドラゴンについて聞いてみると、予想外の事実が。
「伝承によれば、ドラゴンは少なくとも数百年以上も昔に絶滅したと言われていました」
・・・絶滅?
「え?絶滅?」
「はい・・・で、でも、伝承ではあくまでも存在が確認できなくなったとありました。なので、まだどこかに生き残ったドラゴンがいる可能性もゼロではないのでは、とも言われていました。あなたと出会うまでは、私もドラゴンが本当にいるなんて、思っていませんでしたから」
ウンディーネはそう言っているが、俺は自分以外のドラゴンと会うのはほぼ不可能だと思っていた。俺の場合は親のドラゴンがいたわけではない。この世界でドラゴンに転生した、というだけだ。この世界のドラゴンから生まれたわけじゃないのだ。
「ウンディーネ様、そもそもドラゴンはなんでいなくなったんですか?」
ルルが疑問をウンディーネに聞いた。そこだ。そもそもなんでドラゴンがいなくなった理由が分からなかった。
「伝承にも生態については詳しく記されていませんが、成体のドラゴンは一頭でも、一つの国を滅ぼすことができるほどの力があったらしいのです。長く生きた個体なら、大陸一つ滅ぼすことも可能なのではと思わせるほど、とても強い力を持つ種族だったようなのです・・・」
「「そんなにやばい種族だったんですか!?」のか!?」
声がかぶってっしまったが、これはしょうがないと思う。自分もこの世界のドラゴンがそんなにやばいなんて思ってなかった。パワーインフレにも程がある。
「じゃあなんでドラゴンはいなくなっちゃったんですか!?そんなに強いのに!?」
ルルの疑問ももっともだ。そこまでの力を持つドラゴンが、簡単に絶滅してしまうとは思えなかった。
「・・・ドラゴンの中で闘争本能が強い個体達が、突然他のドラゴン達を襲い始めたらしいのです」
「同族で殺しあったのか・・・」
「加えてドラゴン自体あまり子供を多く産まない種族らしく、幼体のドラゴンの数もそこまで多くなかったらしいです。幼体のドラゴンでも村一つ滅ぼせるほどの力があったらしいですが・・・それでも成体のドラゴンとは比べるまでもなく非力です。そのため、当時ドラゴンに対抗するために結成された連合軍は、幼体のドラゴン達を集中的に狙い始めました。幼体のドラゴンの数が減り、成体のドラゴン達も同士討ちで弱ったところを突かれて、そのほとんどが討伐されたようです」
・・・重い。この世界のドラゴン事情が重すぎる・・・
「それにしても国一つ滅ぼせるとか、ドラゴンってすごい魔物だったのね」
「いえ?ドラゴンは魔物ではありませんよ?」
ルルの発言をウンディーネが否定した。ドラゴンが魔物じゃないというのはどういう事だろうか?
「魔物というのは基本的には理性を持たないのです。ある程度の知能を持ってはおりますが、基本的に本能だけで活動していて、同族以外の生物を見境なく襲うのです」
「でも、それだけじゃドラゴンが魔物じゃないって理由にはならないじゃないですか」
「ドラゴンの場合、他の種族だけでなく同族も襲いましたが、会話による意思の疎通は可能だったらしいのです。そういった人族以外の意思疎通が可能な生物のことを、分類上魔物とは呼ばないらしいのです」
「そうなんですか。流石ウンディーネ様!博識ですね!」
「そこまで褒められることでは・・・それに、こうして実際にあなたに会うまで、ドラゴンという生物について知識以上のことはわかりませんでしたしね。あなたが伝承にあるような凶暴なドラゴンでなく、優しいドラゴンであるということが知れて、よかったです」
ウンディーネが笑みを浮かべて、俺の方を見てそう言った。
いや、そう言われるのはうれしいのだが、俺の場合は転生してドラゴンになったから普通のドラゴンとは違うと思うし、ルルを助けたのだって自分も巻き込まれたから関わらざるを得なかったからだ。だから助けたのは実際成り行きなのだ。
「・・・いや、だからってそんなにすぐ信用してもいいのか?」
ルルを助けたのは善意からではない。あの時はグレイウルフを倒さなければ自分も危険だったからだ。
・・・だからそれで信用されるのは、いろいろと申し訳ない気持ちになってしまう。
あくまでも自分のためだったのだから・・・
「えぇ。伝承がどうであれ、私にとってのドラゴンのイメージは、こうして今お話することができているあなたですから」
「・・・そうか」
・・・そういって微笑むウンディーネの笑顔をなぜだか直視できなくて、俺はあいまいな返事して、顔をそらすことしかできなかった